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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第五章 下級冒険者

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5-4.予期せぬ不幸

 ララックさんの依頼を受けて二日目、僕はマイルスダンジョンの七階層に一人で訪れていた。

 昨日、ダメ元でベルクに依頼の話をしたが、ウィストと同じ理由で断られた。四人組で依頼を受けたため、一人でも抜けるのは無理だそうだ。あのときのベルクの悲しそうな表情を、しばらく忘れられそうになかった。


 けど、一人でも大丈夫だろう。昨日は十体以上のモンスターと戦って感覚を取り戻したし、十分な食事と休息も取れた。相変わらずの野宿生活だが、それにも慣れたので今では路上でも快眠できる。事前にヌベラがどんな植物かを調べたので、どこに生えているのかも予測できる。


 問題と言えば、依頼された量を確保できるかだった。

 ヌベラはマイルスダンジョンでは七階層以下でしか生えていない。もし七階層で確保できなければ八階層に下りなければいけない。


 リーナさんの話によると、七階層と八階層では大きな差があるという話だ。七階層までは兼業冒険者や下級冒険者が無茶をしなければ死ぬことはない安全な階層だ。四階層から五階層に行く時も危険度が増すが、下階層のモンスターは好戦的なものが多いだけで、実際の強さは大きく変わらない。


 だが八階層から下は、七階層までとは違う目的を持つ階層だ。七階層までは冒険者が手軽に来れる場所を目指して作られている。しかし八階層からは、中級冒険者を目指す冒険者への試験的な意味を持っていた。中級冒険者に相応しくないものを篩い落とす役目を担っているため、好戦的で強いモンスターが生息する。八階層から生き残った冒険者の中には、心が折れる者も少なくはないそうだ。

 攻略が難解な階層にはまだ行きたくは無かったので、できれば七階層で薬草が集まることを祈るしかなかった。


 しかし、


「無いなー……」


 思い通りに行かない苛立ちから、つい独り言をつぶやいていた。

 七階層で探し始めてから三時間、既にヌベラを九束見つけていた。依頼で必要な数は十束。あと最後の一束が見つからなかった。小さすぎるヌベラは何度か見つけたものの、それは依頼の対象外の品だ。欲しいのは十分な大きさのヌベラだ。その成長したヌベラが七階層の奥に来ても見当たらなかった。

 焦りが募り、額に汗が伝う。まだ七階層を全部回り切ってはいないが、これ以上時間を掛けるのは危うい。長引けば体力が尽き、集中力も落ちる。むしろもう帰るべき時間だった。この状態でモンスターと遭遇するのは非常にまずい。


 引き上げることを考え始めたとき、壁に設置された松明を見つけた。八階層への最短ルート。あの道を戻ればダンジョンを出られる。

 最短ルートに出て上階層に戻ろうと思い、どっちが六階層に戻るルートかを調べようと辺りを見渡す。松明が設置されている金具を見れば、どっちに続く道かを示す矢印と文字が描かれているのでそれを見れば分かる。しかし今回はそれを見ずとも判断できた。

 最短ルートの先に、下に空いた大きな穴があった。松明はその穴の手前で途切れているので、その穴が八階層に続く道だろう。

 ヌベラは七階層以下に生えているので八階層にもあるはずだ。しかし今回は準備と実力が不足しているので入る気はさらさら無い。

 だがそれとは別に、八階層がどんなものかを見てみたいという好奇心はあった。


「……見るだけだから」


 大穴に近づいて八階層の様子を見る。大穴には鉄製の梯子が設置されていて、そこから八階層に下りられる。

 梯子は八階層の地面にまで伸びている。その根元に、探していたヌベラが生えていた。


「どうしようか……」


 悩みどころだった。

 目と鼻の先に目的の代物がある。しかし下は八階層だ。危険な場所に足を踏み入れるのはリスクが高い。

 けどあれさえ手に入れば依頼を達成できるうえ、いずれ挑戦する八階層の様子を探ることができる。それにヌベラの生えている場所は梯子の根元だ。すぐに取って登れば危険も少ないはず。


 メリットとデメリットを天秤で量り、僕は八階層に続く梯子を下り始めた。しっかりと梯子を握り、足元も確認しながら下りる。額に伝う汗が目に入るんじゃないかと心配だった。

