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ジオ戦記(旧)  作者: ルノア
第1章
20/52

20. 黒蟲の猛襲

-Ⅰ-


 天が戦の始まりを告げると、続けて聞こえてきたのは身の毛のよだつような蟲がひしめき合う不快音だった。蟻の大群が軍隊の行進さながらに、ゆっくりと、そして着実な足取りでバグラガムの領域を侵し始める。

 その数たるや、城壁に並んだ兵士達を一歩後ずさらせるほどの威圧感があった。

「怯むな、持ち場を維持しろ! 弓兵、用意!」

 大将軍クロウスの怒号に、唖然としていた兵士達は現実に引き戻された。

 皆が現状を受け入れることに戸惑い、混乱の渦に巻き込まれそうになっていた間、クロウスだけはなんとか平常心でいられることができた。いや、そうでなければ大将軍の立場は務まらない。大規模な実戦は初めてだが、彼の強靭な精神と王都を守護するという使命感は他の誰よりも強く、強固なものだった。

 我に返った数百人の兵士達が、クロウスの号令に従う。手には弓と矢。

 黒蟲に対して、弓矢がいかに無力であるか、知らぬわけではない。だがクロウスには秘策があった。

 矢には油を染み込ませた紙を詰め込んでいる。火矢だ。数人の兵士達が、(やじり)に点火しはじめた。上空から見つめるそれは、まるで空に浮かぶ一直線の星座のようだ。

 クロウスは忌々しげに天空を見上げる。風に舞う程度の極小の雨とはいえ、天が味方をすることはないように思える。せめて雨足がひどくならぬうちに、事が進めばと願う。

 ――さあ、早く来い……。

 クロウスは蟻の群れが定位置に到達するのをじれったく待ち続けた。

 一列に整列した何百、何千対もの蟻の脚が一歩、二歩と蠢き……、また前進してバグラガム軍の仕掛けた罠に足を踏み入れていく。

 そのはずであった。

「兄上、外はどうなっている! 合図はまだか!」

 城門前で待機していたラルゴが、しびれを切らしたようだった。

「おかしい……」クロウスは呟き、真下のラルゴに振り向きなおす。「蟻達が、動きを止めた」

 クロウスは自らの言葉の中に戸惑いを隠せなかった。

 黒蟲達は予想に反し、バグラガム領域に侵入したかと思うと、数十歩前進したところでピタリと進軍を止めてしまったのである。

 罠だとばれているのか? 何をしようとしているのか、何を警戒しているのか。普段と様子の違う蟻の動きに、皆目見当もつかない。

 そして、戦は思わぬ形で幕を開けた。

 蟻達が城門のさらに上、雨雲の連なる上空に首をもたげた。と、同時に凄まじい勢いで口から何かを吐き出す。

 それは人の腕ほどはある、黒く禍々しく尖った物体。一匹の口から二本放たれ、最前列にいた千匹ほどのそれが巨大な雨雲に変化し、バグラガムの上空をかすめていく。

 あれは……蟻の牙だ!

 正体を見極めたクロウスが咄嗟の判断で「各班、守護陣展開!」との命令を下した。

「守護陣、展開します!」

 一体何事かと戸惑った兵士達だが、命令に即座に従うと兵士達の体が大きな泡のような球体によって包まれた。

 城門前のラルゴやユーロドス、ジェスの体も同様に緑色に光る空間に覆われる。彼らの持つ玉が同じように光り輝いていた。小さな守護壁とも言えるプロト族の防具の一種だ。ひとつで十数人もの兵士を護ることができる。無論、その動力は彼らの(バルル)なのだが……。

 全ての兵士達が守護陣を展開し終えるのを待つことなく、既に蟲の牙はバグラガム上空へと差し掛かり、失速したのちにバグラガム軍の頭上へと降り注ぎ始めていた。

 無情にも落下してくる牙の雨が、街を見境なく攻撃する。石造りの民家に穴を開け、城壁には傷痕を残し、地面をえぐって突き立つ。

 破壊の限りを尽くす蟻の牙が数秒に渡って降り続けると、兵士達の精神をじわりと蝕んだ。ほとんどの守護陣がその猛攻を耐えることができたが、辺りの建物は無惨にも崩壊し、攻撃の凄まじさを物語っていた。

