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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第四章 ハイエナ冒険者

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4-11.男友達

 ベルクさんとミラさんの登場に安堵していると、二人の背後からウィストの声が聞こえた。


「ヴィック、無事? 怪我は無い?」


 ウィストが駆け足で寄って来る。見たところ、ウィストは無傷の様だった。

 さっきまでウィストが戦っていた場所を見ると、ワーラットの死体が横たわっている。一対一ならすぐに勝てると思ったが、まさかこれほど早いとは思わなかった。

 心配する彼女を見て、「大丈夫」と答えようとする。その直前、身体に痛みが走った。


「いっ……」


 「痛い」と反射的に口に出そうになったが、何とかやせ我慢をして耐えた。ウィストが無傷なのに対して、僕の身体がボロボロだというのは少しかっこ悪い気がした。

 しかし表情に出てしまったせいか、すぐにばれた。


「やっぱり怪我してた。すぐに治療しないと」

「俺がやる。お前らはあっちの方を見てくれ」


 ベルクさんが少女の方を見て顎をしゃくると、「分かった」と言ってウィストとミラさんが向かって行く。


「とりあえず、上着を脱げ。怪我を診る」

「……うん」


 上着を脱いでいる最中も、痛みが背中から駆け巡った。どうやら背中に怪我をしているようだ。左腕にも痛みがある。盾を壊すほどの攻撃を受けたのだから、怪我をしても不思議ではない。服を脱ぐとベルクさんは身体を診始める。


「背中は打撲のみ。足は問題無い。けど左腕が怪しいな。骨にひびが入ってるかもしれん。こりゃあ病院で見て貰った方が良いな」


 僕の身体を見ながらベルクさんが言った。診察が終えたので服を着ながら、ウィスト達の様子を窺う。

 ウィストとミラさんは、少女を治療していた。少女の足首に包帯を巻いている。足を怪我していたらしい。だから僕が追い詰められてても逃げなかったんだなと、一人で納得した。


「今回は助かったよ。ありがとな」


 ベルクさんは僕にお礼の言葉を言った。僕の方が言うべきなのに、なぜベルクさんが言ったのだろうか?


「あいつ、オレ達と一緒にダンジョンに来た奴なんだよ。食材集めの依頼を出した飲食店の従業員らしい」

「……冒険者じゃないの?」

「あぁ、違う。全くのド素人だ」


 何でそんな子がダンジョンに来たんだ?

 僕の思考を読み取ったのか、ベルクさんが答えた。


「集める食材の問題だ。目的の品と似た物がマイルスダンジョンにあるから、それを見分けるためにあいつを手配したんだとさ。本人もダンジョンに来るのを嫌がってたが、店長に命令されて仕方なく来たんだよ。それで食材を探しにミラと一緒に来たんだが、なかなか見つからなくてな。七階層まで来てやっと十分な量を確保できて、さぁ帰ろうってときに、モンスターに襲われた。俺とミラでも七階層のモンスターを倒せるんだが、思ってたより数が多かった。一匹ずつ倒してたんだが、取りこぼしたモンスターがあいつを狙ったんだよ。それにあいつはびびって逃げてしまってはぐれたってわけだ。念のために武器を持たしたけど、意味は無かったみたいだな」


 ベルクさんが深い溜息を吐いた。表情から疲労の色が見られる。余程苦労した依頼だったのだろう。一階層から七階層までずっと食材を探し続けるのは、考えただけでもストレスが溜まりそうだ。