 最後まで下り切って地面に着地すると、すぐにヌベラを抜き取ってバッグに入れる。依頼された分を確保できたので安心し、深く呼吸をした。


 同時に、吐き気を催すほどの異臭が鼻腔をついた。


「おぅうぇっ……なにこれ……」


 吐き気を我慢しながら、八階層の通路に目を向ける。


 目に映ったのは、数多のモンスターの死骸が通路に放置されている光景だった。

 見たこともないモンスターばかりだが、なかには以前襲われたグロベアの死骸もある。しかもあの時よりも二回り以上の大きさだ。


 どの死骸も腐っているため、何が原因で死んだのかは一目では分からない。比較的見た目がましな死骸に目を向けるが、そのなかには人の死体もあった。格好からして冒険者のようだ。


 受け入れがたい現実に、一瞬目眩がした。

 これが八階層では普通なのかと思いそうになったが、頭を左右に振って考え直す。いや、違う。これはおかしい。


 たしかに八階層目は中級冒険者になるための試練と聞いた。しかし冒険者だけではなく、モンスターの死骸が至る所にあるのは意味が分からない。冒険者がモンスターを殺し尽したあと力尽きて倒れたのか、それともあるモンスターが無双して、冒険者だけではなくモンスターも殺したのか、どちらかと思ったが判断がつかない。

 ただ、これは異常な光景だと勘が働いた。


 これはすぐにダンジョンから出て報告すべきことだ。ここ最近のモンスターの生態系が乱れていることの原因かもしれないし、仮にこれが八階層以下で起こる日常的な事だとしても報告して損はない。精々、僕が恥をかくだけだ。


 梯子を握って、足を梯子にかけるために足元を見る。そのとき、頭に小石が当たった。他に冒険者が来たのかと思って、顔を上げる。



 そこには、得体の知れないモンスターがいた。



 それは梯子の上にしゃがみ込んで、僕を見つめていた。松明の光で影になっていて、具体的な姿は分からない。ただ映し出されたシルエットから、あまり大きくない様に見えた。ただそれがとっている体勢は、人がしゃがんでいるときのものとよく似ている。ヒト型モンスターは七階層にはワーラットしかいないはずだが、それはワーラットよりも小さそうだ。

 しかし、梯子の上にいるモンスターがワーラットよりも弱いとは到底思えなかった。


 睨まれただけでも身体が固まってしまい、倒すという気持ちが一切湧いて出ない。こんな感覚は、ツリック上級ダンジョンで僕より何倍も大きいグラプを見たときにも感じなかった。


 敵対したら死ぬ。直感的に、そう思った。如何にして逃げるか、それだけを考えた。


 上に居るということは、僕を待ち構えているということだ。このまま梯子を上れば間違いなく死ぬ。あのモンスターを八階層に下ろして、その隙に逃げるのが最善だ。モンスターなら、梯子を使って上ることはできないはずだ。問題は、どうやって下すかだった。

 あのモンスターが何なのか分からない今、どんな習性を持っているのかが分からない。いろいろと試すしかなさそうだ。


 一旦、梯子を握っていた手を離す。まずは人を呼ぶのと同じ要領で手招きした。ヒト型のモンスターなら、もしかしたら分かるかもしれないと思った。違ったら次の方法を考えるだけだ。

 しかしそのモンスターは、僕が手招きすると腰を浮かして飛び下りた。四メートルの高さはあるのにも関わらず、迷わずに落下する。その着地点は梯子から少し離れた場所だっだ。


 一発目から上手く行くのは意外だったが、気を取り直して一気に梯子を上る。急いで上ったので足を踏み外すんじゃないかと不安だったが、何事も無く上り切れたので胸を撫で下ろす。

 そしてすぐに離れようと足を踏み出したときだった。


「キキッ」


 甲高い鳴き声が、背後から聞こえた。まさかと思いながら、恐る恐る後ろを振り向く。

 後ろには、さっき八階層に下りたはずのモンスターがいた。しかも梯子の上にいるということは、梯子を上ってきたということだ。普通のモンスターが梯子を使って上れる筈がない。


 予想外の出来事に頭が働かなかった。それを知ってか知らずか、そのモンスターは僕に跳びかかってきた。それは右手を前に出して僕の額を強く叩いた。


 あまりの速さに対応できず、あまりの威力に後ろに倒れて、地面に後頭部を強くぶつける。

 僕の意識はそこで途絶えた。


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