第13話 4月 3日(日) 皆も描こう包囲殲滅陣
現在の所持スキル
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④そこそこの料理人の調理
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「皇樹高校構内を見学しよう」
●詳細「リーナマリーと先輩が皇樹高校を案内してくれるらしい。お礼にこちらは朝食でも作っておこうかね」
「え、えーとお食事ですか?」
リーナマリーがちょっと戸惑ったように聞き返す。そりゃそうだ。まだ10時を回ったところで昼食には早すぎる。
「そうじゃ、なにしろ朝から何も食っておらんでなぁ」
ちょっととぼけた好々爺のように虎牙は微笑んだ。
「……」
それとは対象的に俺は無表情で虎牙を凝視している。俺の頭の中で警鐘がガンガン鳴っているのだ。俺の直感が「コイツの表情は偽物だ」と言っている。この勘は無能力者時代にいじめられていた経験から得たもので、今まで外れたことはない。
「了解いたしました。それではご案内いたします」
俺が「気」をつけろ?と言う前に、張り詰めていた表情を弛緩させたリーナマリーがクルリと虎牙に背を向けてしまった。俺が「バ」カ野郎と言おうとしたが間に合わない。
「全 て 見 せ た な ?」
ズンッという音が聞こえた。
表情、態度を全てを豹変させた虎牙の右腕がリーナマリーの背中を貫いたのだ。
「てめぇっ!」
手首から蜘蛛の糸を飛ばす。糸は真っ直ぐ飛び虎牙の足に絡みついた。生半可な刃物じゃ切れない糸だ、このまま一気に引き倒す!
(スパッ)
俺が下半身にグッと力を入れて引こうとした瞬間、その糸は雪夫の持っていたナイフによって容易く切られてしまった。
「危ないなぁ」
「グッ!?」
体勢を崩した俺は雪夫に腹を蹴り飛ばされ3メートルは吹っ飛ぶ。向こうで腕を抜かれ支えを失ったリーナマリーがドサリと倒れた。
「どんなものでも切り刻む超高速振動ナイフだよ……それにしても野党第一党の党首様に手を出すとは皇樹高校の生徒は野蛮だねぇ」
雪夫がヒッヒッヒと笑う。
「チッ、女の子を後ろから襲う変態オヤジとその腰巾着には言われたくねぇな」
俺は状況を分析する……までもなく圧倒的に不利だ。竜王と並び立つ実力者の虎牙に厄介な武器を持つ雪夫、そして二人の足元にはリーナマリーが転がっている。とにかくまずアイツラの横で倒れ込んでいるリーナマリーをどうにかしなければ……
「奪えたかい?」
「上首尾じゃな」
しかし、俺の焦りとは裏腹に虎牙と雪夫は背を向けた。俺は戸惑いつつも二人に「お、おい!」と声をかける。
「なんだい雑魚ヒーロー君?」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべた雪夫が振り返る。
「早くオナゴの手当をしてやるがよい」
振り返りもせず虎牙が答える。見るとリーナマリーが「う……ん……」とうめき声をあげている。俺はすぐさま駆け寄って抱き起こした。
「大丈夫かっ!?」
大丈夫なわけ無いだろ! 腕が胴体を貫通したんだぞ! ほら、俺の手が見る見る赤く染まって……いかない? 俺は「あれ?」と首をかしげる。
「雑魚ヒーロー君に良いことを教えてあげるよ」
戻ってきたのだろうか後ろから雪夫の声がする。影から察するに両手を挙げてヤレヤレといったポーズを取っているようだ。
「キミは政治家を舐めすぎだよ。ニコヤカに握手をして別れた相手の悪口を30個スラスラ言い募ることができるのが政治家って人種さ。そんな政治家の中でも党首というのはとびきりの曲者揃いなんだ。話す時は最低でも裏の裏のそのまた裏を読んだほうが良い。さらに言えば相手に体の裏を見せるなんてとても愚かな行為だよバカ雑魚ヒーロー君」
「てっめええええええ!」
「おお怖い怖い『ここまで』殺気が届いてくるよ」
「なっ!?」
俺が振り返ると、先ほどまでそこにいたはずの雪夫が遠く離れた、虎牙の横に立っていた。どういうことだ? 鳩山 雪夫は無能力者じゃなかったのか!?