「死なれてたら今までの苦労がぱぁになってたよ。依頼人にも恨まれただろうしな。ホントに助かったぜ」

「僕の方こそ、死にそうだったから助かったよ」


 あのとき、二人が来てくれてホッとしてた。剣一本で戦う気でいたが、今思い返すとなんと無謀な事だっただろう。諦めないにしても、せめて逃げる策を考えるべきだった。


 脳内で反省会をしていると、ベルクさんが白色の液体が入った瓶を突き出した。


「ほら、これ飲め。お礼だ」

「なにこれ?」

「『無痛水』だ。飲めば痛みが無くなる。この量だとダンジョンを出るまでしか効果は続かないけどな」


 名前は聞いたことがあるが、見たのは初めての代物だった。下級冒険者にとってはそれなりに高い値段のはずだ。


「僕なんかに使うんじゃなくて、もっと大事な時に使った方が……」

「今が大事な時だろ? 七階層からダンジョンに出るまでの間、何度かモンスターと出くわすはずだ。動けない奴が二人もいたら困る。それに礼も兼ねたものだから、黙って受け取ってくれ」


 もっともな意見だ。一人が足を怪我してる少女を助けた上、もう一人が僕のフォローに付いたら自由に動けるのは一人だけになってしまう。

 僕は納得して、薬を受け取った。


 そしてベルクさんは、「あとな」と付け加える。


友達(ダチ)が怪我してるのを見て黙ってるのは、オレには無理だ。だから遠慮なく飲め」

「友達……」


 使い慣れない言葉を、つい口に出した。


 僕には今まで友達がいなかった。サリオ村の子供は、皆僕を避けていた。仕事で一緒に遊ぶ時間も無く、皆を楽しませる話題も提供できない、何の面白みのない子供に付き合うような人は誰もいなかったからだ。

 ベルクさんとはそれなりに仲が良い関係だとは思っていた。いずれは友人と言えるようになりたかった。


 けどそうじゃなかった。

 もう僕達は、友達になっていたんだ。


「ったく、いちいち恥ずかしい言葉を使わせんなよ。向こうも大丈夫そうだし、さっさと行くぞ」


 ベルクさんはウィスト達の下に向かうので、僕も続いて行く。

 近くに寄るとウィストは僕の顔を見て、何かに気付いたような口ぶりで言った。


「どしたの? 嬉しそうな顔をして」


 知らないうちに、顔がにやついていたようだった。






 帰り道は比較的安全だった。ベルクが少女を背負って、僕が荷物を持ってその後ろを歩き、ウィストとミラさんが先頭と最後尾に付いて移動した。途中でモンスターと出くわしたが、二人が余裕を持って対処していた。

 ダンジョンを出て街に戻ると、途端に身体が痛みだした。無痛水の効果が切れたのだろう、飲む前と似たような痛みだ。だが歩けないほどの痛みではない。


 ベルクとミラさんは少女を病院に連れて行った。足の怪我を診て貰うようだ。僕も行く予定だったが、先にワーラットの素材を冒険者ギルドに持って行くことにした。

 ウィストと一緒に、素材を入れた袋を分けて持ってギルドに向かう。ウィストが二袋、怪我をしている僕が一袋担いだ。


「先に病院に行っても良かったんだよ?」


 ウィストが心配げな顔で言った。街に入る前にも、似たような言葉を言われた。そのときは無痛水の効果が残っていたので、「平気だよ」と何も考えずに答えた。今はその効果が切れたので若干後悔した。

 だが思い直しても、やはりギルドに行くのが先だった。


「いや、今回の成果を早く報告したいから」


 頭に浮かんだのはフィネさんの顔だった。

 ウィストに暴言を吐いてから一ヶ月余り、フィネさんにはかなり気にかけられた。文字を読めない僕が依頼書を読もうとしていると進んで説明に来てくれたり、素材の買取査定をしている最中にも話しかけたりしてくれた。そして僕がハイエナと呼ばれているときも、最初に言った「元気に挨拶をし続ける」という言葉を今も実行してくれた。


 些細な行為かもしれないが、それがどんだけ僕の心を癒してくれただろう。彼女のお蔭で、僕は腐らずに冒険者を続けられたと言っても良かった。だから一人でワーラットを倒したことを報告して、喜びを分かち合いたかった。


