第12話 4月 3日(日) ~リーナマリーと俺と、時々、野党の党首~
現在の所持スキル
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④そこそこの料理人の調理
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「皇樹高校構内を見学しよう」
●詳細「リーナマリーと先輩が皇樹高校を案内してくれるらしい。お礼にこちらは朝食でも作っておこうかね」
「朝食作って損したなぁ」
俺は空を見上げた。ああ、空が青い。まるで今の俺の心境のようだ。視線を落とすとそこには輝くものが2つある。
1つは一番前を歩くリーナマリーの金髪だ。太陽の光を吸収して柔らかに輝いている。後ろ姿からでも美人だと分かる。嘘みたいだろ、こんな綺麗な後ろ姿なのにオークに襲われたら返り討ちにするんだぜ。
さて、と俺はもう一つの光源に目を移した。問題なのはこっちである。リーナマリーの後を追うその光源は「太陽などに負けるものか」と強烈に反射している。先ほどから無言を貫いている攻名党の党首である東郷 虎牙の頭だ。
俺がリーナマリーについてきた最大の理由は何と言ってもこの虎牙である。3分以上視界に捉えているのだが全く特殊能力をコピーする事ができない。こういう場合は『対象が能力を持っていないか』それとも『俺の天敵な能力か』の二択だ。果たして虎牙はどちらなのか、それを見極めるために俺はついてきているのだ。
その横で落ち着き無くあちこちをキョロキョロ「あれはなんだこれはなんだ」と尊大な態度で質問しているのは民親党の党首である鳩山 雪夫だ。こちらは特殊能力を持たない紛うこと無き一般人である。ただし、日本有数の鳩山財閥を束ねる財界人であるため、その点では逸般人でもある。
「この学園に机は何個ある? ここの食堂の一番人気のメニューはなんだ? あのピンクの花びらを散らしている桜に似た木は桜か? 竜王のヒゲはどうやって整えているのだ?」
大神のウシワカの予言並みに解り難いこと聞いてるなコイツ。しかしリーナマリーは微笑みを維持しつつスラスラと答えていく。
「皇樹高校には現在7336名の生徒がおりまして移動教室に置いてある数、予備のものも含めますと11451個の机がございます。食堂での人気メニューはカレーライスになります。ただし最近ではつけ麺の注文も多く新たにゆで麺機を増やす予定でございます。あの花は花桃です。実はつけるのですが食用には適しておりません。花言葉は、雪夫様には関係ございませんわ。パ……学園長のヒゲについては砂糖水で整えていると聞いたことがございます。ついでに雪夫様の次の質問の答は越後製菓、次の次の質問の答はポロロッカとなっております」
「っ!?……うぐぅ」
立ち止まった雪夫と虎牙を抜かした俺は真横からリーナマリーの顔を覗き込み「うーむ」と唸った。誰だコイツは。いや知ってる顔に知ってる声なのだがどうしても俺の中のリーナマリー像と結びつかない。こんなんじゃまるでお嬢様じゃないか。
俺がリーナマリーについてきた小さな方の理由である「しっかり案内できるのか冷やかしをかねて確認」ってのは杞憂だったようだ。
「立派に育ちやがって……」
俺の地母神のような生暖かい視線を受けてリーナマリーがツンと顔を背ける。
「あなたねぇ、私を誰だと思ってるのよパーフェクトヒューマンのリーナマリー様よ?」
「まあそう名乗りたいなら止めやしねぇが感動ポルノとか言われないようにな。ただでさえお前『おっぱいゴムマリー』とか『下半身の遊技場』とかありがた~いあだ名つけられてるんだから」
「……あとでそいつらのイニシャル教えて」
リーナマリーから怒気を込めた言葉が溢れ出た。
「おいおいそんないつもの調子で喋って良いのか? 聞こえるぞ?」
「大丈夫、音の反響を計算して喋ってるから私達の会話は向こうに流れていかないわ」
俺は後方をチラッと見る。なるほど、確かに雪夫は「むむむ」とコチラを睨んだままだし虎牙の方にも動きはない。怒っていても冷静なやっちゃな。
「さて、質問攻めだったところ悪いんだが2つ追加していいか?」
リーナマリーは「ふぅ」とため息を付いた後ニヤニヤしながら俺を見た。
「いいけど高いわよ?」
「あとでよっちゃんいかをやろう」
リーナマリーは「奮発したわね」と笑った。良かった、これで少しは怒りも収まっただろう。
ちなみに『笑った』と言っても見下すような嘲笑ではなく、こちらの懐事情を知った上で俺との会話を楽しんでいる微笑みである。こういう相対評価ではなく絶対評価で人を見れるってのは得難い才能だと俺は思う。
「それじゃあ質問、デデン!」
「アメリカ横断しそうな効果音ね」
「第一問、先輩がダメな理由ってのはやっぱり口下手だからか?」
許可も出たので俺は先ほどからの疑問を口にした。ついでにネタフリにもしっかりと乗っかった。さて、リーナマリーの回答は如何に?
