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第2話

「あんたの血、吸わせてくんない?」

 ケラケラと笑い、舌なめずりをする美女吸血鬼を前に、

「ヴァンパイヤかつ美女とか、格好いいな君! 名前はなんて言うんだい?」

 恐れることもなくはしゃぐ西浦。

「セルシアよ――。ってなんで普通に名前訊くの!? 怖がりなさいよ!」

 予想と違う反応に、セルシアと名乗った美女吸血鬼の身体の力が抜ける。

「美女を怖がるなんて失礼だからね!」

 腕を組んでどや顔で言い切る彼に、訳わかんない……、と頭痛そうに、セルシアは顔に手をやる。

「血を吸われても同じ事言えるかなぁ?」

 気を取り直した彼女は地面を蹴って、低空飛行で西浦に肉薄する。その瞳は赤く発光していた。

「危なっ!」

 ぶつかる直前で急上昇した彼女を、目で追ったがその姿はなかった。

「じゃ、いただきまーす」

 いつの間にかセルシアは、西浦の後ろに立っていた。その口内から覗く犬歯が長く伸びていた。

 彼の首筋にかぶりつこうとした瞬間に、彼女はこめかみに跳び蹴りをくらった。

「いだっ! なんなの?」

 彼女に蹴りを入れたのは、沈黙を貫いていた白亜だった。彼女の赤い瞳が淡く輝き、その美しさが増していた。

「白亜も、なのか?」

「後ろ、下がって」

 全く変わらない表情で頷く彼女は、起き上がったセルシアを、隙無く構えてじっと見据えていた。

「わかった」

 彼女の言う通り、西浦は3歩程下がった。

「何この可愛い生物!? ねえねえあんた! この子どこで捕まえたの?」

 白亜の姿を見て興奮している彼女の顔は、滅茶苦茶危ない人のそれだった。

「捕まえたというか、俺についてきたんだよ」

「なにそれなにそれ! 超可愛い! ねえねえ君、お姉さんと良いことしない?」

 勿論そこの彼も含めてね! と涎を垂らさんばかりに言う彼女に、白亜は容赦無く殴り掛かる。

「ああ、本当に可愛いわぁ……」

 余裕の表情を浮かべ、それを最低限の動きで回避したセルシアは、

「あなたの庇護欲をそそる弱さもね!」

 どこからか真っ赤な槍を取り出し、その柄で白亜のほっそりとした腹を突いた。

「かはっ……」

 彼女は軽々と吹っ飛ばされ、西浦の隣にドサリと落ちる。白亜は身体をくの字に折り曲げ、突かれた所を抑えて苦しんでいる。

 追撃のために歩み寄るセルシア。すると、西浦が白亜の前に立ちふさがった。

「コラ! 素手相手に武器は駄目じゃないか!」

 白亜の命乞いでもするのかと思っていたセルシアは、彼に武器使用をとがめられ、拍子抜けしてずっこけた。

「気にする所そこなの!?」

「喧嘩は対等な条件でやるもんだからね!」

 キャットファイトは素手でやりなさい! と謎のこだわりを見せる西浦に、

「ホント何なのよあんた……」

 興が覚めた上に、呆れすぎて戦意を喪失したセルシアは、手にしている槍をしまった。

「大丈夫か、白亜?」

「……ん」

 西浦の手を借り、なんとか苦労して起き上がった白亜だが、

「ぁ……」

 急に身体の力が抜けて、またコンクリートの地面に伏してしまった。

「白亜どうした!」

 抱き起こす西浦の腕の中で、じっとりと脂汗をかく彼女は、動くことも出来ず浅い呼吸をしている。

「もしかしてその子、精気足りてないんじゃないの?」

 西浦の正面に屈んだセルシアは、指先に小さな血の球を作って白亜の口の中へ入れる。

「別に変なもの仕込んでないから!」

 彼女はそれを一度はき出そうとしたが、それを聞いておとなしく飲み込んだ。

 しばらくすると、途端に苦しさが収まって、白亜はゆっくりと立ち上がった。

「……」

「なに?」

 自分の方を凝視している白亜に、セルシアは少し警戒しつつそう言う。

「……感謝?」

 しばしの沈黙の後、感謝の言葉が分からなかった白亜は、西浦を見上げてそう訊ねた。

「ありがとう、って言えば良いんだ」

「ん」

 白亜は頷いてから、セルシアの方に向き直り、

「……ありがとう。悪い」

 ぼうっとしたような顔のまま、機械のようになめらかな動きで頭を下げる。