「負傷者あり! 誰か、手当を!」

 倒れこんだ兵士を抱えた者が、助けを求めて叫んでいる。守護陣の展開に戸惑ったか。その周りでも、数人のけが人が出ているようだった。幸い、死者は出ていない。

 この惨状を目の当たりにし、クロウスは危機感をあらわにした。プロト人の強固な(バルル)が敵の猛襲を防いだとはいえ、もともとすり減っていた体力を相当量消耗したに違いない。

「やつらめ。こんな芸当もできたのか」舌打ちをひとつし、城壁下に向かって叫ぶ。「ラルゴ!」

「こっちはなんとか無事だが、いまのは一体なんだ!?」

 兵士達のどよめきの中にあっても、ラルゴの太い声ははっきりと聞こえてくる。

 正門前のラルゴ達からは、外の様子が全く見えないはずだ。突然視界の外から槍のような通り雨が降ってくれば、これほど恐ろしいことはない。兵士達の混乱も相応なものであった。

「蟻が牙を飛ばしてきた! 次が来るかもしれん。警戒しておけ!」

 ラルゴは信じられないといった仕草を見せたが、無理矢理にでも現状を飲み込んだようだ。動揺する兵士達を一喝すると、守護陣の展開をより厚くするためにできるだけ身を寄せ合うように号令をかけた。

「シャ、大将軍(シャラーン)殿、あれを!」

 弓兵のひとりが震える声で言い、蟲の大群に指を向ける。

 クロウスは指差された城外に再度目を向け、そして我が目を疑った。

 さきほど牙を飛ばした蟻の隊列はそのままに、その後方から新たな隊列が前方に躍り出てきていたのだ。その動きはまさに精練された軍隊が見せる陣形のようで、不気味なほどに整然としている。

「これは……まさか」

 クロウスの不安は的中する。

 最前列に出てきた新たな蟻の列が、さきほどと同じように牙を飛ばす態勢に留まったのだ。

 また飛ばしてくる! 奴ら、牙を射続けてこちらを疲弊させ、少しずつ前進してくるつもりだ。

 思っていた以上に厳しい戦いになる予感がして、クロウスは息を呑んだ。

「全班、再度守護陣を展開!」

 そして予想通り、息つく暇もなく第二波がバグラガムを襲った。

 対応が早かった分、犠牲も少なくなるかと思いきや、その予想はあっさりと裏切られた。

 上がった悲鳴と血飛沫は一度目の時よりも明らかに多かったのだ。それもそのはずで、元となる兵士達の(バルル)が著しく低下しているために、守護陣の強度は極端に低くなっていた。降り注ぐ牙の雨が、展開されていた守護陣を破壊すると、中にいた者の顔や胸、手脚を貫いていく。

 じわじわと広がる血だまりに、バグラガム兵は次々に倒れこんだ。目を見開いたまま絶命している者、手や足がもがれる痛みに助けを求め、もがきまわる者。

 そこに広がるのは生と死が混在する壮絶な世界だ。

 クロウスは視界に映るものを無理矢理にでも受け入れるしかない。

 これが、(いくさ)か。

 大将軍とはいえど、十五年前はまだ十四で、本物の戦場を経験したことはない。人がいとも簡単に、当然のように死んでいくその光景に、クロウスはうすら寒いものを感じずにはいられなかった。

 頭の中で逡巡している間に、無慈悲にも第三波の死の雨が飛来する。

「貸せ」

 クロウスが近くの者から守護玉を奪い取ると、そこに自らの(バルル)を集中させた。数人を包むほどの小さな守護陣がみるみるうちに拡大され、すぐに城門付近を覆い尽くすほどまでに広がった。

