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第10話  4月 2日(土) Unlimited Copy Works

現在の所持スキル

①リーナマリーの身体能力

②そこそこの学者の知能

③そこそこのアイドルのメイク技能

④そこそこの料理人の調理

⑤清愛先輩の愛が力

●目標「入寮しよう」

●詳細「皇樹高校『世界樹ユグドラシル寮』へ引っ越しせよ。ただし今日の占いコーナーが不穏なことを言っているので注意が必要だ」


「……いじめ?」


「そう、いじめです。スキル発現前までは『無能力者がヒーローの真似事かよ』と馬鹿にされコケにされ、スキル発現後は『人の真似ばっかしてんじゃねぇよ』と殴られ蹴られ……」


「……そう」


 先輩が憐憫の視線をこちらに向けてくる。リーナマリーも素直だが先輩も優しいよなぁ。きっと両親の教育が良かったのだろう。まあ『殺すつもりで育てよ』なんつー家訓はどうかと思うが……俺は話を続ける。


「それでも俺はヒーローになる夢を諦めなかったし捨てはしませんでした」


「……なぜ?」


「俺はね、おはなしってのがスキなんですよ。それも寝る前に親が子供に語って聞かせるような『めでたしめでたし』で終わる素敵なおはなしがね」


 俺は先輩の目を見ながら話し続ける。


「だがほとんどの子供は小学校に上がるくらいになれば否応なしに現実は辛くてシンドイって事が解ってしまう。みんながめでたしめでたしで終わる事なんて無いと知ってしまう。先輩の好きな恋愛小説にだって、愛する男女に弾き飛ばされて本の隅っこでハンカチを濡らしている悪役令嬢とか出てくるでしょう?」


 先輩は「……うん」と頷いた。俺はこの時点で先輩のスキルをコピーし終えた。俺は気取られぬように手の中で錠前を作る。


「だけど俺はそういうのが許せなかった。俺はすべての人間は物語の主人公ヒーローだと思っています……だから!」


 俺は錠前で手錠を外して着地、低い姿勢のまま先輩に向かって疾走る。


「俺は全ての物語をめでたしめでたしで終わらせることができるヒーローになりたいんですっ!」


「……むだっ!」


 向かってくる俺に対して先輩がサイコガンを発射、爆弾も飛んでくる。俺はサイコガンは避け、爆弾についてはその構造を瞬時に見切って同じ爆弾をぶつけて相殺し、先輩に近づいていく。


「確かに俺の戦い方は模倣でできてます……だけど、ヒーローになりたいという決意だけは他の誰から貰ったものでもない本物なんです!」


 俺は右手に硬化テクタイトを纏わせ、思い切り先輩との間に立ち塞がる壁を殴った!


 バリィィィンという音を立てて両者の硬化テクタイトが砕け散る。


「……そんなっ!?」


 先輩は絶対的な安全圏を壊されたためか放心しているようだ。そんな先輩を驚かせないように俺は「フーッフーッ」言っている息を整えた。何度も言うが俺の目的は先輩に諦めてもらうことであり、倒すことじゃない。そして十分に落ち着いた後、仰々しくひざまずいて先輩の手を取った。


「先輩の気持ちは……あの告白に振り絞った勇気は十分に伝わりました。もちろん嬉しいです。だけど俺はまだ1つの物語もめでたしめでたしで終わらせていません。だから今は先輩だけのヒーローにはなれないんです……」


 そう言いながら俺は思いっきり頭を下げた。


「……わかった」


 表情は伺えないが先輩の優しい声が頭上から降ってきた。


◆◆◆◆◆◆


「それで、コレはどういうことなのかしら?」


 ジトーっとした目でリーナマリーが俺の事を睨んでいる。ここは世界樹寮の303号室……だった場所だ。


『よーしそんじゃあ次はココの壁を壊すぞー!』『キッチンはオープン型だから配管はココに転がせー』『このデカイタンスはどうしやすかー?』『う~~~~い(オライッ、オライッ) 』


