悪役令嬢は闇のエンドレスパーティーを開く
4月1日に間に合わなかった夢オチでないホラー。
「楽しいですわね。死んだらもう貴族ではないのですもの」
私の恋のライバルだった悪役の令嬢クイニーが踊る。
どこからともなく奏でられる音楽に合わせて。
ギロチンで切り離された頭は少し上に浮いてニコニコ笑っていた。
首の断面がヌラヌラと光っている。
私は胴体とずっと踊っていた。
「あの、あの、私っ………疲れて」
ドレスを着た胴体がずっと私の手を握っている。
だから踊るのをやめられない。
ずっとずっと踊っている。
冷たいすべすべした手が強く私の手を握っているのだ。
周りは悪役令嬢の家族がやはり首をふわふわと浮かせながら踊っている。
公爵令嬢の両親、親戚。
みんなみんな。
皆が私のせいで処刑された。
処刑場にはシャンデリア、火の灯ったロウソクがやはりふわふわと浮いている。
処刑場の周りを薄暗い透明な壁が囲んでいる。
クイニー一族の闇魔法が発動したからだ。
私以外生きてる人は入れない。
クイニー一族以外は皆死んでるけれど。
あれ、クイニー一族も死んでる。
「こんな窮屈な貴族社会うんざりでしたの」
悪役令嬢クイニーがにこやかに笑う。
生前のように優雅で派手な笑顔だ。
「私、疲れたの」
足が痛い。
靴擦れで足からは血が出てる。
ずっとずっとワルツを踊っていた。
私がクイニーの婚約者をとったからこんな目に?
+++++
「クイニー・シフォン・アマン! 並びにアマン一族を王家への反逆罪で処刑とする!」
広い処刑場に兵士の声が響き渡った。
いい気味だった。
「私なんだか怖い」
そう呟いて、モノにした第1王子へとしな垂れかかると、王子は穏やかに笑う。
「私が守ってあげよう。ヒロイーネ」
イケメンにギュッと引き寄せられる心地よさに、私はかすかに笑ってみせた。
か弱く見えるようにね。
ここは乙女ゲームの世界だ。
私は日本から乙女ゲームの世界に転生した。
私はヒロインで、クイニーはヒロインに負けた。
ゲームでのライバルである悪役の令嬢は今日処刑される。
ヒロインを虐めて、王族に反逆した罪で首を落とされるのだ。
クイニーは第1王子の婚約者だったが、もちろん婚約も破棄された。
悪役令嬢クイニーはゲームと違って高慢でもないし、むしろ私に親切だった。
闇魔法を教えてくれたり、穏やかで綺麗な人。
立場が違ったら友達になれたかも。
仕方ないわね、ライバル役だし。
私を引き立てる為に死なないとね。
私に罪を被せられても、たいして反論してこなかったし本人も立場を分かってるのかな。
クイニーが私を虐めるなんてあり得ないのに、周りもよく信じたものだよね。
「え………」
処刑台の上のクイニーが、私を見て微笑んだ。
それこそしょうがないなぁ、とでも言うように。
見間違いかしら。
ゲームにそういう展開はなかったはずよ。
私は胸をギュッと抑えられるような不安を覚えた。
ギロチンを落とす前の太鼓が鳴り響く。
最期を見ないように目を逸らした。
ゲームの中でもリアルの今もヒロインで優しい私はそういうのは見れないのよ。
ふふっ。
私の不安を消すかのように、次々とクイニーの一族が流れ作業のように頭を落とされていく。
名前を呼ばれて、ギロチンを落とす。
はい、終了。
私はこの国の王妃になって、贅沢で楽しい毎日を送るんだから。
「うそ!」
「馬鹿な!」
「神よ!」
一際周りの人が騒いだ。
驚いて前を見ると、そこには悪役令嬢クイニーの首が処刑台の前に浮いていた。
血を滴らせながら微笑んでいる。
「皆様、ごきげんよう。そして、さようなら。ヒロイーネさんをご招待してパーティーの開催ですわ」
悪役令嬢が執事の首を従えている。
胴体が指をパチンと鳴らした。
周りにクイニー一族の首が揃う。
皆、にこやかに穏やかに微笑んでいた。
薄暗い透明な壁が周りに現れて、周りの王子や王、見物人達をなぎ倒しながら広がっていく。
湿った血煙をあげて人が粉砕されていった。
悲鳴をあげる暇もなく。
「あら、ごめんあそばせ。ヒロイーネさん以外はご招待しておりませんの」
処刑台から降りてきた胴体が、扇子を開いてクイニーの口元を覆う。
クスクスと笑っているようだった。
なんなの、これ。
背中が冷たい。
汗が流れてる。
第1王子の寄り添っていた体はないのに、手だけがまだ私の事を引き寄せていた。
もしかして………。
自分の事を確認する勇気はない。
「ゴミが付いておりますわ。ヒロイーネさん。仕方のない方ね。本当に。うふふっ」
クイニーが手をかざすと王子の手の感触が消えて、下にベチャっと落ちる音がした。
濃密な血の匂いがする。
むせかえるほどの血の匂いが怖い。
いつの間にか流れる涙で視界が曇った。
「皆さん死んだら終わりなのね。寂しいわ。ヒロイーネさんはずっと一緒に居てくださいますよね?」
クイニーの本当に哀しそうな目が私を見る。
胴体の手が祈るように手を組んだ。
「あ………あ、あぅ」
まともな言葉は出ない。
喉がヒューヒューと鳴る。
「良かったわ。居て下さるのね。では、終わらないようにワルツを踊りましょう」
クイニーの隣に立つ執事の胴体が腰を折った。
途端にどこからかシャンデリアとキャンドルが山程出てきて辺りを輝かせる。
バイオリンが空中に現れてメロディを奏でた。
「闇魔法エンドレスパーティーですわ。このパーティーでヒロイーネさんも闇の社交界デビューですわね」
クイニーが震える私の手をとる。
黒い手袋に包まれた冷たい手に、私は悲鳴をあげた。
「いい事を思いつきましたわ。ヒロイーネさんの小悪魔加減を私の兄が気に入ってましたの。お兄様と結婚して下さいませね」
悪役令嬢クイニーが美しい笑顔で踊る。
頭と身体が入り乱れて踊っていて、どれがクイニーの兄かは分からない。
これは悪夢なのかな。
「永遠に楽しく過ごしましょうね。ヒロイーネさん。貴方にはその素質がありますわ」
分かってる事は。
この悪夢は永遠に覚めないみたい。
読んで下さってありがとうございます。
ポイントやブクマありがとうございます。
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