はじまり
闘い。
小さな男と大きな男。
二人が闘っている。
派手さが欠けらもない純粋な闘い。
それを子供が見ていた。
殴り、蹴り、投げる。
眼を惹くようなものではない。
なのに、その子供は何かに憑かれたかのように、その闘いを見ていた。
「――」
「――」
男の声と女の声。
ギャラリーは子供を入れてその三人だけ。
金のもらえない試合。
殺し合い。
すでに小さな男の右腕が折れていた。
すでに大きな男の顔がれていた。
それでも動ける。
相手を殺すことができる。
だからやめない。
だから続ける。
だから命を奪い合う。
だから闘う。
小さな男がソバットを当てた。
大きな男が吹っ飛びロープに当たった。
その反動で戻り、小さな男を捕まえた。
脳天にチョップを繰り出した。
唐竹割り。
一度、二度、三度。
小さな男は鮮血で顔を染め、膝を落とした。
それでも大きな男は止まらなかった。
足を振り上げ、小さな男の右肩に踵を落とした。
折れた。
小さな男は倒れた。
それでも額をリングに押し当て、ばね仕掛けのように跳ね起きた。
大きな男が殴る。
こらえることができずに小さな男は倒れる。
起きる。殴る。倒れる。
起きる。殴る。倒れる。
起きる。殴る。倒れる。
大きな男が泣いた。
小さな男が笑った。
「やれ」
小さな男がつぶやいた。
子供にもその言葉は聞こえていた。
「わかった」
大きな男が頷いた。
子供にもその言葉が聞こえていた。
大きな男は小さな男の背後に回りこみ、首を絞めた。
裸締め。
一、二、三―――。
小さな男が倒れた。
大きな男は立ちあがり、小さな男の背を見た。
ぴくりとも動かなかった。
「―――」
大きな男が叫んだ。泣いていた。