第11話 4月 3日(日) 男子高校生の非日常
現在の所持スキル
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④そこそこの料理人の調理
⑤そこら辺の生徒の 手首から糸を出す能力
●目標「皇樹高校の校内を見学しよう」
●詳細「リーナマリーが皇樹高校を案内してくれるらしい。お礼にこちらは朝食でも作っておこうかね」
「……あれ、どこだここ? アルタ前?」
目覚めた俺の目線の先に見知らぬ天井が見えた。畳の上にせんべい布団を敷いていた昨日までとは違い俺は今フカフカの物体に体を預けている。
俺はゆっくりと体を起こし、覚醒しきっていない頭で周囲を見回す。匠の方の大塚家具で売っているような豪華な家具に豪華なキッチン、そして3部屋分の壁をぶち抜いた大きな空間、そこに配置されたテンピュール製のマットレスが敷かれたベッド(当然のようにキングサイズ)の上に俺はいる。
「ああ、世界樹寮か」
昨日の夕方に部屋の改造が終わった。その後、食堂で夕食を食べた俺はリーナマリーたちの荷物の設置までも手伝わされ、ソレが終わったのが夜の21時、そのままベッドに倒れ込み夢の世界へ旅立ってしまったようである。
「まったく二人して人使いが荒いっての、ピラミッド作る奴隷かよ。いやアレは適度に休憩もあってビールも振る舞われたって言うし結構いい仕事だったのかもなぁ……ん?」
掛け布団を2つに畳もうと手を滑りこませたところ、フニュンという感触が俺の両手に伝わってきた。俺は一気に青ざめる。生暖かいその柔らかな感触には身に覚えがあった。俺は「まさかなぁ……」と呟きながらそーっと中を確認する。
「……積極的」
布団の中で猫のように丸くなっていた先輩と目があった。ちょっと頬を赤らめている。だがそれ以上に俺の顔は赤くなっていた。なぜならば先輩は一糸まとわぬ姿だったためだ。
「マママママジラブ先輩!?」
両手を上げて叫ぶ俺。先輩を本名で呼ぶ辺り混乱の極みである。
「待てよ!? ってことは!?」
先ほどの柔らかな感触は『両手』から伝わってきていた。つまり……俺はもう片側も確認する。
「すぅ……すぅ……」
そこには静かな寝息を立てているリーナマリーの姿があった。俺は勢いよく頭を抱える。こちらも何も着ていない! 全裸だ! なんだこの姉妹は!? 脱げば脱ぐほど強くなる中国拳法の使い手なのか!? いやまあ確かに寝る時は締め付ける物がない方が血行が良くなってリラックスできると言うが、それ実践しているのは日本ではほぼ0%……っとここまで考えて俺は「あ、そう言えばこの二人は日本人ってわけでもないのか」と一人で納得してしまった。
状況は未だにアレだが1つでも理解できる事柄があると人間何とか落ち着けるものだ。
「先輩、コレはどういうことですか?」
俺は小声で布団から顔だけ出している先輩に問いかけた。すると先輩は起きてるのか寝ぼけてるのかわからないようなゆったりとした口調で「……抱きまくら」と答えてくれた。
後で聞いた事なのだが二人は何かに抱きついていないと眠れない体質らしい。なので俺はちょうどいい感じの丸太を二つのベッドに投げ入れておいた。優しいね俺。後で殺されるかもしれないけどね。
◆◆◆◆◆◆
「きみふぉって料い上手いわえぇ!!」
俺は多分褒め言葉を言っているであろうリーナマリーに対して執事っぽく「どういたしましてお嬢様」と答える。
「いやほんとお世辞じゃなくて……そういうコピーでも持ってたの?」
メイプルシロップのかかったホットケーキを食べ終えたリーナマリーが口元をナプキンで拭きながら聞いてきた。
「一応そこそこの料理人の調理はコピーしてるがそれは動きを補正するだけで、レシピを考えるのは自分の頭だ。んで二人が今食べてるのが俺がよく恋華に作ってやるオリジナルホットケーキだな」
食べっぷりの良いリーナマリーの横で、お淑やかに食べていた先輩が首を傾げて「……カシューナッツ?」と聞いてくる。
「お、さすが先輩わかりますか。香ばしさ、風味を出すために粉状にしたものを混ぜ込んでるんですよ」
先輩は俺の言葉に「おー……」と関心した後スゥっと息を吸い込む。あ、ヤバイコレ言葉のマシンガン打線タイムだ。
「本当に美味しいですねキミトさんこれなら毎日でも作って欲しいですよもちろん今のはプロポーズ的な意味の言葉で」「(ゴスン)朝から暑苦しい話しないでよ清愛」
