第8話 4月 2日(土) そらのおとしもの(リーナマリー)
現在の所持スキル
①リーナマリーの身体能力
②そこそこの学者の知能
③そこそこのアイドルのメイク技能
④そこそこの料理人の調理
⑤カサルティリオ エウテュスの黒い鱗
●目標「入寮しよう」
●詳細「皇樹高校『世界樹ユグドラシル寮』へ引っ越しせよ。ただし今日の占いコーナーが不穏なことを言っているので注意が必要だ」
「しょうがないから教えてあげるわ耳かっぽじって聞きなさい」
リーナマリーが少し前に出て先輩を指し示しながら説明を始める。
「ええっとまずこのマジラブのスキルについて説明するわね」
「えっ、は? マジラブ?」
急に意味不明な単語が飛び出してきたので俺は聞き返す。するとリーナマリーは事もなげに「うん、マジラブ」と頷く。先輩は……なぜか片手でピースしている。
「私達の父親の名前って何だか覚えてる?」
「何ってそりゃあ竜王だけど……あっ」
俺は察した。リーナマリーが俺の様子を見て再び頷く。
「そうなのよ、清愛は長女だったから父親が譲らなくて」
「……真名」
先輩はもう一つ追加して無表情ダブルピースを完成させる。苦笑いしているリーナマリーと違って本人は意外と気に入っているようだ。
「ま、私は人前では清愛って呼ぶけどね」
「なるほどな……あ、それでスキルについてだったなえーと……」
俺が先輩の方に視線をチラチラ向けながら「どう呼んだもんか」と悩んでいると、先輩が「……せんぱい」と助け舟を出してくれた。俺は「ありがとうございます」と頭を少し下げたあと「それで先輩の特殊能力ってのはどういうものなんだ?」とリーナマリーに問い直した。よかった、マジラブ先輩だと語感が歌の王子様的な何かっぽいんだよな。
「清愛はね、恋愛のヒーローなのよ」
リーナマリーに紹介されて先輩が「……いえーい」とピースしている腕をクロスさせた。
「出会った男を必ず恋に落とす。そして対象を愛すれば愛するほど強力なものを生成できるってのがスキル『愛が力』ね」
「へーそりゃ凄いな」
俺が「じゃあコピーするか」と続けようとした所をリーナマリーに「悪いことは言わないからやめときなさいっ!」と遮られた。
「なんでだよ?」
便利そうなスキルなのに、俺が強くなるのがそんなに嫌なのか? と思ったが頬に汗を垂らしながら真面目な表情で首を横に振っているリーナマリーを見る限りどうやらそうではないらしい。
「『愛が力』をコピーしたら公人に惚れた清愛が公人を惚れさせることになるでしょ?」
「なるほど、無限ループになってさっきの常軌を逸した長台詞が現実のものとなるわけか」
「……がーん」
常軌を逸した長台詞と言われて先輩があからさまにショックを受けている。だが俺はあの長台詞のあと「うんっ! そうだなっ!」と答えられるような人物ではない……嬉しいこと言ってくれてるとは思うんだがな。
「それだけじゃないわ。もっとヒドいのは対象となる性別が反転しなかった場合よ」
俺はリーナマリーの言葉の意味を考える。対象となる性別、つまりこの場合は男だな。俺が『愛が力』をコピーしてそれが反転しなかった場合……俺はアッー!? と後ろを押さえた。
「ヒエー! 俺そんな趣味はないぜ!? そういうのは室襠小春とかに任せる!」
肌を粟立てている俺の目の前でピカッと閃光、後に爆発。リーナマリーがものすごい勢いでこっちにふっ飛んできたので何とか腕をつかむ。しかし勢いは弱まらず雲の宮殿の入口付近まで吹っ飛ばされてようやく止まった。
「ありがとキミト……ここまでの威力の爆弾を生成するなんて、本気のようね清愛!」
「……邪魔しないで」
地面にトッと着地したリーナマリーが王座の前に立つ先輩を睨みつける。先輩も僅かながら眉を吊り上げている。その視線はリーナマリーの腰に添えられた俺の手に向けられていた。
「なんかめっちゃ切れてないか?」
「そりゃそうよ、清愛がこんな宮殿でかいの作ったのはキミトが初めてなんだから、そのうえ私を宮殿に入れまいと色々やってきてたわ」
「あー、なるほどさっきの無言タイムはそのためか」
リーナマリーは俺の両肩を掴んで「私のスキルは知ってるわよね?」と尋ねてきた。
「ああ、一分一秒でも成長するってスキルだろ?」
リーナマリーはフッと笑って顔を近づけてくる。これは……キスじゃな? と思ったがどうやら違うらしい。リーナマリーの顔の軌道は俺の中心点から若干右にそれた。そして俺にそっと耳打ちする。
「それだけじゃないわ、私はね……目の前に自分より強い相手がいた場合、それを超えるように成長速度がアップするの」
リーナマリーは顔を離して「しー」というポーズを取りながらウインクした。
「清愛にもナイショよ?」
王座の方からものすごい殺気。恐る恐る視線を移動すると、先輩が大量の爆弾を宙に浮かせていた。ゲートオブ爆発物かよ。
「……キミトさんの前で、負けられない」
「あっそう、死ねば?」
だがリーナマリーは口角を上げて圧倒的な強者の笑みを浮かべている。ってか姉に「死ね」とかこいつすごいケンシロウだぜ?
