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第15話  4月 4日(月) テニスの公人様

現在の所持能力

①リーナマリーの身体能力

②そこそこの学者の知能

③そこそこのアイドルのメイク技能

④コッキーのテニス技術?

⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力

●目標「部活に入ろう」

●詳細「本日は部活動説明会、色々見て回って入る部活を決めよう」


『0ー15!』


 試合の流れは依然としてデブと出っ歯が握っていた。


「コノッ!」


「HAHAHA! さっきまでの威勢はどうしたチビ助!」


 コッキーのサーブをデブが楽々コートの隅に返す。大口叩くだけあって強いんだよなコイツラ。


「……ッ!」


 徹底してコッキーから遠い場所にボールを打つ。単純明快だが有効な作戦だ。次の一打の場所が分かっていても失点するというのは精神的にキツイ。


「肉体も精神も折りに来たか……」


 最後列に座っていた俺はスッと立ち上がり観客席の中をコートに向かって降りはじめた。


 観客席の中程で「公人くん!」と声が聞こえた。振り返るとピンク色のラケットが俺に向かって飛んできていた。俺は「サンキューマホ」と言ってそれを受け取る。少女用ラケットを俺が使うってのは絵面がひどい事になるのだが、四の五の言ってはいられない。


「何しろもっとひどい目に合ってる奴が目の前にいるんだからな」


「シマッタ!」


 もはや体力の限界だったのだろう、返球したコッキーがバランスを崩して倒れた。フラフラと上がったボールをデブが待ち受ける。


『キャアアアアアアアアアアア』


 観客席から悲鳴が上がる。デブがスマッシュでコッキーを狙うのは誰の目にも明らかだった。コッキーも倒れたまま頭を両手で覆う。


「HAHAHA! 一年にしちゃ大したもんだが3歳からテニスを始めたテニス歴15年の俺に喧嘩を売るには早すぎたナァッ!!」


 ズバアアアアアンとコッキーの顔めがけて打球が飛ぶ。


「KO狙いとかテニヌかよっ!?」


 マホの「危ないっ!」という悲鳴よりも早く俺の体は動いていた。一瞬でコッキーの前に立ちふさがり、渾身の力を込めてデブのスマッシュをダイレクトに打ち返す。


『キラリーン☆』


 ボールは出っ歯の顔の真横を通過しダァァァン! という音を立てて相手コートに着弾した。


『………………』


 一気に静かになった会場の中で、後方のネットに突き刺さってキュルキュルと回転しているボールだけが音を立てていた。


 やがてボールの勢いが死に、ポトリと地面に落ちたところで『うおおおおおおおおおおおおお!?』という歓声が会場を揺らした。


『なんだアイツ!?』『突然乱入してきたぞ、豪鬼か!?』『か、かっこいいタル~!』


 その音の波をかき分けるようにデブと出っ歯がネットに近づいてきて凄む。


「な、なに者だてめエ!?」「ずるいザマス! 卑怯ザマス!」


 俺はそれを無視してコッキーの頭をつついて「大丈夫か?」と声をかける。するとコッキーはつつかれた感触を何と勘違いしたのか「ウッワー! ボール当タッタ!」と言ってコートを転がり始めた。


「おいおい、んなわけが」


「イタイヨー!」


「落ち着けって……」


「オーマイゴットダヨー!」


「…………せいっ!」「ムギョッ」


 俺はローリンガールのほっぺたに狙いを定めてラケットのガットで抑えつけて止めた。そのまま顔を近づけて「落・ち・着・い・た・か?」と一音一音えぐりこむように問いかける。コッキーは「ウ、ウン、落チ着イタ! 落チ着イタヨ!」と頷いた。


「よし、立てるか?」


 俺はコッキーのほっぺたからラケットを離して手を差し伸べる。コッキーはポカーンとしたあとニッコリと微笑んで手を取った。


「……ン、大丈夫! アリガト!」


 立ち上がったコッキーが服の汚れを落とす。うーん、それにしても小さい。マホも身長が高いほうじゃないがコッキーはそれよりも5センチは小さい。並んでみると俺くらいの身長でも犯罪的だ。