「……どういう意味?」

「助けてくれてありがとう。さっきは悪い事をした、で良いんだよな?」

 頷いて肯定する白亜を見たセルシアは、西浦の解読力に舌を巻く。

「どうやってその段階まで行ったの?」

「お、聞きたい?」

 必要最低限の言葉すら発さなかった、白亜とコミュニケーションを取るために、西浦はことあるごとに彼女に話しかけ、答えるときの様子を観察し続けた。

 そのおかげもあって、彼は白亜がほとんど何も言わなくても、思ってることが理解出来るレベルに達していた。

 それを聞いたセルシアは、西浦の理解不能なまでの情熱にあんぐりとする。

「なんでそこまでするのよ……」

「誰もが快適に過ごせるようにする、ってのが俺のポリシーでね」

 その人が何を求めているかが分からないと、対応のしようが無いからね、と西浦は大まじめに言う。ちなみに彼は、4カ国語を自在に操ることができる。

「じゃ、俺達はそろそろ行っても良いかい?」

 面食らっているセルシアの生返事を聴くと、二人は低層ビル群が左右に並ぶ道を歩いて行った。

「なんで血を吸おうしてこうなるのよ……」

 ペースをかき乱されっぱなしだったセルシアに、どっと疲れが襲ってきた。

 とりあえず日中の寝床を探すため、彼女は羽ばたいて宙に浮かぶ。

「――!」

 すると上空から気配を感じたセルシアは、素早くその方を見上げる。

「やあ、セルシア君。ちょっといいかな?」

 そこには、くすんだ銀色の長い癖毛を持つ、痩せた吸血鬼の男がいた。それは少し高い声で、やたら偉そうな態度をしている。背に生えている羽は、セルシアのものより少し小ぶりだった

「何しに来たのよ!」

「君に興味はないよ」

 先程の槍を構えて凄まじい顔で睨む彼女を、男は汚い物を見る目で見下げている。

「じゃあ、なんの用よ!」

 臨戦態勢のセルシアは、男と同じ高さまで上昇した。

「君はここで、別の同類と闘わなかったか?」

「さあね。他をあたってもらえない?」

 彼女は目も合わせずに、彼を冷たくあしらった。

「何故私の質問に答えないのかな。君は」

 君に不利益は無いのだから、別に差し障りも無いだろう? と、男はセルシアが自分に協力するのがさも当然のように言う。

「もしや何か、君に恨みでも買うような事があったのか?」

「……それ、本気で言ってるの?」

 その発言を聞いて、彼女は得物を持つ手に力がこもる。

「覚えがないね」

 振りではなく完全に忘れている様子の男に、

「ふざけんなクソ野郎!」

 セルシアは問答無用で槍を投擲した。

「おっと、どうしたんだ?」

 それをぎりぎりで回避した男は、わけが分からない、といった顔をしている。

「この私をコレクションしたい、とか言っといて! 何が覚えがないよ!」

 青筋を立てて怒るセルシアは、血で槍のコピー品を作り、男めがけて投げまくる。

「ああ、あの時か」

 それを避けながら、男は忌々しそうに顔を歪める。

 数十年前、コレクションになれ、という命令を聞かないセルシアに、男は執拗に暴行加えて従わせようとした。

「あれは君が悪いんだ!」

 だが、本気でキレた彼女からの反撃にあって、男は完膚なきまでに叩きのめされることになった。

「ああそう!」

 全く反省の色もなく、謎の責任転嫁をしたせいで、男はセルシアの怒りの火に油を注ぐ形になった。

「じゃあ死ね!」

 槍本体を手元に転移させ、彼女は男を直に刺突しにかかる。

「君は本当に暴力的だな!」

 煙幕代わりにコウモリを呼び出し、男は尻尾を巻いて逃げていった。

「誰のせいよ!」

 セルシアは男が飛んでいった方角に、槍を全力で投擲した。

「ん? あっちって確か……」

 その方向は、西浦と白亜が歩いて行った方だと、彼女ははたと気がついた

 もしかして、あのクソ野郎の狙いは……、さっきのちみっ子?

 西浦の残っている気を頼りに、念のためセルシアは空から後を追い始めた。



第3話に続きます。

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