第17話 4月 4日(月) 漆黒の疾駆またの名を「逃げるは恥だが役に立つ」
現在の所持能力
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④コッキーのシャーマン能力
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「部活に入ろう」
●詳細「本日は部活動説明会、色々見て回って入る部活を決めよう」
「さあマッチポイントだ! 村主公人様、そして『野性味あふれるパワーが持ち味かつ天才庭球少女コッキー・ニャンゾイ』にひれ伏せヒーロー!」
サーブの準備に入りながら俺は悪そうに「カハハッ」と笑う。ちなみにちょっと前にメイクスキルを使って悪役風の顔にしておいたのでインパクトは抜群だ。観客席からも『ええ~!? す……公人って……あの村主!?』『マ……マジかよ……入学式とはまるで別人じゃねーか』という驚きの声が聞こえてきている。
フッフッフ、そうだろうそうだろう。もっと驚け……騒げ! 凄えだろ? 見たことねぇだろ? こんな奴……うん、俺も漫画の中でしか見たこと無い。
「ちっくしょ……ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……ちくちくちくちく…ちっっっっくショーーーー!!」
「ザマピカリャアアア!」
そして、デブと出っ歯もゲームの中でしかお目にかかれないような凄惨な表情で、意味不明な雄叫びを上げている。
ポイントは40ー0、ゲームカウント5ー4、簡単に言えば俺達があと1ポイント奪えば勝利確定である。俺は横目で時計をちらりと見る。
「残り一分、enough(十分)だな」
「ン? ドウシタノ?」
振り返るコッキーに俺は「なんでもない」と笑ってサーブを相手コートにぶち込んだ。
『キラリーン☆』
「ウラアアアアッ!」
デブが強打で返す。俺も燕さんも手加減しているわけではないのだが、男女の差、そしてなにより急造ソウルメイトの俺とは体の相性が悪いらしく40%の力しか出せないらしい。
それでも俺達が圧勝しているのには理由がある。
『いくよコッキー!』
「シニサラセー!」
瞬間移動レベルのスピードで今度はコッキーの体に憑依した燕さんがデブの打球をノーバウンドでコートの端、誰もいないところに叩き込む。燕さんいわくコッキーの体なら100%中の100%の力が出せるらしい。
「ザッマアアアアアアス!」
しかし、敵もさる者。皇樹高校テニスの副部長ラヴィ・アニータがなりふり構わず飛びついた。だがこれはラケットに当てただけ、力なくフラフラと上がった絶好のチャンスボールとなった。
「コッキー! ラストだぶちかませ!」
「マカセテ!」
コッキーはグッとしゃがみこみ、飛ぶ。相手に体勢を立て直す暇を与えないジャンプスマッシュだ。観客の視線がコッキーに集まる。よし、ここでスキル発動!
