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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第一章 新人冒険者
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1-4.戦うギルド職員

 ダンジョンは冒険者ギルドから、そう離れていない場所にあった。

 冒険者ギルドから北に向かうと城壁と門があり、門を通って北に歩くと大きな洞窟があった。徒歩で三十分。お手軽な冒険が出来そうだ。


「ここがダンジョン、ですか……」

「正確に言えばこれはダンジョンに繋がっている洞窟です。この洞窟の中にダンジョンがあります。付いて来て下さい」


 ヒランさんを先頭にして、洞窟の中を進んでいく。洞窟の壁には松明が備え付けられているので、それほど暗くはない。だけど時々道に凹凸があるため、足を取られてしまうことがあった。ヒランさんは足場の悪い道であるにもかかわらず、足元を見ずに進んでいく。その様子から、この洞窟に来慣れていることが分かった。


「では、歩きながら説明します。ダンジョンには様々なモンスターがいます。しかし基本的には、洞窟内のモンスターの強さは同じくらいです。階層ごとにモンスターの強さは変わりますが、大きなレベル差はありません。

 モンスターの強さによって、ダンジョンの危険度も左右されます。ダンジョンの危険度は、下級・中級・上級の三つに区分されてます。それぞれの危険度によって、ダンジョンに入れる冒険者も限られます。下級ダンジョンは誰でも入れますが、中級ダンジョンは下級ダンジョンを踏破した者しか入ることを許可されません。上級ダンジョンは、中級ダンジョンを踏破し、さらに冒険者ギルドの試験に合格した者だけです。

 また、発見されたばかりで危険度が区分されていないダンジョン、通称未開拓ダンジョンもありますが、こちらは冒険者ギルドが認めた者だけが入ることを許されます。

 ここまでで何か質問はございますか?」

「……大丈夫です」


 色んな情報がいっぺんに入ってきたが、何とか順番に整理する。要は各ダンジョンには危険度が設けられており、その危険度によって入れる人が限定されるということだ。そして僕が今入れるのは下級ダンジョンだけ。


「分かりました。では―――」


 話の途中でヒランさんは突然刀を抜いた。抜いた刀を上空に突き刺すと、直後に短い呻き声が聞こえる。刀の先には、両手を広げたくらいの大きさの黒い蝙蝠みたいな動物が突き刺さっていた。

 ヒランさんは刀からそれを抜くと、道の端にゴミを捨てるかのような気軽さで捨てた。


「説明を続けます」


 何事も無かったかのように、再び歩きながら説明を始める。淡々とした対応にぞっとした。


「ダンジョンは色んな場所にあり、場所ごとに生息するモンスターも変わります。ダンジョンごとに戦略を立てて進むのが安全です。

 中級冒険者でも慣れていない下級ダンジョンに入ったときは、モンスターや地形の違いで苦戦するという方も大勢います。常に注意深くいることが大事です」


 ヒランさんは歩を止めて僕の方に向く。「着きました」と一言言って、僕を前に出るように促す。

 前に出ると、その先には柵が設けられており、奥の道は下り坂になっていた。柵の手前には看板が立っており、『マイルス下級ダンジョン』と書かれている。

 この先がダンジョンであることが分かると緊張したが、一方で楽しみにしている僕がいた。


「では、行きましょう」


 再びヒランさんが前に出て進む。足元に注意しながら僕も付いて行った。


 坂はそれほど急ではなく、路面もほぼ平らなためこける心配もなさそうだ。何人もの冒険者がい行き来してるため整備されているのだろう。

 ほどなくして坂は終わる。ヒランさんは立ち止まり、さっきと同じように僕は前に出るように勧められた。


「ここからがダンジョンです。ダンジョンには命を脅かすモンスターが生存しており、ここから先は誰も命の保障はしてくれません」

「……はい」


 ヒランさんの真剣な言葉を聞き、僕は再び気を引き締める。


「けど今はご安心ください。先程も言いましたが、この付近にはモンスターはあまり来ません。来たとしても下の下レベルのモンスターぐらいで、わたくしなら片手間で倒せます。それから―――」


 頼もしい言葉を吐いた後、ヒランさんは前方の道を指し示す。そこには洞窟と同じように松明が等間隔で設置されている。


「ダンジョン内に備え付けられている松明は、下層へと続く最短ルートを示しています。早く下に行きたい方はこの松明を頼りに進めば大丈夫です。それ以外の方は、松明を無視して階層のモンスターを討伐しています。あと、大事なことが一つ」


 そう言うとヒランは刀を握りしめて構えた。何事かと思ったが、前方から音が聞こえた。その音は一つだけではなく、徐々に近づいて来る。

 近づくにつれて、その音が鳴き声だということが分かった。しかもかなり多い。だが、どんなモンスターかは想像できた。


 そのモンスターが松明の明かりに照らされた。丸っこく小さな手足と長い尻尾が特徴のモンスター、チュールだ。村に居たときも目にしたことがあるモンスターだが、あのときのチュールは僕でも退治できるほどの弱さだった。

 だが、今目の間にいるチュールは倒せる自信が無い。このチュールは、村で見たものよりも五倍くらいでかい。しかもそれが十匹もいる。


「珍しいですね。一匹ならともかく、こんなにもいるなんて」


 ヒランさんは感心していたが、そんなに悠長にしていられる理由が分からなかった。チュール達は完全に僕達を捉えており、明らかに襲い掛かるタイミングを見計らっている。


 だがヒランさんは嬉しそうに、少し声を弾ませた。


「わたくし達は運が良いですね」

「へ?」


 この状況を前にして、ヒランさんは運が良いと言った。僕の頭には、「死」の文字が浮かんでいたというのに。


「丁度モンスターを探していました。その手間が省けます。そのうえ―――」


 ヒランさんは突然、チュールの群れに突っ込んでいった。あっという間に距離を詰めると、先頭のチュールを切り裂く。直後に他のチュール達がヒランさんに襲い掛かったが、ヒランさんは難なく躱すとすかさず反撃する。その一瞬の間に、ほぼ全部のチュールを狩っていた。


 一匹だけ難を逃れたチュールは走り出し、僕の方に向かって来る。すぐに剣を抜こうとしたが、いきなりの展開に慌てて剣を握り損ねる。

 だが、剣を抜く必要すら無くなった。いつの間にか、チュールの身体に刀が刺さっている。ヒランさんの方を見ると手には刀が無く、物を投げたような体勢になっていた。


 ヒランさんはチュールに刺さった刀を抜き取って僕に言った。


「素材を剥ぎ取るための練習台が増えました。これで思う存分練習ができます」


 モンスターの血がついたまま淡々と話すヒランさんに、頼もしさを越えた恐怖を感じた。


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