「それもあるけどもう一つ、姉さんは男と会うと必ずラッキーなハプニングを起こすのよ」
リーナマリーは憂いを帯びた表情で力なく答えた。
「あー言われて見ると確かに……」
最初にぶつかった時もフニュンとした感触を味わったな。アレわざとじゃなかったのか。ちなみに朝のフニュンについては爆睡し続けるリーナマリーをそっと(簀巻にして)ベッドに戻しておいたので先輩と俺だけの秘密ということになっている。
これで第一問についての話は終了。次が本題だ。
「それじゃあ第二問」
俺は幾分声を小さく低くして尋ねた。
「野党の党首、それもヒーロー嫌いで有名なあの二人を校内案内している理由は何だ?」
「……」
「こんなの大阪夏の陣で真田幸村が徳川家康に大阪城を案内してるようなもんじゃねえか」
「……私もそう思うわ。キミトも知ってると思うけど何度か皇樹高校は攻撃を受けたことがあるの」
「ああ、と言っても噂レベルでしか知らねぇけどな。最近のだと2ヶ月前に謎のロボットが大量に投下されたって話だろ?」
だが、異変を察知した竜王が一瞬でカタを付けたと聞いている。
「アレは生徒のイタヅラって話じゃなかったのか?」
リーナマリーは「イタヅラでパパが出てくるわけ無いじゃない」っとハッキリ否定、視線を後ろの方にやる。
「そしてその犯人はあの二人だとパパは睨んでいるわ」
「じゃあなおさら何でわざわざ校内を案内してやる必要があるんだよ?」
「向こうから是非にと頼まれたのよ。自分たちが納得すればヒーロー嫌いの連中を連中を黙らせることだってできるって売り込みでね」
「うっさんくせぇな」
「もちろんパパも鵜呑みにはせず黙殺していたわ。でもロボットを調べていく内に重要なことが分かったの」
「大陸製のバッテリーで爆発する仕掛けになってたとかか?」
「違うわよ。投下されたロボットの部品は全て出所不明、だけど全機体に超小型のカメラがついていたの、そこで初めてパパは構内見学の許可を出したわ」
ここまで言われればお互いの目的が俺にもわかった。
「野党側は竜王の戦ったロボを回収したがっていて、与党側はロボット事件の犯人を炙り出したいわけか」
西園寺 竜王それは誰もが認める世界最高のヒーローである。しかし、その強さがどれほどのモノなのかは誰も知らない。戦っているところを見た者もいなければ録画された映像もないのだ。
竜王と戦おうとしても前座の5人の弟子、通称『五天王』にすら勝てる者がいない。五天王がどのくらいの強さかと言えば、オラついていた時期(一年生)の魔王カサルティリオ エウテュスが最弱の弟子に自慢の鱗を一瞬で全て剥ぎ取られてしまったくらいには強い。
そんな竜王の戦っている姿が録画された映像ならばテレビ局は高値で飛びつくし、戦いの軌跡が残るロボの残骸はヒーロー嫌いが喉から手を出るくらい欲しいものだろう。
俺はそこまで言って「待てよ」と考える。
「そんな大事なことをリーナマリー一人に任しちまって良いのか?」
リーナマリーが肩をすくめる。
「私もそう思うわ。でもパパは『私達姉妹のどちらかを出せば十分』なんですって」
「お取り込み中のところ悪いが……よいかのぅ?」
『!?』
急に真後ろから声をかけられ俺とリーナマリーは飛び上がる。
「な、なんでしょうか虎牙様?」
リーナマリーがなんとか言葉を絞り出す。俺は無言で冷や汗を垂らしていた。いつだ……いつ近づかれたんだ? ってか近づく気配どころか何かが動いた気配すら感じられなかったぞ!?
「……」「……」
張り詰めた雰囲気が場を支配する。その中央に位置するのは頭を光らせた東郷 虎牙。竜王と双璧をなすヒーローと言われ自由民守党の副総裁だったが、突如、袂を分かち攻名党を結党、数年で野党第一党の地位を築いた怪物である。
その怪物がゆっくりとヒゲを大量に蓄えた口を開いた。
「メシはまだかいのぉ?」
■目標「皇樹高校構内を見学しよう」
■経過「『おじいちゃん三日前に食べたでしょ』というツッコミをするのはなんとか堪えた公人であった」
鳩山 雪夫
「ぼくちんの嫌いなものを教えてやる……」
「ぼくちんを無能力者と嘲る視線、馬鹿にした態度、そして何より速さ……ではなく小物と思われることだあああああ!」