「クックック、バカ雑魚無能ヒーロー君には少し教育をしてあげよう。『この雨』で少し頭を冷やすと良い」
混乱している俺を見て雪夫が笑う。そして指をパチンと鳴らした。それを合図に上空からドスンドスンドスンと顔のないノッペラボウの人型ロボットが降ってきた。
「本日は快晴、しかし所によりロボの雨が降るでしょう……ヒャーッハッッハッハ!」
「つまらないギャグを……」
「ん……キ……ミト?」
俺の腕の中でリーナマリーが目を覚ました。俺が「大丈夫か?」と顔を覗きこむ……するとリーナマリーの顔が鬼灯のように赤くなりワタワタしはじめる。
「な、なによそんなにマジマジと見ちゃって? ま、まさか本格的に惚れたの!?」
そしてリーナマリーは俺の腕から離れて『何事もなかった』ように立ち上がった。
「は? え? へ、平気なのか!?」
それを見て口をアングリと開ける。
「平気って何がよ?」
「いやだってお前、虎牙に背中を貫かれてさっきまでぶっ倒れてたんだぞ!?」
リーナマリーは「そうなの?……言われてみればたしかにちょっと記憶が飛んでるわね?」と首をかしげている。
「まさか……覚えてないのか?」
困惑する俺をよそにリーナマリーの顔がキッと引き締まった。
「ええ、でもこの状況はマズイってことはわかるわ」
ロボは勢いを増し、ゲリラ豪雨のようにドスドスドスドスと降ってきている。その豪雨の向こう側で雪夫が「ヒャーッハッハッハ」と馬鹿笑いを上げている。
「僕ちんは戦力の逐次投入なんて愚策はしないぞ! 相手がスリーハンドレッドだろうが二人だろうが鳩山エレクトロニクス製のロボの全力投入だ! 調子こいたバカ雑魚無能カスヒーロー共をぶっつぶせえええ!」
「アホみたいな政策打ち出しそうな名前の割には戦術はまともだな」
感心している俺の横でリーナマリーがイライラと足でリズムを刻んでいる。
「アイツ……むかつくわね!」
横から音が聞こえなくなった……と思った瞬間、リーナマリーは雪夫の一歩前まで移動していた。はええな、時を止めるスタンドでも使ったのかよ。
「ヒッヒッヒ……僕ちんに恥をかかせた事を後悔するといいさ!」
しかし、雪夫の馬鹿面に拳がめり込む直前でフッと姿が消えた。
「……どうやら瞬間移動を使ったみたいね」
未だにドスドスドスドスと音を立てて降り注ぐロボの向こうから、リーナマリーの呟きが俺の耳に届いた。どうやらまた音の反響を計算したらしい。
「鳩山を金星までふっ飛ばすのはまた今度にしとけ。とりあえずコイツラ倒すぞ」
「……本当にそのスキル便利ね」
俺の声が聞こえたのだろう、リーナマリーが呆れたようにこちらを見ている。そう、この音の反響を読む技術は、先ほどから3分間リーナマリーの事を見ていた俺もできるのだ。俺はヘッヘッヘと笑いながら手をヒラヒラさせる。
「犬笛に咽び泣く蜘蛛男みたいに糸も出せるぞ。さすが皇樹高校、そこらの生徒でも粒ぞろいだぜ」
「それでどうするの? 1体でも逃したらめんどくさいことになるわよ?」
俺は「そうだなぁ……」と言って相手を分析する。
ロボの種類は鳩山 雪夫が社長を務める鳩山エレクトロニクス社製の戦闘ロボ『POPPO48型』の上位機種だ。『POPPO48型』でも並のヒーロー以上の攻撃力を誇っていたが、その上位機種ともなると更なる強化がされているのは自明の理である。腕から繰り出されるマシンガンの威力は、やすやすと人を吹っ飛ばす威力を持つ。
「……よし!」
頭の中に、勝利の絵は描けた。あとは戦陣を敷き、的確に戦闘状況を判断、そして向こうにいるリーナマリーと力を合わせるだけだ。
「俺にはあるぜ。この魔物のロボットを一匹残らずぶっ潰す、勝利の絵を描く力がな」
「勝算はどれくらいあるの?」
「俺の作戦どおりにリーナマリーが動いてくれれば、九割ほどだ」
俺の言葉にリーナマリーが「あっそ、それじゃ任せるわ」と頷いた。
相手はたしかに強い。だが栄えある皇樹高校の入学試験の『戦闘カテゴリー』をワンツーフィニッシュした俺とリーナマリーはそれ以上に強い。となると取るべき戦術は1つだ。まずは俺が周りに糸を張り敵を包囲する。
そ し て 相 手 を 圧 倒 的 な 暴 力 で す り 潰 す だ け だ。
包囲殲滅陣。
これが、俺の描いた勝利の絵だった。
俺は手首から出る蜘蛛の糸の調子を確かめ、ロボを撃滅する準備を整える。向こうでロボの数を数えていたリーナマリーが声をあげる。
「彼我の戦力差は2対5000と言ったところね」
「一騎万千の俺達にとっては少なすぎらぁ」
戦闘開始は定石どおりに、このような展開を見せた。
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俺→ロボロボロボロボロボ(*^◯^*)ロボロロボボロボロボ←リーナマリー
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やがて戦況はこのような図に変貌した。
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俺→ボロ('ω`)ボロ←リーナマリー
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包囲殲滅陣の完成であった。
こうして、俺とリーナマリーで5000のロボットを迎え撃った戦いは終結を迎えた。こちら側の被害は当然ゼロ、リーナマリーも貫かれた場所に痛み等は無いようだ。その後、西園寺 竜王が不在だったため、職員室にいた先生に事の顛末を説明した俺達はそこでお役御免となった。
この戦いで俺が採用した戦術・包囲殲滅陣は「別にこれ戦術でもなんでもないよね」と言われ特に後世まで高く評価・研究されることはなかった。
まあ、そうなるな。
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ちなみにリーナマリーは「大丈夫」と言い張っていたが、「……首に鎖をつけてでも病院に連れていく」と先輩が言っていた。
■目標「皇樹高校構内を見学しよう」
■結果「なんだかんだでそこそこ見学することができた」
西園寺リーナマリー
「清い乙女の体に穴を開けるなんて……サイッテイな男ね!」
「キミト、何笑ってるの? ハァ!? わ、私が年齢=彼氏いない歴なんてそんな事あるワケないじゃない! 処女賭けてもいいわよ!?」




