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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第七章 一人前の冒険者

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7-1.とある冒険者の後悔

 マイルスダンジョンの封鎖が解けてから二週間が過ぎていた。封鎖解除当日こそ多くの冒険者が訪れたが、二週間も過ぎるとその熱狂は落ち着き、以前と変わらない程度の人数しか入らないようになった。クラノもそのうちの一人だった。


 初日、上の階層では多くの冒険者を見かけたが、下の階層に行くほど人数は減っていく。八階層になると、上階層の賑わいが嘘と思えるほど静かだった。しかし、八階層に冒険者が少ないのはいつもの事である。

 八階層から下の階層は、言わば中級冒険者になろうとしている冒険者向けの階層だ。七階層までのモンスターが可愛く見えるほどのモンスターがうようよといる。中級ダンジョンに居てもおかしくないモンスターがほとんどだから当たり前だ。


 ヒラン曰く、勘違いした下級冒険者を振るい落とすための試練だという話だ。初めてそれを聞いた時は、そんな厄介なモンスターを下級ダンジョンに入れるんじゃないと不満を言いたくなったが、多くの冒険者を見るようになってからはその考えは正しいと思った。

 七階層まではセンスだけで踏破できる者がいる。しかし八階層以下を踏破するには、センスだけではなく戦術が必要となる。つまり、どう攻略するかを考えなければならない。これは中級ダンジョンに挑むときに必要な能力だ。


 それが出来ない者は中級ダンジョンに行ってもすぐに死んでしまうので、死人を増やさないためにはこういう予防措置が必要なのだろう。実際に八階層以下で実力をつけた冒険者は、中級ダンジョンに行ってもそうそう死にはしないが、一回十階層まで踏破しただけで中級ダンジョンに挑んだ冒険者のほとんどは死んでいる。だからクラノは、マイルス下級ダンジョンを踏破したにもかかわらず、中級ダンジョンには挑んだことは無かった。


 マイルスダンジョンの八階層以下を主な狩場としているクラノは、初日から八階層に下りた。八階層以下のモンスターの素材は、現在街で高騰しているため、早く売れば儲けが大きいと考えたからだ。実際、封鎖が解けてから一週間は大きな利益を得た。

 しかしその後からは価格の変動が落ち着き、二週間も過ぎると以前と変わらない値段になった。モンスターの顔ぶれが封鎖前とほぼ変わっていないという情報を得ると、様子見していた冒険者が八階層に来るようになったからだ。それにより以前と変わらない量の素材が出回るようになり、価格が元に戻ったということだ。


 その時点で、クラノは一旦休むことにした。封鎖解除されてから二週間、ずっと八階層以下で狩りをしていたので疲れが溜まっていた。それなりに儲けも得られたので、少し休んでも生活に支障は出ない。ただ、楽で儲けられる美味しい依頼があれば受けてみようと思ったので、冒険者ギルドに訪れていた。


 ギルドの中に入り、掲示板の依頼書を眺める。悪くは無いがそそる様な依頼は無い。わざわざ休みを無駄にするまで受けたいとは思えず、今日を完全休養日にすることにした。


 食堂のテーブルに座り、食事を注文する。料理が来るまでどうしようかと考えてると、誰かに見られている気配を感じた。

 さりげなく周囲に目を向けると、何人かの冒険者やギルド職員が時折クラノに視線を向けている。まるで何か変な事をするのかと様子を窺っている様な目だ。

 そのときクラノは、立場を忘れて呑気にギルドの食堂で居座った間抜けさを恥じた。


 クラノは今や、冒険者の間では避けられる存在となっていた。社交的な性格ではないうえに、口が悪いこともあって、元々友人は少なかった。ただ素行自体は悪くなかったことと、下級冒険者の中では腕が立つ方だったので、それなりの実績と信頼を得ていたつもりだった。


 しかしある出来事を起こしてから、それが全部なくなった。


 先月、ギルド職員のフィネを糾弾した。ハイエナを行うマナーの悪い冒険者、ヴィックを贔屓し、注意を全くしなかったことについてだ。


 当時クラノは、ハイエナ冒険者であるヴィックを嫌っていた。ハイエナ冒険者は上級ダンジョンに入ったうえに麻薬の販売に関わろうとしたにもかかわらず、お咎めなしで解放されたからだ。一緒にいたクラノの友人であるジラは捕まったというのに。


 ジラは怠け者で意地が悪いが、初めてできた冒険者仲間だった。一緒にダンジョンに行った時も、クラノが気づかないような些細なことに気づき、それに何度も助けられたことがある。磨けば光る冒険者だと思っていた。だがジラは、金遣いが荒いこともあったので、いつもお金に困っていた。そこをフェイルという男に付け込まれたのだ。


 フェイルの計画に加担したジラは捕まった。冒険者の資格も剥奪されたので、二度と一緒に冒険をすることはできない。やったことを考えれば分からなくもない判決だが、同じことをしたハイエナ冒険者のヴィックが無罪だということには納得できなかった。

 不条理な事実を受け入れられずに日々を過ごしていたある日、ノイズに声を掛けられた。今思い返すと、なぜ疑わなかったのかと当時の自分に言ってやりたい気分になった。


 クラノはノイズから、ヴィックがハイエナ行為をしていることを知った。しかもギルド職員のフィネがそれを知ったうえで見逃していることもだ。

 ヴィックに対する怒りのぶつけ所を探していたクラノにとって、それは朗報と言っても良かった。不真面目な輩に誅を下す絶好の理由が出来たのだ。だからノイズと協力してヴィックを陥れようとした。


 それが、一番罰を受けるべき人間であるフェイルの作戦だと気づいたのは、全部が終わった後の事だった。


 クラノは、ヴィックがハイエナ行為をしたという報告が全部嘘であったとは考えなかった。もちろん、馬車を襲撃するという話も寝耳に水だった。そんなことをする気は全く無く、せいぜいヴィックに少し痛い目を遭わせてやろうと思っただけだった。

 そして事が終わった後、クラノはフェイルの一味として捕まった。幸いにもフェイルの一味とは関係ないことが証明されたので注意を受けただけで終わったが、周囲の人間からは未だに疑いの目が向けられていた。火の無いところに煙は立たずということで、何らかの手を使って罰から逃れたと思われているようだ。


 その結果、あの事件から一ヶ月以上経った今も、周囲から監視するような目で見られている。襲撃事件が起こってからは、その目を避けるためにギルドには長居しない様にしていたのだが、すっかり忘れてしまっていた。


 すぐにでもこの場から去りたくなったが、さっき料理を注文したばかりだ。折角の料理が無駄になるのは心が痛い。クラノは視線に耐えながら料理を待つことにした。


 メニューを見る振りをして顔を伏せる。周囲の人間の様子が見えなくなれば気にならなくなると思ったからだ。その代わりに周囲の音が良く聞こえるようになったのは誤算だったが、何とか我慢することにした。

 注文してから料理が来るのは、いつもなら十分ぐらいで来る。それを食べたらすぐに外に出る。それまでの辛抱だ。


 動かずにじっと座っていると、一つの足音が聞こえた。クラノの方に向かって、真っ直ぐ来ているようだった。料理を運んでいるのかと思って視線を上げる。


 しかしその足音の主は、出来れば会いたくない人物のものだった。


「クラノさん、ですよね?」


 ハイエナ冒険者として仕立て上げてしまったヴィックが目の前にいた。


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