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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第五章 下級冒険者

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5-12.何が起こるかわからない

 気を取り直して、ウィストは気を入れ直した。

 あるか分からないものに気にして縮こまってはいられない。すぐに二組の援護に向かおう。


 ウィストは彼らの様子を確認しようと、二組に目を向けた。

 カイト達と中級冒険者の組は、中級モンスターを一体ずつ相手取っている。中級冒険者の近くには、頭がへこんでいるモンスターの死骸が横たわっていた。打撃系の武器は、この場には中級冒険者が持っているハンマーしかない。

 ウィストは短時間で下級モンスターを二体片付けたが、中級冒険者はそれよりも早く中級モンスターを倒し、しかももう一体の中級モンスターを相手にしていた。今も慣れないチームでありながらも、落ち着いた様子でモンスターと戦っている。頼りないという評価は、全くの見当違いのようだった。


 中級冒険者組は大丈夫そうなので、ウィストはカイト達の援護に向かうことにした。カイト達が相手しているのは、犬の様な顔をして鋭い爪と牙を持ち、二メートルの高さがあるヒト型のモンスター、ワーウルフだ。俊敏な動きと手数の多い爪の攻撃が厄介らしい。

 カイト達は攻撃を食らわない様に、カイトがワーウルフに張り付いて動きを制限している。しかし一方でカイト達の攻撃も当てられて無さそうだった。お互いに決め手を欠いている戦況のようだ。


 ウィストはワーウルフの後ろに回って、カイトと挟撃しようとした。それに気付いたカイトが、口を動かしながら自分の足に剣を当てる。足を狙え、と言っているように見えた。

 ウィストが頷くと同時に、カイトは一度後ろに下がる。仲間に何かを言うと、再びワーウルフに向かって攻撃を再開した。カイトは剣で、後ろにいたラトナはボウガンでワーウルフの上半身を狙って攻撃していた。ミラは狙いを定めるようにして槍を構えてワーウルフを睨み、ベルクは大剣を肩の高さまで持ち上げていた。


 さっきまではカイトがワーウルフの動きを制限させ、隙が出来たところを三人が狙うような戦い方だった。だが今の戦い方は、カイトとラトナが注意を引きつけている。これだとカイトだけではなくラトナも狙われる。四人で組んでいる利点を無くした行動だった。

 しかしその四人組らしくない攻撃は、むしろ分かりやすかった。カイトの攻撃が次第に大振りになると、ワーウルフも後ろに下がって避け始める。そしてカイトが大きく踏み込んで攻撃すると、後ろに跳ぶように下がる。その瞬間、ウィストはワーウルフに向かった。


 背後からの不意打ち。しかもカイト達の執拗な上半身への攻撃のお蔭で、警戒が薄くなった下半身への攻撃だ。避けられるわけが無い。

 ウィストは着地すると同時に、ワーウルフのふくらはぎに刃を刻む。突然の不意打ちにワーウルフは悲鳴を上げるが、体勢は崩さなかった。だがウィストの攻撃後に跳び出たミラの槍に太股を刺されると、耐えきれずに膝を地面につけた。その瞬間、ベルクが前に出た。


「ナイスアシストだ!」


 大剣を持ち上げて構えていたベルクが、躊躇うこと無く大剣を振り下ろした。大剣は膝をついて下がったワーウルフの頭を、真っ二つに縦に切断した。当然、ワーウルフは何もできずに絶命した。

 簡単に倒したように見えるが、そう思わせる程の連携に、ウィストは感銘を受けていた。息の合った連撃に突然参戦したウィストに合わせた柔軟な戦術は、ウィストには無いものだ。余程息を合わせていないとできない。


