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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第五章 下級冒険者

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5-2.少しの余裕

 盾を構えて、受け流して、反撃。目の前にいる四足モンスターの背中に刃を浴びせると、モンスターは跳び退いて距離を取る。しかし痛みを気にしたのか、それほど遠くには逃げられなかった。また跳びかかられる前に、距離を詰めて追撃する。首を斬り裂くと、モンスターは足を折り曲げて地面に伏した。


「……よし。問題無し、かな」


 左腕を軽く動かして、腕の状態を確認する。六階層に下りてから一時間以上経っている。モンスターと四回ほど戦ったが、左腕に痛みは無く、動きにも問題は無い。完全回復したとみて良いだろう。


 七階層でワーラットと戦った日から、二週間が過ぎていた。

 あのときの怪我は、背中は打撲、左腕には骨にヒビが入るという重傷だった。怪我をしたので休みたかったのだが、壊れた盾の代わりに新しい盾の購入と治療費のせいで手元にはほとんど金が残らなかった。残ったお金では怪我が治るまでの生活費としては心もとなかったので、上階層のモンスター相手に片手剣のみで挑んだ。

 盾を持つ前と同じ戦い方でモンスターを相手にしたが、盾を使った戦い方は思った以上に性に合っていたらしく、左腕に盾が無いと違和感があった。そんな違和感を抱きつつも生活費を稼いだ。時々ウィストの依頼を手伝ったり、友人に食事を奢って貰ったお蔭で、いくらか負担が減って楽が出来た。


 助けて貰いながら二週間が過ぎた今日、肩慣らしとして各階層のモンスターと戦いながら受け流しの練習をした。あのときの受け流しの感触を忘れてないかと不安になったが、練習するうちにその感覚を思い出し、六階層に着いた時には完全に思い出していた。たまに失敗することもあったが、以前の様に腕が痺れる程の衝撃は受けなかったので、致命傷を受けることは無かった。


 自分の出来に満足しながら、現在地を確認する。後ろを振り向くと、遠くに松明が見える。七階層に続く道を示したものだ。これ以上離れると、松明が見えなくなるほどの場所にまで来ていた。体力にはまだ余裕がある。しかし、怪我明けであることには変わりはない。


「ま、焦ることは無いか」


 来た道を戻り、ダンジョンを出ることにした。

 もう以前の様に焦ることは無い。無理をせずにダンジョンを進むことが大事だった。






 冒険者ギルドに戻ると、珍しい人物を見た。依頼受付のカウンターの前にララックさんがいた。いつもはアルチで会っているので、ここで見るのは初めてだった。しかも依頼の受付をしているということは、何か依頼を出すのだろうか。少し興味があった。


 近寄ると僕に気付いたのか、ララックさんは振り向いて「あら、久しぶりね」と挨拶をしてきた。


「お久しぶりです。依頼なんですか?」

「えぇそうよ。ちょっと必要なものがあるのよ」

「お待たせしました」


 喋っていると、依頼受付を担当していたギルド職員が割って入った。手には掲示板に貼られるものと同じ依頼書を持っていた。


「依頼の受付が完了しました。これでよろしいですか?」

「……えぇ、大丈夫よ。これでお願いするわ」


 依頼書の内容を読んで確認した後、ギルド職員が一礼をする。間もなくすると、依頼書が掲示板に貼られるだろう。ララックさんがどんな依頼を出したのか、興味があった。


「どんな依頼なんですか?」

「あら、興味があるの?」


 頷くと、ララックさんは説明を始める。


「ただの素材集めよ。『ヌベラ』という薬草で、塗り薬に使われる素材よ。マイルスダンジョンでは七階層以下に生えている素材だから、あなたには難しいわ」


 よく使用する塗り薬に、その名前の薬草が使われているという話を聞いたことがある。僕以外にも使っている人がいるので、需要の高い薬草だろう。

 ただ、その薬草の生息地帯が気になった。


「けど今だと、なかなか依頼を受ける人が現れないかもしれませんね」


 ここ最近、マイルスダンジョンに入る人が減っていた。それはモンスターの生態系が乱れていることが原因だった。

 上階層はともかく、下階層に行く者は極僅かになっている。そのうえ、近々ヒランさんが調査を行うというのだから、それが終わるまでは大人しく待とうと考えるものが多かった。だから多くの冒険者はダンジョンに入らずに済む依頼を受けて金を稼いでいる。そういった依頼は掲示板に貼られると瞬時に消えるが、一方でダンジョンに入る必要がある依頼は長く残っていた。