 俺の後ろでは職人の方々がリーナマリーの304号室と(強引に移動してきた)清愛先輩の305号室をつなげて一つの部屋にする工事の真っ最中だ。


「……OKもらった」


 先輩の言葉を聞いたリーナマリーが「ハァッ!?」と俺に視線を突き刺す。やばい、めっちゃ視線が痛い。オプティックブラストくらい痛い。俺は「えーっと」と頬をかきながらどう説明したもんかと苦笑する。


 確かにあの時俺は「『今は』先輩だけのヒーローにはなれないんです」と言った。そして先輩は「……わかった」と言ったあとに「……じゃあ待つ」と言った。俺が「何を?」と尋ねると先輩は「……めでたしめでたしにしてくれるのを」と返す。その後は暖簾に腕押し糠に釘だ。俺が何と言っても「……待つ」としか答えてくれなかった。


 つまり、先輩はサッカーの強豪国のように一瞬のチャンスを逃さずモノにし、俺はサッカー日本代表のように一瞬の隙をモノにされたのだ。


 もしかすると先輩は俺に「諦めてくれますか?」と言われた瞬間から①ラブラブビームを当ててモノにする②戦いの中で俺の言質を取る。という2つの策を並行して準備していたのかもしれない。だとしたらユダ様並に賢いお方だぜ?


 俺の左腕に腕を絡ませている先輩がリーナマリーに向かって「いえーい……」とピースしている。やめてください、貴方の妹さんの目がますます鋭くなってます。マズイな、このままでは世界樹寮を壊滅させかねない姉妹喧嘩が始まってしまう予感がするぞ。


「と、ところでリーナマリーに聞きたいことがあるんだが、良いか?」


「何よ?」


 俺は話題の変更と先ほどから感じていた疑問をこのタイミングでリーナマリーにぶつけてみた。


「なんでお前の部屋まで俺の部屋につなげてるんだ?」


 予期していなかったのだろうリーナマリーが「なっ!? へっ!?」と顔を真っ赤に染めて固まった。そして人差し指をグルグルと回しながら「えーと……そのー……」と悩んだ後、何かを思いついたようだ。「あ、そうだ」と小さな声を漏らす。


「こ、これは西園寺家の長女である清愛姉さんが馬鹿でスケベなキミトに襲われないかの監視よ!」


「……」「ふーん」


「な、何よ妹として姉を守るのは当然だし、キミトは私のパ、パパパパパートナーなんだからこれまた当然でしょ!」


 攻守交代、今度は俺と先輩にジト目で見られてリーナマリーが慌てふためいている。その姿を見ていると……嗜虐心が湧いてくるな。


「俺は『パパパパパートナー』なんてケッタイなものを引き受けた覚えはないぜ(ギロリ)……あ、せ、先輩は大丈夫なんですか?」


 リーナマリーが泣きそう+俺を亡き者にしそうな目つきで睨んできたので慌てて先輩に話を振った。


「……?」


 急に『大丈夫なんですか?』などと聞かれた先輩が小首をかしげている。


「いやーだって男女が同じ部屋ってのは……」


 質問の意味を理解した先輩が俺の首に手を回してクスリと微笑んできた。


「……西園寺家の家訓その2『自由恋愛』」


「さいですか……」


 俺は今日何度目かになるため息を付いた。部屋の中に視線を戻すと工事は中盤に差し掛かっている。今日からここで生活するのかぁ……はてさてどうなることやら。


 あ、ちなみに清愛先輩からコピーしたスキルはやっぱり対象となる性別が反転してなかった(職人の方々に意味深な視線を送られた)ので、そこらへんにいた生徒のスキルをコピーし、運良く一発で上書きすることができた。もったいないがこれで拙者の菊門も安心でござる。


■目標「入寮しよう」

■結果「同居人が、できました」

村主公人

「パパパパパートナーとか、カカカカカカロットじゃあるまいし」


「下の階からめっちゃ『うるさい』って苦情来てるんだが……イヤホント申し訳ないな」


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