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第9話  4月 2日(土) これはまぎれもなくピンチさ(コーブラー♪)

現在の所持スキル

①リーナマリーの身体能力

②そこそこの学者の知能

③そこそこのアイドルのメイク技能

④そこそこの料理人の調理

⑤カサルティリオ エウテュスの黒い鱗

●目標「入寮しよう」

●詳細「皇樹高校『世界樹ユグドラシル寮』へ引っ越しせよ。ただし今日の占いコーナーが不穏なことを言っているので注意が必要だ」


 ガキィィンッと言う音が宮殿に響く。俺の拳は先輩の腹に到達する直前で止まっていた。目的は倒すことではなく諦めてもらうことなので寸止めするつもりだったが、『寸』どころか『広』位の距離で止められた。どうやら先輩の前に透明な壁が作られていたらしい。


「いってええええ!」


 俺は赤くなった右手を押さえる。そんな俺を見ながら先輩が「……硬化テクタイト」と呟く。


「硬化テクタイトだって!? 冗談じゃねぇ! 銃弾でも傷がつかない超硬度物質じゃねぇか!?」


 なにより質の悪い冗談なのが硬化テクタイトなんてのは現実には存在しない物質であるということだ。つまり先輩は愛さえあれば空想現実お構いなしに物を創造することができるらしい。愛さえあればラブイズオッケーってやかましいわ! 一人漫才をそこで中断し俺は頭をフル回転させはじめる。雲の宮殿を作ってる時点でかなり現実を無視しているが、まさか現実に存在しない物質すら作り出すとは思わなかった。


 俺は先輩から距離を取る。くそっ、あれだけ格好つけての一撃だってのに防がれちまった。


「ならこっちもビックリドッキリ技だっ!」


 すぐさま俺は次の一手を打った。地面を蹴り、天井を蹴りそのまま先輩の頭上に降下する。先ほどの攻撃は防がれたが先輩は俺の動きに反応できてなかった。現に先輩は今もまだ反応できていない。俺は右手に黒い鱗を纏わせた。


 頭上から破壊力の方程式に重力を加えた最強の一撃を叩き込んでやる! 


「……上!?」


 俺の行動から一拍遅れて先輩が上を向くがもう遅い。俺は右手を思い切り振り下ろした。


「砕 け ろ や ああああああ!」


 ガキィィィンッ! がコレも無理。先輩の全方位に張り巡らせた硬化テクタイトには最強の一撃でも傷一つつけることができなかった。


 先輩が反撃に移る。「……ラブラブビーム」と言って腕に創造されたのは……どう見てもサイコガンです。本当にありがとうございました。


「……発射」


 のんびりした口調とは裏腹にブッピガーンとサイコガンから発射されるビームは速い。俺はヒューッ! と感嘆しながらなんとか避ける。リーナマリーの身体能力がなきゃ即死だったな。


「……避けないで」


「若い命を散らせたくはないんですよ!」


 先輩は精神エネルギーを変換して撃ち出すサイコガンをボンガボンガ撃ってくる。俺は必死に避け続ける。ってかサイコガン連射とか先輩はどんだけ精神力の貯蔵が十分なんだよ。


「大丈夫……当たってもわたしを大好きになるだけ……」


 前前前世……間違えた、大大大問題である。


「人間が他人の感情を自由にしようなんておこがましいとは思わんのですかねええええ!?」


 俺は床を壁を天井を蹴って先輩のラブラブビームを避けつつ打開策を考えはじめた。


「よし、肉体言語はやめだ。別の方法を考えよう」


 まず始めに出た答えはコレである。俺はコピーなんてスキルを持っているためか方針を転換することに対しての躊躇いがない。


「次、手札の確認」


 自分の今の能力は①リーナマリーの身体能力②そこそこの学者の知能③そこそこのアイドルのメイク技能④そこそこの料理人の調理⑤カサルティリオ エウテュスの黒い鱗……うん突破口になるものはないなぁ。


「……スキめっけ」


「ゲッ!?」


 そんなことを考えていると、雲の中から突然伸びてきた鎖付きの手錠で両手を拘束される。そのまま俺は天井に吊り上げられてしまった。この手錠と鎖も強固な物質でできているようだ。渾身の力を込めても手錠は砕けない。先輩がサイコガンを俺に向ける。


「……これで逃げられない」




「……………………逃げる?」




 俺は先輩の言葉を聞いて呆然とする。先輩が『逃げられない』と言ったってことは俺が『逃げよう』としているように見えたって事だ。そうか、俺が逃げようと……


「ハーハッハッハッハッハッハァッ!」


 俺は大声で笑った。言われてみりゃその通りだ。圧倒的な先輩の力の前に俺はいつのまにか思考が逃げ腰になっていたらしい。


 俺は自らに問う「よぉ、お前の中のヒーローってのは逃げるのか?」答えは絶対にノゥだ!


 すべてのおはなしをめでたしめでたしで終わらせようと決めたあの時、俺の辞書から逃走の二文字は消えたのだ。いいぜ、そのためなら俺はケツくらい……喜んで差し出してやるさ!


 俺は頭の中でストップウォッチのスイッチを押した。


「……なぁ先輩、聞いてくれよ」


「……なぁに?」


 俺の問いかけに先輩がサイコガンを下ろす。


「昔々ある所に炎の精霊イフリートの加護を得たコードネーム【グレイテストゴッド】なお爺さんと、世界一の大魔女であるお婆さんがいました。お婆さんは虹の川へ洗濯に、お爺さんはマッターホルンよりも険しく熱いグングニル火山へシヴァ狩りに……」


「……」


 先輩が無言でチャキっとサイコガンを俺に向ける。俺は慌てて「今のは冗談です」とタハハと笑った。


「俺がなぜヒーローを目指しているかを話そうかと思いましてね」


「……」


 先輩は相変わらず無言だが、どうやら話は聞いてくれるようだ。俺はゆっくりと話しはじめた。


「俺は昔いじめられてたんですよ」


■目標「入寮しよう」

■経過「中二病昔話はお気にめさなかったらしい」

村主公人

「雲の宮殿で残り130秒どうしよう……だれか助けてください」


「残り10秒……もうだめぼお」


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