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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第五章 下級冒険者

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5-11.今できること

「モンスターが右側から接近!」


 中級冒険者が叫ぶ。事態を掌握した冒険者達は、すぐに武器を持って馬車から降りた。上級冒険者たちは、中級冒険者が叫んだ瞬間には馬車団の右側に移動し、武器を持って臨戦態勢を取っていた。

 二人の上級冒険者のうち、赤髪の青年は槍を、青髪の青年は斧槍を持っている。二人とも上質な赤色と青色の鎧を身に纏い、向かってきているモンスターを眺めていた。


「簡単な依頼だと思っていたのになー。ついてないな」

「全くだ。報酬を貰えるうえ、ヒランの頼みとなれば断る理由は無かったんだが」

「ヒランの調査ミスかな?」

「そうかもしれんな」

「つまりこのまま皆が死んだらヒランのせいになるってこと?」

「そうなるな」


 呑気にヒランに責任を押し付けようとする態度にイラついた。一体こういうときに何を話しているというのだ。

 一言言ってやろうと思い、口を開こうとした。


 その寸前に赤髪の青年が、


「じゃあ、絶対に逃げるわけにはいかないね」


 と決意を口にする。

 青髪の青年も、


「そういうことだ。普通に倒して、依頼通りだったってことにするぞ」


 と答えた。前言撤回だ。

 彼らはむしろ、ヒランの責任にしない様に戦おうとしている。冒険者にここまで好かれているとは、ヒランが少し羨ましい。


 ウィストを含めた冒険者達の準備が終わると、上級冒険者達の下に向かって指示を受けようとした。

 だが青髪の青年が「待て」と言って止める。


「上級ダンジョンのモンスターは、俺達が何とかする。それ以外を、お前が指揮して対応しろ」


 青髪の青年が中級冒険者を指して言った。全身を甲冑で纏っている中級冒険者は、「僕がですか?」と驚いている。ベルク並の大きな身体だが、少し頼りなさそうに見える。


「そうだ。中級以下のモンスターはお前に任せる。下級のモンスターはともかく、中級モンスターにはお前か、下級冒険者を複数で当たらせろ」

「しかしこんなこと、僕はしたことが―――」

「やれ! 後は任せたぞ!」


 青髪の青年は赤髪の青年と顔を見合わせると、同時にモンスターの群れに突っ込んでいった。馬に乗っていることもあり、あっという間に距離を詰める。彼らはモンスターの群れとぶつかる直前に左右に分かれ、同時に武器が届く範囲にいるモンスターに攻撃を仕掛けた。


「ほら、こっちだ!」


 挑発しながら、モンスターの群れの周りを回り始める。反撃されているが、巧みな馬術で悉く躱している。その技量には惚れ惚れするほどだった。


 だが今は眺めてばかりはいられない。おそらくあれは、ウィスト達の準備が整うまでの時間稼ぎだ。どれだけあの調子が続くかはわからない。

 それを察したのか、中級冒険者はウィスト達に向かって尋ねる。


「君達の中で、普段から組んで動いている者はいるかい?」


 今この場に残っている冒険者は七名。その声にミラ達が手を上げる。同時にカイトが四人で組んでいることを言った。残ったウィストを含めた三名は手を上げなかった。


「じゃあ残った三人、武器は何?」


 ウィストは自分の武器を持って、「双剣」と答えると残りの二人が「斧」、「盾と剣」と答える。

 中級冒険者は数秒考えると、ウィストの方に向かって尋ねた。


「君はあのモンスターを知っているか?」


 中級冒険者がモンスターの群れにいる二匹のモンスターを順に指す。最初に指差したモンスターはワーラットだ。七階層にいたものと同じ大きさだ。次に指したのは、大きな牙を生やした四足モンスターのピング。戦ったことは無いが知識はある。鋭く重い突進を売りにしているモンスターだ。六階層にいるモーグと同じ要領で戦えば勝てる相手だ。


「はい。どんな動きをするかは知っています」

「よし。じゃあ君はあの下級モンスターを相手にしてくれ」


 素早い判断に釣られて、つい頷いてしまった。下級モンスターを相手するのは問題無いが、そんな簡単に決めても大丈夫なのだろうか?