 人並み外れたこの力が、士気の落ち込む兵をどれだけ勇気づけたことか。クロウスに察するまでの余裕はこの時にはなかった。

 守護陣が最大にまで膨れ上がった直後に、牙は降り注いだ。巨大な化け物の鉤爪のような一撃が、クロウスの守護陣を引き裂こうと襲い掛かる。

「ぐっ……ぬうぅ……!」

 数秒の間に幾千本もの牙が激突し、派手な金属音と火花を散らす。牙は先端がひしゃげ、折れ、ボロボロになりながら、守護陣の表面を転がり落ちていく。

 いくら最硬度の盾を誇るクロウスであっても、さすがに敵全ての矢をひとりで受け止めるのには無理があるかと思われた。敵の攻撃が衝突した瞬間、両手にいままで経験したことがないほどのずっしりとした圧力がのしかかった。

 思わず片膝をついてしまう。

「大将軍殿!」

 周りの兵士達が心配して駆け寄るが、クロウスはそれを顔の表情で制止した。

「砲弾装填!」

 慌てふためいていた兵士達が雷に打たれたかのようにはっとした表情で指示に応じ、大砲に弾を詰め込み始める。

 クロウスが一手に敵の攻撃を引き受けたのは、このためだ。

「黙ってやられると思うなよ、蟲ども」

 牙の雨は大将軍の体力を奪ったが、破壊することはできなかった。敵の第三波はなんとか無傷でやりすごす。

 そして十分な時間を稼ぐこともできた。

 反撃開始だ。

 砲弾の装填完了を確認すると、クロウスが叫ぶ。

「撃て!」

 城壁に並べられた大砲が、一斉に火を噴く。

 大砲発射の爆音が絶え間なく轟き、数秒の後、砲弾の衝突音や地震のような振動が数十回ほど続いた。それに蟲の潰れる音や断末魔が混じって、バグラガム兵達の耳に届く。

 砲弾は大地に落下すると、地に深くめり込み、砂塵とともに黒い血飛沫を巻き上げていく。

 それでもなお敵の陣形は乱れることを知らずにいた。味方の屍を越え、地面に埋まった砲弾をすり抜けて、多数の黒蟲達が前進してくる。勢いは衰えを見せない。

 ある程度前線を押し上げられたのを境に、蟻達は牙を飛ばすことを止めて足早に城門を目指し始めた。

 そして、その時がやっと来た。

 さきほどバグラガムの兵士達が撒いていた黒い液体のうえに、ようやく蟻達が足を踏み入れ始めたのだ。ぬめった水しぶきをあげながら、液体の中で数千匹の蟲が蠢く。

「弓兵、構え!」

 クロウスの指示が再び轟然と響く。

 城壁上に配置された弓兵が、火矢を構えた。

「引け!」

 弓弦(ゆみづる)がぎりぎりと音を立てて、引き絞られる。

「放て!」

 号令を合図に、数えきれぬほどの火の固まりが飛んでいった。空中で美しい弧を描くと、夜空に翻る流星のように、大地を目がけて一直線に落下していく。半数以上が黒蟲の体に接触したものの、やはりその硬度では傷をつけるのがせいぜいで、直接的には何の効果もなかった。

 だが、狙いはそこではない。

 黒い殻に弾き返された矢は、細々と燃える火を伴って、地面の上に転がり落ちる。何度か土の上を踊ったあと、消えそうな火種が黒い液体に接触した。

 次の瞬間――、

 死にかけていた火が息を吹き返し、液体の上を元気に走り出すと、瞬時に燃え広がった。黒い液体は油だ。辺り一面が瞬く間に火の海となり、黒蟲達を容赦なく襲い始める。

 ようやく、蟲の行進が止まった。硬い殻に覆われているとはいえ、中身は人間と同じかそれ以下の強度でしかない。硬い殻が逆にあだとなり、中の臓器は蒸し焼きのような状態だろう。

