第2話 3月28日(月) いきなり、そして伝説へ…
現在の所持スキル
①そこそこのヒーローの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④そこそこの料理人の調理
⑤そこそこの魔法使いの魔法
●目標「入学試験でトップを取れ!」
●詳細「ヒーロー養成高校『皇樹高校』入学試験をトップで通過し授業料免除を勝ち取れ」
『それでは、戦闘カテゴリーの最終試験を始めます。対戦者はゼッケン1番西園寺リーナマリー、そしてゼッケン801番村主公人。試験方法は5分一本勝負と致します』
「お互いの体につけたターゲットに赤いボール当て合うとかじゃないのか。さすが超実践的ヒーロー養成学校だな……」
俺とリーナマリーは体育館のど真ん中で向かい合っていた。皇樹高校の最終試験はトップ2人の直接対決である。
「公人くーん☆ファイトー☆」
マホが観客席で手を降っている。俺は苦笑しつつも手を上げて応えた。
『何だアイツ……』
『超羨ましいでヤンス』
『ってか妬ましいデブゥ』
少しだけ周りの男子が敵に回ったような気がした。
まぁ俺のスキルが公になる時に比べたら屁でもねぇけどな。最悪の場合、高校全員が敵になって三年間ぼっち確定ってことも考えられる。
「さて、それじゃあやるとしますか!」
俺は意識を切り替えて、頭の中でストップウォッチを押した。
俺は準備運動をしながらリーナマリーの様子を観察する。試験開始の時から変わらず西洋人形のような無表情を『作っている』。それにしても……先ほどのモブの言葉じゃないが美人だよなぁ。ボケーっと見ているとリーナマリーと目があった。
「なに見てんのよ? あ、まさか私に一目惚れね!?」
リーナマリーは顎に手を当てて「はっはーん」とか言い出す。俺はボケーッからポカーンへと表情が移行する。そんな俺の変化を気にせずリーナマリーが話続ける。
「あそこでチンチクリンの彼女が応援しているというのに彼氏をメロメロにしてしまう私……罪づくりよねぇ。そう思わない?」
「いや全く」
自分でも驚くほどそっけない抑揚の言葉が出てきた。それを聞いたリーナマリーの頬が赤く染まる。
「な、なんでよ!?」
「なんでも糞もあるかアホ! 俺はトップを取りたい、お前は現在のトップ……ドゥーユーアンダースタンド?」
「うわ何その日本語イングリッシュ、いい? もっとユーはこう発音するかしないかの感じで……」
「いや重要なのはそっちじゃねぇよ。今重要なのは俺とお前は敵同士ってことだ」
「……へぇ、アンタ自分が『私の敵になれる』と思ってるんだ?」
リーナマリーがマスケなドヤ顔から一転、プロのヒーローとしての顔を覗かせる。その殺気は先程「チンチクリン」と言われたマホから放たれる殺気に劣らない濃密なものだった。
しかしここで「いいえ違います」というほど俺も大人しい性格はしていない。
「当然敵になれると思ってるぜ? それどころか勝つビジョンが見えるまであと2秒だ」
「そう、ならその2秒の間に勝負をつけてあげるわ!」
その言葉の間にリーナマリーの姿が消えた。そして今度は後ろから声がした。
「悪いけど私は誰にも負ける気はないの……もちろんパパにもね!」
後ろでゴゥっと音がする。リーナマリーが蹴りで俺の背中でも狙っているのだろう。だが俺はニヤリと笑ってバク宙で避けた。まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。リーナマリーが「なっ!? アンタの実力だったら今のでノックアウトだったはず!?」と声を出しながらバランスを崩す。めっちゃ早口だな。
「悪いが嘘をつかせてもらった……勝てるビジョンを見るための三分までの残り時間は2秒じゃなくて1秒だったんだよ!」
俺はそのまま蹴りでリーナマリーの後頭部を狙う。容赦はしない。っというか容赦なんてしようもんなら一瞬で俺は負けるだろう。なぜなら俺のスキルの名前は『コピー』これは対象を三分見続けることによって相手と同じ能力を得ることができるのだ。
しかし、今回の相手は相性最悪だ。
「驚かせてもらったけど……避けれないわけでもないしっ! 反撃できないわけでもないわっ!」
リーナマリーはフィギュアの選手かよってくらいの速度で体を回転させ俺の足に自分の足を合わせる。その速度と威力は、先程よりさらに鋭く強くなっていた。これがリーナマリーのスキル『成長』である。スキルの内容は単純、しかし強力だ。リーナマリーは1日、1時間、1分、1秒毎に能力が上がっていく。
そのため俺との相性は最悪なのだ。
一瞬の攻防を終えた俺とリーナマリーは一旦距離をとった。
「へぇ……あれで折れないなんて結構やるじゃない」
「そりゃもう牛乳配達のバイト中に隠れて牛乳を飲んでたからな」
「それ胸を張ることじゃないでしょ……」
「そうかな?」
俺は「ヘッヘッヘ」と笑う。しかし、内心では焦っていた。やばい、奇襲も駄目だったし今の攻防で足が痺れた。もう一回攻撃が来たら……負ける。
「それにしてもアンタ……えーと名前は?」
「さっきレフェリーが紹介しただろ? 公人だ。村主公人」
「英国スパイみたいな名乗り方しないでよ……よしキミトね。覚えたわ。ねぇキミトってもしかして相手の能力をコピーできるの?」
俺は内心で舌を巻きながら「まあな」と答えた。たったあれだけの攻防で俺のスキルを読み取るとは、コイツ頭も回るんだな……話してる感じはアホっぽいけど。
「そう……わかったわ」
そう言ってリーナマリーはスッと手を挙げる。それを見た俺は身構えた。何しろ相手はあのリーナマリーだ。あそこからスペシウムな光線を出してきても不思議じゃない。
「棄権するわ」
『へ?』
俺と会場の心が一つになった。しかしリーナマリーは「言うことは言ったわ」という態度でさっさと踵を返して体育館を去っていく。
「お、おいどこへ行くんだよ?」
「そんなの決まってるじゃない。人気カテゴリーの最終試験会場よ」
「格闘カテゴリーの最終試験はどうするんだよ!」
「しつこいわね! アナタに譲ってあげるって言ってんの!」
リーナマリーは最後に「フフッ」と微笑んで体育館を出ていった。後にぽつねんと残された俺は「なんだんだか」と頭をかいていたが、レフェリーに手を掴まれてそのまま上に持ち上げられる。
『リーナマリー選手棄権のため今年の格闘カテゴリーのトップは村主公人に決定しました!』
しかし、消化不良のため拍手はまばら、俺の目標は達成したものの「なんだかなぁ」という表情、唯一マホだけが「おめでとー☆」と大きな花束を魔法で出して祝ってくれた。
■目標「入学試験でトップを取れ!」
■結果「過程には納得いかないが格闘カテゴリーでトップになって無事に授業料免除を勝ち取ることができた」
西園寺リーナマリー
「コピー能力を持った村主公人……か、楽しみなのが現れたわね」
「さーて、人気カテゴリーではしっかり勝たないとね。相手は……サイボーググラビアアイドルの樫原安里か。まあ楽勝ね」