1-5.冒険者の生き方
ヒランさんからの説明を終えて冒険者ギルドに戻ったときには、陽が沈みかけていた。僕達は剥ぎ取ったチュールの皮や爪を入れた袋を担ぎながらギルドの中に入った。
中に入ると、ギルドの制服を着た長い金髪の女性が入り口の近くに居た。
「お帰りなさーい。今日もお疲れさーん……ってあれ、新人かな?」
年上に見えるその女性は、軽い口調で僕とヒランさんを出迎えた。
「はい。本日から冒険者になりました、ヴィックです」
「そっかそっかー。私はリーナっていうんだ。よろしくね。君はどこから来たんだい?」
「サリオ村ってところから来ました。今日着いたばかりです」
「あらー、結構遠い所から来たんだねぇ。大変だったんじゃない?」
「そうですね、三日も船に乗ってたんで……。けど船員さんに良くしてもらったので、悪いものではなかったです」
「うんうん。良い船員に会えて良かったねー」
リーナさんは次々と言葉を投げかけて来た。こういう会話は慣れていなかったが、気さくな態度で話しかけられるのは嬉しいものだった。
話をしていると、ヒランさんが咳払いをする。
「リーナ、ヴィックさんが取ってきた素材の買い取りをしてください」
「りょうかーい。じゃ、頂戴」
リーナさんは両手を前に出し、僕は担いできた袋をその手の上に置く。リーナさんはそれを受付の方に運んで行き、袋の中身を取り出して一つずつ見始める。
十分ほど経つと、「終わりー」と言って僕の方を見た。
「鑑定終わりましたー。買い取り額はこのようになっていまーす」
そう言って、数値の書かれた紙を渡してきた。文字は読めないが数字は分かるので、買い取り額の値段を口に出して確認する。
「三千G……合計ですよね?」
「そだねー。チュールの皮はそんなに高くないけど、あの大きさの爪はそれなりに価値があるんだー。内訳としては、皮が二割で爪が八割ってところだね」
同じモンスターでも剥ぎ取るものによって値段が違う。結構重要なことだと感じた。
「さて、これで説明はすべて終わりました。ヴィックさん、お疲れさまです」
「はい。こちらこそありがとうございます」
僕はお礼を言ったが、「いえ、気にしないでください」と受け流された。
「何もしないと碌でもない冒険者が増えてしまいますので。これくらいの労力は惜しみません」
「碌でもない冒険者?」
ヒランさんのような女性から愚痴が出たのは少し意外だった。
「そうそう。ヒランちゃんが来てくれてホントに助かったよ。以前までは新人冒険者に対して簡単な説明しかできなかったからさ、知らずにルール違反をする冒険者が多くいたんだー。そのせいでダンジョンが荒らされたり、横柄な奴が得するような状況になっちゃってたの」
「今はそういう人達も、あれこれしたお蔭でほとんどいなくなりました。あとヒランちゃんはやめてください」
「ヒランちゃんが頑張ってくれたんだよねー。ダンジョンを上級冒険者の人と一緒に巡回して取り締まってくれたり、地道に新人冒険者達に親切に指導をしてくれたお蔭でね。ホント頭が下がらないよー」
「上がらない、の間違いです。あとヒランちゃんはやめて下さいと―――」
「ま、そういうことだからさ」
リーナさんは僕に近づき、しゃがみ込んで僕の両手を握る。手を握られてドキッとしたが、リーナさんの表情は真剣だった。
「良い冒険者でいてね。皆のためだけじゃなく自分のためにも。なんてねっ」
彼女の眼は優しかった。金色の瞳から温もりを感じ、心から僕の身を案じているようだった。
最後こそふざけた感じに戻ったが、リーナさんの言葉が嬉しくて、僕は無意識に頷いていた。
「しかし冒険者になるというのだから、それなりの装備は準備していてください。せめて武器ぐらいは」
ヒランさんが僕に忠告すると、リーナさんが元の調子で僕に言う。
「それもそうだねー。今日買いに行くのなら早く行った方が良いよー。もうすぐ武器屋も閉店時間だしー。明日行くならいいけど」
「あ、いえ。今から行ってきます」
「そっか。じゃあまたねー」
リーナさんが手を放してから、僕は「はい。ありがとうございます」と礼を言った。
僕は外に出るとすぐに武器屋に向かった。行くのは明日でも良かったのだが、さっきの言葉が嬉しくなって気が逸っていた。あんな風に応援されたら張り切るのも可笑しくはないと、自分に言い訳をした。