 城門近くにまで攻め込んでいたほとんどの蟻がこれによって焼死した。無傷な甲殻とは裏腹に、その隙間からはどす黒い血と溶けた臓器が流れ出し、苦しみ悶えながら死んでいく。怒り狂う竜のような火炎地獄は、無慈悲にも黒蟲達を次々に飲み込んでいった。

 火攻めの効果は絶大だ。黒蟲が火に弱いということは既知のことであったが、この作戦を実行するに至るまでには相応の苦労があった。というのも、プロト国では油は貴重なものであり、灯りや料理、武器の製造など、生活にも直結してくる部分が多かったかららだ。おまけにこの時に使った油は、バグラガムが持てる四割ほどの量である。人々の生活を削る、ある意味最後の手段でもあった。

 そんな事情を知るはずもない黒蟲達に対し、クロウスは心の中で祈った。この惨状を目の当たりにして、敵が侵攻を躊躇してくれれば。全ての蟲を葬りさることは不可能だろうが、一時撤退してくれるか、少しだけでも時間を稼ぐことができれば、それだけでも違うはずだ。

 だが、期待は大きく裏切られる。

 クロウスは目を細めた。炎が轟轟と燃え上がるなかを、後に続く黒蟲達は戸惑うことなく突き進んできているのだ。

「なに……?」

 さすがにこれには度肝を抜かれた。

 黒蟲達は自らの命を顧みることなく、炎の中に身を投じはじめたのだ。その行為に、誰もが不思議なものでも見るかのように釘づけになった。

 まるで自殺行為だ。

 炎の勢いは時間が経つにつれ弱まり始め、その燃焼範囲も少しずつ収まりつつある。やはり、油の量が十分ではなかったか。

 極め付けは雨だ。いままで大人しかったはずの雨が、急に粒を大きくした。これにはさすがのクロウスも天を睨みつける。

 やつらの狙いはまさか……。まずい。

「守護壁の修復まであとどのくらいかかりそうだ」

 黒蟲の目的を察したクロウスは、近くの兵士に問うた。

「はっ。まだあと三十分から一時間ほどの時間はかかるかと……」

 長すぎるな。もはや限界か。

 クロウスは再び城外に視線を戻した。

 生活の基盤を削ってまで考案した作戦も、炎の収縮とともに、無情にも消えかけていた。あまりにも早すぎる鎮火である。

 黒蟲達の投身はさすがに予想外だった。奴らはただ無意味に身を投じていたわけではない。自らの身体を地に伏せることで、火の勢いや広がりを食い止めていたのである。自分自身が地面となることで、その上を別の蟲が安全に渡る。

 上から眺めるととんでもなく異様な景色だった。折り重なる同胞の骸を乗り越え、奴らはなおも動きを止めない。いつも見ていた豊かな風景が、一瞬にして闇に染まった。そしてその闇がじわじわとバグラガムを飲み込もうとすぐそこまで迫ってきている。

「能ある鷹は爪を隠す……奴ら、そこまでの存在だったか」

 はっきり言って、侮っていた。だが悔やんでいても仕方ない。

「ラルゴ、戦闘準備!」

 城門前で待機していた突撃部隊に命令を下す。




-Ⅱ-


 ラルゴ達からは外の様子は全く分からなかった。それを知る唯一の手段は、兄クロウスからの指示だ。

 度重なる守護陣の展開指示と敵の猛攻。それに油を用いた作戦後の突撃指令。ふたつの命令から、状況が良くない方向へ向かいだしているということは、容易に想像できた。いや、それ以前に王都の現状と黒蟲の大群を目の当たりにした時から、こちらの劣勢は予想できていたはずだ。

「ラルゴ」

 馬から見下ろしたところに、いつの間にか城壁から降りてきていたクロウスがいた。

「俺も出る」

 ラルゴは一度目をそらすと、

「兄上。見てみろ」

 不機嫌さを隠さずに言った。

 あたりを見回せば、どの兵士も表情は暗い。瞳もどこか虚ろだ。気力も摩耗し、戦う意志も体力もわずかにしか残っていない。城門の先から聞こえる黒蟲どものざわめきには、誰もが身震いを隠せずにいた。