「パートナーの晴れ舞台だ。スキルの大盤振る舞いで行くぜ!」
俺は手首から糸を出し一瞬で編み上げ成形、それをメイクスキルで光を綺麗に反射するように仕立て上げ、学者の頭脳で最高のタイミングをはじき出す。そしてリーナマリーの身体能力でそれを投げ、コッキーの背中に貼り付けた。
観客の誰かが『綺麗』と呟く。それは天窓から差し込む太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
観客の誰かが『天使みたい』と呟く。そう、俺がコッキーにプレゼントしたのは特別性の天使の羽だったのだ。
「クタバレヤー!」
デブと出っ歯すら見惚れていた天使の一撃がズドンとコートを駆け抜けた。
勝負あり。
6ー4で俺達の勝ちだ。そして最後の一芝居の始まりの合図である。
「グオオオオオオ!」
俺は両手で顔を覆って悶え苦しみ始めた。
「グワー! しまったテニスに集中するあまり『純粋かつ高潔な天使コッキー・ニャンゾイ』の封印に綻びが……あ、悪魔将軍様ァ……」
俺は仰向けで倒れ込み。手に忍ばせていたメイク落としシートで悪魔風の顔から本来のハンサム顔に戻した。
「キミト!」
ここで援軍到着、扉をバーンと開いてコートに入ってきたのはリーナマリーだ。すぐさま俺に駆け寄って抱き起こす。コッキーも近くに来て心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「なんてことなのー、キミトはコピー能力の副作用でー、えーと闇の人格に体を乗っ取られる事がたまにあるというのにー」
リーナマリーは若干頬を染めながら俺の指定したセリフを喋る。だが演技が下手だ。薄目を開いた俺は「バレたらどうするんだよ」とリーナマリーを見つめる。
「ギミドオオオ……ダイジョウブ!?」
いやなんで事情知ってるはずのコッキーが涙を流してるんだよ。するとコッキーの背後で燕さんがケラケラと笑っているのが見えた。あんにゃろう適当なこと吹き込みやがったな……しかし考え方によってはこれでバレる可能性が低く……
「この状態をもとに戻すためには古来より伝わる方法しかないわね」
おや? リーナマリーが俺の指示してないセリフを喋り始めたぞ?
「ド、ドウイウ方法?」
コッキーが大真面目な顔でリーナマリーに質問する。リーナマリーの頬が朱に染まった。
「そ、それは……キ、キ、キ、キス……よ」
「キス!?」
燕さんのように「マー」と口を抑えるコッキー。これは……ピンチじゃな? 俺はすぐさま起き上がり。一芝居の延長戦を始めた。
「クックック、もう一人の闇の人格が消えたおかげで隠されていた漆黒の人格たる超悪魔な俺が目をさますことができたぜ! この喜びを表現するために外を走り回りたい!!!!」
「あ、待ちなさいキミト!」
俺は「グワッハッハッハッハ!」と大声で笑いながらテニスコートから逃げ出したのだった。
◆◆◆◆◆◆
「病院出たタイミングでマホから『5分以内にテニスコートに集合、それまでにこのセリフ覚えてきてね』ってメールが来た時は何事かと思ったわよ。全く私だったからすぐに対応できたものの……」
建物を出て数秒してリーナマリーに追いつかれた俺は、「」右腕をガッチリとホールドされながら部活説明会の会場を歩いていた。
「セリフ覚えた割には最後らへん変なこと言ってなかったかぁ?」
「そう? 気のせいじゃない?」
あっけらかんと受け流すリーナマリー。「おいおい」と思いながらも助けられたのは事実なので深くは追求せず、大人しく引きづられていると、部活説明会の会場を抜けてしまった。
それでもリーナマリーはスタスタと歩き続ける。
「どこに行こうというのかね?」
「これから三年間お世話になる予定の所よ。着いたわ」
「こりゃまた一癖も二癖もありそうな建物で……」
やっとこさ右腕が開放された。俺は肩を回しながら目の前に建っている立派な建物を見上げる。昭和……いや大正モダンを感じる侯爵の公邸といった趣だ。その入口の脇に看板がかかっていたので声に出して読んでみる。
「皇樹高校模範生徒衆自治会、なんだこりゃ?」
「通称『皇衆会』早い話が生徒会ね。1~3年でカテゴリートップの生徒は必ずここに所属することになってるのよ。もちろん部活とのかけ持ちもオッケーだから安心して」
そう言ってリーナマリーは重厚な扉を開けて中に入っていった。
「皇衆会か……本当にこの学校は色々と楽しませてくれるぜ」
■目標「部活に入ろう」
■経過「何が出るかな何が出るかな」
ザマス・アニータ
「THE・補足ザマス! ザマピカリャアアア!とは気合、気持ちとしてのかけ声で電撃を飛ばしたりはしないザマス。ただ高速移動はスキルとして持っているザマス」
「ってなんザマスこの名前欄!? ラヴィ・アニータ、間違えるなザマス!