「助かったよ。ウィストが来なかったら、もっと時間がかかってた」


 カイトがすぐに礼を言いに来る。たいしたことをしていないというのにこのフォローの速さ。さすがと言わざるを得なかった。


「いいよ、気にしなくて。それよりも残りのモンスターを倒しに行こう」


 早々に話を切り上げる。残りは中級モンスター一体だ。早く片づければ、上級冒険者達の援護が出来るかもしれない。


 カイトも「そうだね」と頷いた。


「じゃあ早速―――」


 言葉の途中で、何かがウィストとカイトの間を横切った。直後に、横切った方向から何かがぶつかる大きな音がした。

 視線を向けると、中級冒険者が馬車に衝突して、地面に落ちる姿が目に映った。


「嘘だろ……」


 ベルクの独り言が耳に入る。中級冒険者が飛んできた方向を見ていたので、ウィストもその方向に目を向ける。


 目に映った光景は、ウィストの思考を停止させた。


 全身が岩でできた五メートルはある巨体が、冒険者達を見下ろすように立っていた。その特徴は見聞きしたあるモンスターと一致している。

 名はゴーレム。上級ダンジョンに生息するモンスターだ。

 上級ダンジョンのモンスターは上級冒険者が引きつけているはずなのだが、ゴーレムは釣られなかったというのか。


 そんな風に考えている間に、ゴーレムは動き出した。足元にいる盾持ちの冒険者に向かって、腕を振りかぶる。


「逃げて!」


 ウィストは咄嗟に叫んだ。だが狙われた冒険者は動かない。いや、動けないのか。彼はゴーレムに驚いて、足が竦んでいる様だった。

 すぐに走り出して助けようとするが、間に合うか微妙なタイミングだった。


 そのとき、後ろから何かが破裂音が聞こえた。さっきノイズが撃ったピストルの音と同じだ。

 後ろを見るとカイトが、ノイズが持っていた銃と似た物を持って、ゴーレムに向けて撃っていた。銃口からは赤色の煙が噴き出て、ゴーレムと盾持ちの冒険者の間に伸びている。ゴーレムは視界を奪う程の煙に驚き、さらに煙に遮られて攻撃対象を見失ったことで動きを止めた。


 この隙に盾持ちの冒険者に近寄る。彼の手を引いて、一緒にカイト達の方に戻る。するとカイトとベルクはすれ違うようにゴーレムの方に向かって行った。


「時間を稼ぐ! 逃げる準備を!」


 すれ違いざまにカイトが言った。


「逃げるって……依頼は?」

「失敗に決まってるでしょ!」


 カイトに向けた疑問をミラが答える。その表情からは焦りが感じられた。


「けどあの二人を待てば―――」


 上級冒険者の二人がこっちに気付けば何とかしてくれると思った。彼らならば倒してくれる。そう考えた。

 するとミラはある方向を指差す。その方向にはモンスターと戦う上級冒険者の姿があった。

 しかし、戦っているのは一人だけだった。赤髪の青年が青髪の青年と一緒に馬に乗っているが、青髪の青年はぐったりと前に座っている赤髪の青年の背中にもたれている。

 地面には上級モンスターが一体倒れているが、まだ向こうには三体、こっちには一体残っていた。


 ミラは「分かるでしょ」と諭す。


「あと戦えるのは私達下級冒険者とあの上級冒険者一人だけ。けど上級モンスターは四体もいるのよ。勝てるわけないじゃない!」


 悲痛な叫びがミラの口から出る。

 ミラの言う通り絶望的な状況だ。打開できるビジョンが見えない。たしかに逃げた方が良さそうだ。


 しかしウィストは、その決断ができなかった。


 ウィストは一緒に馬車に乗った商人の男性と上級冒険者の言葉を思い出していた。男性はヒラン達のお蔭で冒険者ギルドが変わったと言った。つまり今回の依頼は、ヒラン達の努力が認められて依頼された仕事だ。上級冒険者達も、依頼を失敗してヒランの評価が下がらない様に戦った。ひとえに、ヒランやその仲間たちのために。

 だがこの依頼に失敗すれば、今までヒラン達が積み上げた信頼に傷がついてしまう。彼らの思いを果たせないと考えると、逃げるという選択肢を取れなかった。


「ちょっと、大丈夫なのか? あれ」


 決断に迷っていると、馬車の中から人が出てきた。モンスターが出たときは馬車の中に居るように言われていたはずだが、戦況の悪さを感じ取ったのだろうか。他の乗客も馬車から出て様子を窺ってくる。


「なんだあのでかいのは?!」

「……なぁ、あれ、倒せるの?」

「おい! 冒険者が倒れてるじゃねぇか!」


 乗客達が騒ぎ始める。同時に不安が伝染していき、逃げようとする者も現れる。


「待ってくださーい! 勝手に逃げたら守れなくなっちゃいます!」

「守れそうにない癖に何言ってんだ! 注意する暇があったら倒しに行けよ!」

「あんた! ラトナに向かって偉そうな口叩いてんじゃないわよ!」

「てめぇもだよ。くそ、これだから冒険者は」

「静かにしてください! これ以上騒いだら―――」


 ズシンっと大きな足音が聞こえた。振り向くとゴーレムが近くまで来ている。大声で騒いでいたので、ウィスト達の方に意識が向いたのだ。


 ゴーレムは左手を振りかぶって、馬車に目掛けて拳を振るう。馬車にはまだ大勢の乗客が残っている。だが、ゴーレムの攻撃を止める術がない。

 まっすぐと伸びて来る腕を見て、何もできなかった。


 ゴーレムの拳と馬車の間には、何も阻むものは無い。

 そのまま馬車に拳が当たる、はずだった。


 突如その間に、黒く大きな馬が横入りした。同時に激しい打撃音が発生する。岩でできたゴーレムの拳が馬を殴った音ではない。硬い物同士がぶつかる音だ。

 ゴーレムの拳が大きく弾かれた。拳が馬車から大きく逸れ、何もない地面に突き刺さる。同時にゴーレムが体勢を崩した。


 ゴーレムが体勢を崩している間に、馬に乗った者が口を開いた。


「みなさん、ご安心を!」


 その者の姿を見て、乗客だけではなく冒険者達も息を呑んだ。


「私が来たからには、もう大丈夫です!」


 《マイルスの英雄》ソランが参上した。


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