 中級冒険者が下級冒険者達に話し始める。皆、固唾を飲んで耳を傾けていた。


「モンスターの群れは十体。その中の三体が中級ダンジョンのモンスターで、残り二匹は下級ダンジョンのモンスター。中級のモンスターは、そこの四人組と、僕と組んだ二人の冒険者で当たる。残り一人は下級モンスターを倒すのが役目とする。その下級モンスターを相手するのが彼女だ。武器の相性的にも、君達が僕と組むのが最適だと考えた」


 中級冒険者は二人の冒険者に向けて言う。たしかに彼と組むのなら、ウィストよりも二人の方が適しているだろう。

 中級冒険者の武器はハンマーだ。彼のサポートを考えれば、動き回るウィストより、どしんと構える盾持ちとハンマーに合わせやすい斧の方が良い。

 二人もそれを察したのか、相方に選ばれて浮かれた様子は無い。


「僕が先に出てモンスターを引きつけるから、その後に続いて来るように」


 中級冒険者はウィスト達を見渡すと、モンスターの集団に向き直る。打合せが終わったことに気付いたのか、青髪の青年がちらりと視線をウィスト達の方に向ける。

 すると青髪の人は馬を制止させ、逆方向に回って赤髪の青年と合流する。合流するとウィスト達から遠ざかるように走り出し、モンスターを引き連れようとした。


 同時に中級冒険者が、モンスターの群れの背後を突くように馬を走らせる。モンスターは上級冒険者達に気を取られ、中級冒険者に気付いていなかった。不意を突く形で、中級冒険者は一番手前にいたモンスターの脳天にハンマーを振り下ろした。

 鈍い大きな音がウィスト達の場所まで聞こえた。下級のモンスターなら、今ので死んでもおかしくないほどの威力だ。だが攻撃を食らったモンスターはその攻撃によろめくものの、じきに意識を取り戻して攻撃をした者の姿を見た。さらに近くにいたモンスターも、その音に気付いて振り向く。ただ位置が良かったお蔭で、気づいたモンスターは中級以下のモンスターだけだった。


 前方の上級冒険者と、後方の中級冒険者。丁度真ん中で分かれるように、モンスター達の動きは分断された。上級冒険者はさらに走って、前方のモンスターを引き連れていく。そのタイミングを見計らって、中級冒険者はウィスト達に視線を送る。今が好機だった。


「行くぞ!」


 カイトの言葉を合図に、ウィスト達は走り出した。カイト達は一直線に中級モンスターに、残りの二人は中級冒険者の下に向かって行く。ウィストは下級モンスターの位置を確認した。


 二体とも他のモンスターと離れていない場所にいる。まずはウィストが奴等の注意を引かなければいけない。

 ウィストは近い方のワーラットに向かって行く。ワーラットはウィストに気付く、と右手に持っていた棍棒で攻撃してきた。だが大ぶりな攻撃は読みやすい。軌道を予測して躱すと、安全な距離を保って剣を振るった。

 ワーラットの腹に軽い切り傷が付くと、すぐにピングの方に向かう。ピングはウィストの方を向かず、中級冒険者に照準を向けている。しかも、今にも走り出しそうな体勢だった。急がないと。


 ピングに接敵すると、躊躇わずに横っ腹に剣を突き立てる。ピングは悲鳴を上げながら暴れた。寸前に剣を引き抜いて距離を取る。ピングは血を垂らしながら怒りに満ちた目でウィストを睨んだ。

 後ろからはワーラットも来ている。とりあえず、下級モンスターのヘイトを稼ぐことはできた。しかもピングは大量の血を流し続けている。倒れるのも時間の問題だろう。


 二体を視野に入れられる位置に移動する。同時に観察するとピングの動きが鈍く見えた。思っていた以上に早く力尽きそうだ。近づいて来たワーラットの攻撃を避けながら、ピングの動きにも注意を払う。七階層で二体同時に相手した時に比べれば容易だ。

 ピングの足元に血の水たまりのできる頃、最後の足掻きか、牙を向けて突進してきた。ピングの得意な攻撃なだけあって、怪我をしている状態でも、その走りから威圧感を感じた。当たれば間違いなく致命傷を負うだろう。


 だが今回は、その恐ろしい攻撃を利用させてもらう。


 ウィストはワーラットの懐に跳び込み、双剣を振るった。至近距離の攻撃だ。一撃一撃が軽いとはいえ、何度も食らえばただでは済まない。それくらいはワーラットも分かっているだろう。

 予想通り、ワーラットも反撃をしてくる。いつものウィストなら下がって避けるが、まだ下がる気は無い。離れない様にして、右手から斜めに振り下ろされる棍棒を左に移動しながらしゃがんで避ける。再び攻撃をすると、次は振り払うように反撃される。同じように距離を保ちながら、頭を下げて避ける。そのタイミングで、横っ飛びでワーラットから離れた。


 直後に、ワーラットが吹き飛ばされた。

 さっきまでウィストとワーラットが戦っていた場所に、ピングが突っ込んで来たからだ。ピングはウィストを狙っていたが、限界まで引きつけてぶつかる寸前に避けることで、直前まで至近距離で戦っていたワーラットに攻撃させた。

 ピングはワーラットに突進すると、力尽きて地面に倒れた。血を大量に流した上に、深手の傷を負った状態で突進したのだから、倒れても無理はない。ワーラットも、ピングの突進に耐えきれなかったのか、地面に倒れたまま起き上がる素振りを見せなかった。


「まさか、ここまでうまく行くなんてねー」


 予想以上の成果に、思わず警戒してしまう。とことん上げたうえで落とす。そんな不安が胸中にあった。


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