「よくもまあこんな小さな子をいたぶれるもんだな?」


 俺はネットの向こうで尚もがなり立てているデブと出っ歯に軽蔑の視線を向ける。コッキーが「チッチャクナイヨ!?」と抗議してるが無視だ無視。


「ヨーヨーヨーヨー! 勝手にコートに入ってきて栄えある皇樹高校テニス部の部長であるドンキー・ゴンザレス様を睨むとはどういう了見ダ!?」


「そうザマス! 卑怯な行いはお天道さまが許しても副部長のアチシ、デイジー・アムロードが許さないザマス!」


「クッパだかピーチだか知らねぇがピーチクパーチクうるせえ糞野郎共だな。俺は遅れてきたコイツのパートナーだ。文句あるか?」


 俺がキレられる筋合いはないのだが、どうやらこのデブ達はとても幸せな思考回路をしているらしい。ネットがなければ襲い掛かってきそうな勢いでブヒブヒ喚く。


「一年坊主のくせに……何様だテメェ!?」「そうザマスそうザマス! パートナーだと言うのなら名を名乗るザマス!」


「テニスの公人様だよ」


 俺はピンク色のラケットでデブ達を指して言い放った。


「…………ブホッ!」


 デブが噴き出した。隣の出っ歯も歯の隙間から空気を漏らしまくっている。


「HAHAHAHAHAHAHA! 聞いたかいエムロード!?」


「ええ聞いたわゴンザレス! キミトオブテニスですッテ! フヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!」


「わざわざめっちゃ良い発音の英語に直すなよ……コラッそこ! 笑うな!」


 俺は隣で腹を抱えているコッキーに注意する。


「エー?」


「『えー?』じゃない。あとどさくさに紛れてバナナ食うな! 全く誰のためにこんな『キラリーン☆』とかいう効果音が鳴るクソダサイラケットで……」


 観客席の方から「は?」とマジカル殺気が飛んできたので俺は慌てて言い直す。


「……超かわいいラケットで助けに来たと思ってんだよ」


「ア、ソノラケット……マホ!?」


 コッキーはようやく俺の持っているラケットが誰の物であるのか気づいたようだ。


「おう、コッキーの友達の代わりに俺が助けに来てやったってわけだ」


「へー、キミト強イノ?」


「おうめっちゃ強いぞ。テニス歴は3分だがな」


 俺の「3分」という単語を聞いて爆笑していたデブと出っ歯の笑いが更に大きくなる。


「オイオイオイオイ俺の耳には特大の耳糞でも詰まっちまったのカ? 今あのアホ乱入者はテニス歴3分と言ったカ?」


「アチシにもミニッツと聞こえたザマス!」


 外国人のよくやるヤレヤレといったポーズを取って「とんだプリンスオブテニスだゼ」とデブが苦笑した。しかし、そう言われることはホリエモン風に言えば「想定の範囲内だ」


「ほー、テニスってのは経験年数で勝負を競うスポーツなのか? 初めて知ったぜ」


 デブが「グッ」と声を出した。俺は畳み掛ける。


「2対1で寄ってたかって相手をイジメても良いスポーツでもあるのか、いやはや俺の知らなかったことばかりだ。紳士のスポーツってのは奥が深いもんだぜ」


 デブは「グヌヌヌヌ」と唸っていたが、やがてヤケクソ気味に地団駄を踏みながら大きな声で喚き散らした。


「うるせーナ! そんなに言うんだったら教えてやるヨ! コイツは悪魔の子、ダークヒーロー側の人間なんだヨ!」


 デブの発言で会場がシーンと静まり返る。それを見て俺は「なるほどな、観客が悲鳴を上げるだけでコイツラを非難しなかったのはコレが理由か」と納得した。


 だが納得したからと言って「はいそーですか。それじゃあ後は煮るなり焼くなりお好きにどーぞ」と言ってコッキーを見捨てるような俺ではない。


「へぇ、そうなのか?」


 俺は横にいるコッキーに向き直り、なるべく軽く問いかける。


「違ウモン! コッキー悪魔ジャ無イモン!」


 コッキーは首をブンブンと横に振る。


「ハッ嘘つけ! だったらその気持ち悪いスキルをどう説明すんだヨ!」


「エ?」


 ほぼ真横からデブの声と共にズドオオンという打球音が聞こえてきた。あろうことかデブがコッキーの顔めがけてサーブを打ったのだ。


「なっ!?」


 突然の出来事に俺も反応が遅れる。ヤバイ、このままじゃコッキーのコメカミに直撃だ!