ありがたいことに今回は割と早いタイミングでリーナマリーのツッコミが入った。「……痛い」と頭をさする先輩、この人けっこう頑丈だよな。
「それで、今日はどこから行くんだリーナマリー?」
リーナマリーが「そうねぇ」と考え込む。その横で先輩が僅かに微笑みながら「……デート?」と聞いてきた。
「デデデデートじゃないわよ! 仮にデートだとしてもデートと言う名の校内案内よ!?」
「……」「……」
チャオズも裸足で逃げ出すリーナマリーの自爆っぷりに俺と先輩は顔を見合わせた。
◆◆◆◆◆◆
ピーポーピーポー。
救急車が俺達の横を通り過ぎた。今日だけで20台目である。
「『また』誰か怪我でもしたのかね?」
入学して3日目だが俺は既に救急車が通り過ぎる光景を日常風景のように眺めている。ダンスィーっぽい思考の恋華が隣りにいたら大興奮だったろうなぁ。だが隣りにいるのは恋華では無く、はち切れんばかりの胸を真新しい制服に詰め込んでいるリーナマリーである。凄いよな、制服に対する質量の暴力だ。絶対に俺の家の血筋ではこんなに育たないだろう。
「日曜と言っても部活はあるからね、むしろ授業がないぶん張り切る人が多いからこんなの日常茶飯事よ」
「へー」
「本当に困るのよね、この前テニス部が恐竜絶滅させようとしてたし……」
「うん、ごめん意味がわからない」
理解を諦めた俺は思考を転換、気になっていたことをリーナマリーに聞いてみる。
「そういえば先輩は何でついて来なかったんだ?」
朝食を終えたあと先輩は俺とリーナマリーの外出を邪魔するどころか「……いってらっしゃい」と見送ってくれた。昨日や今朝の積極的過ぎる行動から考えると、はっきり言ってかなり異様なことだ。ついでに言うと先ほど「……デート?」と言った時に僅かながら微笑んでいたのもの気になる。
「……」
俺の質問に対するリーナマリーの答えは沈黙。ただ、ちょっとだけ渋い表情をしていた。この表情が意味するところを俺は考えてみる。……よし、凄い適当な内容を思いついたので早速口に出してみよう。
「ま、まさかマジで『先輩はこの戦いにはついていけない』とかいうチャオズ状態なのか!? やめろリーナマリーそれお前が気功砲撃ちまくって力尽きるフラグだぞ!?」
大げさに身振り手振りを交えながらジョークをぶっ放す俺に対して「違うわよ」とリーナマリーはフフッと笑った。
「あっでも全く違うとも言い切れないか」
「?」
その言葉のあと俺達は校門をくぐり、校外に出てしまった。俺が「おいおい今日は校内を案内してくれるんじゃねぇのか?」と言葉を発しようとしたその瞬間、キキーッと目の前につや消しのベンツが急停止する。そして間髪入れずその車の後部座席から二人の男が車から降りてきた。
「おいおい何だ何だ何だ!?」
1人は禿頭を光らせた目付きの鋭い袴姿の爺さん、そしてもう一人は胡散臭い笑みを顔に貼り付けたスーツに帽子の50代くらいの男だ。そんな二人がこちらに向かって歩いていくる。「はて……どっかで見たことある顔だな」と俺が首をひねっていると、横にいたリーナマリーが二人に対して深々と頭を下げた。
「お待ちしておりました。本日姉の西園寺 清愛の代わりに東郷 虎牙様と鳩山 雪夫様のご案内を勤めさせていただく西園寺 リーナマリーと申します」
俺は「あっ」っと声を出してしまった。そうだ、この二人は野党の党首、『攻めて攻めて名を挙げる』攻名党の東郷 虎牙、そして『民に親身な』民親党の鳩山 雪夫だ!
「……」「……」
二人の視線が与党『自由に生きる民を守る』自由民守党の党首、西園寺 竜王の娘リーナマリーに突き刺さる。この二人は単なる野党の党首というだけでなく、当時の文科省大臣だった竜王の提唱するヒーロー養成高校の建設に断固反対していた二人でもあるのだ。
そんな『ヒーロー嫌い』な奴らが何でここに? 思考を深める間もなくリーナマリーが「こちらへどうぞ」と歩き出してしまったので、俺もしぶしぶながらも後をついて行くことにした。
■目標「皇樹高校の校内を見学しよう」
■経過「この物語はフィクションです。似ている政党や人名があったとしても、それはたぶんきっとかなり間違いなく所により気のせいでしょう」
東郷虎牙
「……」
(そろそろ喋っていいんじゃろうか?)