 いつもなら下級ダンジョン向けの依頼は大抵一週間で受託する者が現れるが、ここ一ヶ月は二週間たっても受託されないことが多い。しかも今回のララックさんの依頼は、下階層に行く必要がある依頼だ。依頼を受ける人がすぐに現れないことが僕でも分かる。


「急ぎの依頼ですか?」

「……いえ、そんなことはないわ。けどそういうことなら、のんびりと待つことにするわ」


 なんでも無さそうな表情で言ったが、そのセリフを言う前に一瞬困ったような顔をしたのを見逃さなかった。迂闊に本心を露わにするとは、ララックさんらしくない。


「じゃあ、僕が受けます。いいでしょ?」

「え?」


 ララックさんの困惑する顔が見られた。眉が上がり、目を真ん丸と見開いた表情は、滅多に見られないものだった。これほど驚くとは、言った甲斐があったというものだ。


「別に無理しなくてもいいのよ。さっき言ったけど、急いでもいないから」

「大丈夫ですよ。七階層のモンスターも倒したことありますし、誰かと一緒に行けば問題ありません」


 以前倒したワーラットは、七階層でも強い部類に入る存在だったらしい。あれをギリギリでも倒せたのならば、他のモンスターも対処できるだろう。それにウィストか四人組の誰かを誘えば、七階層でも生きて帰られる自信がある。割の悪い依頼とは思えなかった。


 ララックさんは悩むが、しばらくすると渋々と了承した。


「分かったわ。けど急いでないから、無茶な真似はよしなさい」

「任せてください」

「……あと、依頼とは関係ないことだけど」


 眉をひそめながらララックさんは話す。これもあまり見られない表情だった。


「あなた、危険指定モンスターって知ってる?」


 唐突に関係ない話題が出される。もちろん知っているので、僕は迷わずに頷いた。


「そう。ならマイルスの近くに生息する危険指定モンスターを、何か知ってるかしら?」

「居るんですか?」

「居る、と思われているモンスター、よ。居るかもしれないし、居ないかもしれないわ。で、知ってるの?」


 若干イラついているような声だった。少しびびってしまい、勢いよく首を横に振る。ララックさんは呆れた顔をして溜め息を吐く。思わず「すみません」と謝ってしまった。


「知っておきなさい。知ってて損はしないから」


 そう言ってララックさんはギルドから出て行った。普段のララックさんとは違う様子に戸惑いながらも、僕はその背中を見送った。


「依頼、受けるんですか?」


 ララックさんの依頼を受け付けた職員が、僕に声を掛ける。僕が依頼を受けることを聞いていたらしい。それに肯定すると、僕は依頼書を見せられながら説明を受けた。

 しかしその依頼書には、他の依頼とは違う点が見られた。依頼名の横に、赤い文字で書かれた判が押されていた。


「あの、これは?」


 その判を指差して聞くと、職員は淡々と答えた。


「『緊急』と書かれてます。なるべく早いうちに依頼を受けて達成してくださいという意味です」

「早めに、ですか……」


 ララックさんはさっき、「急いでいない」と言った。しかし依頼書には『緊急』と書かれてある。矛盾した内容に、僕は首を傾げる。僕に気遣ってそう言ったのか?

 違和感を飲み込んで、僕は自分のすべきことをした。


「あ、あと、これの買取、お願いします」


 ダンジョンで取ってきた素材の買取。とりあえず依頼に備えて、早く身体を休めることが大事だった。


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