「……死なない」
リーナマリーの「死ねば?」を聞いた先輩の雰囲気が変わった。今までのは脅しの成分が混ざっていたが、それがなくなり戦う気100%だ。そんな先輩を観察している俺の首根っこを掴む人物がいた。リーナマリーだ。
「おい馬鹿なにすんだよ! 交首破顔拳でも使う気か!?」
「何ってそりゃ姉妹喧嘩にキミト巻き込んだら申し訳ないじゃない」
そう言いながら首根っこを持つ手にグッと力が入る。
「いやむしろこれからお前に非常に申し訳ないことされる気がするんだが!?」
「ハッハッハまさかー」
そう笑ったあと、リーナマリーはグォンと俺を思いきり宮殿の外に投げ飛ばそうとした。
「……そうはいかんざきってな!」
「なっ!?」
俺は体を入れ替えて逆にリーナマリーを投げ飛ばした。
「キミトッ!?」
驚きの表情で宮殿の外へ飛んでいくリーナマリーに俺はウィンクする。
「『兄妹仲良く!』……俺の家の家訓だ。クラスの皆にはナイショだぜ?」
「あとで覚えてなさいよおおおおおおぉぉぉぉ…………!」
「おう覚えた覚えた、俺は物覚えは良いほうだぜー?」
落ちていくリーナマリーには聞こえないだろうが俺は一応答えておく。そして俺は先輩に向き直った。
「さて、それじゃあ先輩、質問1つ良いですか?」
先輩はコクリと頷く。俺は「ありがとうございます」と少し頭を下げたあと、いきなり本題に踏み込んだ。
「どうやったら諦めてくれますかね?」
「………………」
先輩は沈黙した後、ゆっくりと手を伸ばし、指をピストルの形にして、BANと撃った。それが合図となって先輩の上空に浮いていた爆弾がマシンガンのように飛んで来る。いくつかの爆弾が俺に直撃し爆発、辺りが炎と煙に包まれる。
「まあ言葉で諦めるような人ならヒーローにはなれねぇよなぁ」
しかし、俺は轟音と高熱に包まれた空間をまるで真夏日に26度のクーラーがついている部屋を歩くがごとく進む。煙を抜けた。
「……?」
先輩が俺の姿を見て驚いている。まあそうだろうな、まさか俺が『同級生の魔王』のスキルを使うとは思うまい。
俺は纏っていた黒い鱗を解除して、先輩に笑いかけた。
「先輩の気持ちは分かりました。それじゃあトコトン話し合いましょうか」
そう言いながら俺はリーナマリーから得た能力を発動、一瞬で先輩の前に移動した。
「肉体言語でな」
■目標「入寮しよう」
■経過「あとでリーナマリーには謝っておこう。奮発してチロルチョコだ」
西園寺リーナマリー(落ちながら)
「まさか私が投げられるなんてね、ちょっとキミトのことナメてたわ」
「すぐに戻ろうかしら、うーん…………ま、ここはキミトに任せてみましょう。お手並み拝見ってところね。見えないけど」
※この間わずか0.05秒