「……ッ!」


 スパアアアアンという音が会場にこだまする。コッキーのコメカミに直撃した音では無い。コッキーが死角から来たボールを的確に打ち返したのだ。


 見えていたのか? いやそれにしては打ち返したコッキー自身がビックリしてるし、そもそも「エ?」とか言っていたので偶然振ったら当たったというわけでもないだろう。


 いやそれ以上に驚くべきは、『一瞬だけコッキーの後ろにテニススーツに身を包んだ女性の姿が見えた』ような……つまり……


 返ってきたボールをキャッチしたデブが「どうだ」と言わんばかりに手を広げて会場にアピールする。


「見たかヨ! まるで悪魔に操られたかのような動きダ! コイツは悪魔に魅入られた悪魔憑きダ! これを悪魔の子と呼ばずしてなんと言うんダ!?」


「チ、違ウモン……」


 デブを無視して俺はしょんぼりしているコッキーに小声で話しかけた。


「コッキーは巫女なのか?」


 コッキーが「ミコ?」と首を傾げている。俺は「あー」と頭をポリポリかきながらコッキーにもわかる言葉を探す。


「イタコとはちょっと違うな……あ、シャーマンだシャーマン!」


「シャーマン?」


「シャーマンってのはな……えーっと……霊の力を借りて悪を倒すヒーローだ」


 少し語弊があるがコッキーを喜ばせるべく俺は大げさに表現する。


「HERO!? コッキーHEROナノ?」


 コッキーの目が輝きを取り戻した。俺は「ああそうだ」と頷く。


「だが今コッキーには悪魔の子というレッテル貼りがされちまってる。そこをどうにかしないとな」


「悪魔に屈するわけにはいかなイ! イエス様が石をパンに変えなかったように、俺達の意志も悪魔に捻じ曲げられてはいけなイ!」


「その通りザマス! そんな悪魔を部に入れるわけにはいかないザマス!」


 俺はなおもコッキーが悪魔だと喧伝しているデブを睨む。出っ歯も加わって耳障りなことこの上ない。それにしても何だってコイツラはたかが部活説明会でこんな必死になってんだか……


「そして、そんな悪魔にかどわかされて結ばされた約束なんて無効ダ! そうは思わないか皆!?」


「そうザマスそうザマス! 確かに最初負けたら副部長の座を譲ると言ったザマスが悪魔の子なら話は別ザマス!」


「……あぁなるほど、そういうことか」


 俺にもやっとこのデブと出っ歯がここまでムキになっている理由が分かった。要するに既得権益を守りたいがために新興勢力コッキーにレッテルを貼ってノーゲームを訴えてるわけだ。


 俺は「ふーむ」と考え込む。レッテルを張る輩に対しては二種類の対策方法がある。1つは力づくで黙らせる方法。しかしこれは被害者という立場を積極的に活用しそうなコイツラには有効ではない。


 となると、方法はもう一つの方に限られる。


「おいコッキー少し耳貸せ」


 コッキーは俺のことを信用しているのか素直に耳を貸してくれた。


「これから俺の言うことに話を合わせろ。いいな?」


 コッキーはウンウンと頷く。俺はニヤリと笑ってコッキーの頭を撫で「よーし」と伸びをして、会場の屋根を吹き飛ばすような大声で言い放った。


「クックック……フハハハハハーッハッハッハ!!! バレちゃ仕方ない! そうさ! 何を隠そう俺がコッキーを操っている大悪魔だ!!!!」


■目標「部活に入ろう」

■経過「さーて、それじゃあレッテルの上にレッテルでも貼りますかね」

ドンキー・ゴンザレス

「なんて見事な三段笑い、アイツきっと八神庵の親戚かなにかダ」


「しかもラケットピンクだし『キラリーン☆』とか言うし超怖イ……」


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