 その先に待つものは、死か。

 それはラルゴであっても少なからず感じていることである。だがバグラガムの将軍として、彼らを導き、守り抜かねばならない責任は十分に理解している。自身が弱音を吐いていてはつまらない。

「兵は疲労に更なる疲労を重ね、既に限界状態にある。それは、あの女を長いことのさばらせてきた我らの罪だ」

 ラルゴは表情を歪め、辛辣な一言を吐いた。

 クロウスの表情が曇り、口の中で歯を食いしばっているのが分かる。返事はなかった。

「この戦い、おそらくただじゃすまない。そうだろう、兄上」

 何かを頭の中で逡巡した後、クロウスは腕を組んだ。

「ああ、侮っていた」

 ふたりは揃って目を伏せた。今回ばかりは、嫌な予感しかしない。

 ラルゴは周りの兵に気付かれぬよう、静かに瞑目する。

「兄上」再び目を開けると、クロウスに決意の眼差しを送る。「兵の命は我らが責任を持って守らねばならない」

「ラルゴ……」

「こいつらには、帰るべき場所と家族がある。俺達には無い。こいつらが命を懸けて国を守るように、俺達は彼らを死なせるわけにはいかん」

 見た目の剛力さからは想像もできないほど、実はラルゴは繊細であり、部下思いの武将だ。我が身よりも、仲間が傷つくことをいつも恐れている。

「分かった」

 クロウスは淡々とした口調で返す。無表情ではあるが、ラルゴには分かっていた。大将軍として、彼にもまた重い責任がのしかかっている。その想いが理解できぬわけがない。

「俺も全力を持って、部下を守り抜こう」

 ふたりで大きく頷きあうと、クロウスが声を張り上げた。

「総員、戦闘配備! 城外に出た後は、隊列を組みなおせ!」

 ラルゴが続く。

「良いか。ここで奴らを食い止めなければ、王都に侵入を許してしまう。この街を、そしてお前達の家族を、黒蟲どもに奪われてもいいか!?」

 ラルゴの問いに、数人がうっすらとだが言葉にもならぬようなことを呻くようにぶつぶつと答える。

「その程度の覇気、奴らに食いつぶされるぞ!」

 自らの声が、場の空気をびりびりと震撼させる。少しずつだが、兵士達の瞳に火がともり始めたのが、表情の硬さに表れてきた。

「想像してみろ。家族や家が黒蟲達に蹂躙される様を。お前達はそんなこと許せるのか?」俯き加減の兵士達をぐるりと見回す。「諦めて自らの命を差し出すか?」

「俺達は一体何のためにいままで厳しい訓練を積んできた!?」

 遠くで冷めた視線を送るユーロドスと、何が面白いのかにやついた表情のジェスが見えたが、あえて無視した。

「家族を守るためだ……」

「あんなクソ蟲どもに、負けるものか」

「俺達の居場所を、これ以上破壊させるものか」

 兵の間から、小さいが力強い言葉が湧いて出てきた。次第にその声は束となり、場の勢いを底上げしていく鬨へと変わる。

 そこに、更に畳みかけた。

「ならば、いまこそその力を発揮して見せろ! 我ら自身が大いなる剣、そして盾となり、愛する者を守るのだ! 奴らにバグラガム軍の底力を見せつけてやれ!」

 ラルゴは愛剣を鞘から引き抜く。天にも轟くような美しい音色の鞘走りが起こった時、場の盛り上がりは最高点に達した。

「おぉ!」と兵士達はいままでにないほどの活力を見せ、同じように剣を引き抜き、槍を天に向けた。門の先に待つものが死の使者だとしても、彼らには立ち向かっていかなければならない理由がある。

 鬨の咆哮が続々と上がるなか、一抹の不安を抱えながらもラルゴは叫んだ。

「行くぞ! 門を開け!」

 重厚な音を轟かせながら、いまゆっくりと地獄への門が開かれる。


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