「……あぁ、なるほどねー」


 僕の意図を察したのか、ウィストはニヤニヤと笑っている。


「フィネだったら喜んでくれるし、好きな子にアピールできるし、一石二鳥だねー」

「うん……うん?」


 予想してない言葉が聞こえたが気のせいだろうか。

 聞き間違いかと思ってウィストが訂正する言葉を待ったが、一向にその言葉は出ず、相変わらずニヤついている。


「……違うからね。確かに良い子で明るくて可愛いけど、恋愛対象として見たことは―――」

「え? じゃあ嫌いなの?」

「むしろ好きだけど……人としてだよ?!」


 危うく「異性として好き」という言質を与えそうになった。

 ウィストは、「ふーん」と言って残念そうな表情をする。


「そっかー、それは惜しいねー。フィネはヴィックの事を『気になる人』って言ってたんだけどなー」

「ほんとに?」


 考えるよりも先に聞き返してしまう。直後に迂闊な発言をしたと気づいた。

 途端に、ウィストはしたり顔をして詰め寄ってくる。


「あれれー? 恋愛相手としては見てないんだよねー。なのにこういう話は気になっちゃうんだー? へぇー……」


 水を得た魚の様な調子で、ぐいぐいと問い詰められる。面倒な事態になった。


 フィネさんの事は好きだ。だが恋愛対象としてではなく、一人の人間に対する好意だ。今まで散々な扱いを受けてきた僕にとって彼女との交流は新鮮で、そして嬉しかった。

 ただ彼女は同じ振る舞いを僕だけにではなく、大勢の人にも行っている。それは彼女にとって至極当然の行為なのだ。他の冒険者達はそれを理解しているので、僕の様に一喜一憂はしない。


 僕は現状の関係に満足している。半人前の冒険者である僕が、これ以上の関係を望むのはおこがましいことだ。望むとしても友達程度の関係が丁度良いが、それもまだ先の話だ。せめて一人前の冒険者と名乗れるくらいになってからだ。

 だから彼女に対して恋愛感情を抱くつもりは無かった。フィネの恋愛事情には興味はあるが、ちょっとした野次馬的な好奇心だ。

 「気になる人」という言葉は気になるが、おそらく勘違いだろう。過度な期待は持たないことにする。別に気落ちはしない……。


「知り合いのことを気にするのは可笑しくないでしょ」


 なるべく当たり障りのない言い訳を言うが、ウィストの顔は納得しているようには見えなかった。追及してくるかと思って身構えたが、冒険者ギルドに着いて話は終わった。

 「話は後でね」と言いながらウィストは中に入る。買取中にそれらしい言い訳を考えることにした。


 ギルドに入った僕はすぐに受付に行こうとした。だが先に、別の方に視線が向かった。

 視線の先には、大勢の冒険者が円の形になって集まっている。輪の中心には、背の高い黒髪の青年がいた。


「なぁ、この状況をどう説明してくれるんだぁ!?」


 円の内から恫喝の言葉が耳に入る。背の高い男が言った様には見えない。人混みで背の高い方しか見えなかったが、青年の傍らにもう一人男がいて、その男が出した声のようだ。

 何の騒ぎか分からなかったが、わざわざ見に行くつもりは無い。このあと病院にも行く予定があるので、買取を優先しようと思った。


 しかし受付にはギルド職員がいない。周りを見ると、遠巻きに騒ぎを見ている姿がある。

 彼らに声を掛けようとしたが、職員達の様子が変に思えた。なにやら落ち着きが無さそうだ。


 今回に限らず、ギルド内ではたまにいざこざが起こる。ギルドへの苦情やら冒険者同士の喧嘩等、大事から小事まで。だがギルド職員はそういった厄介事には慣れており、対処する術も学んでいる。度々厄介事の現場に居合わせたときも、ギルド職員は落ち着いた様子で対応をしている姿を目撃した。だから騒ぎを鎮めずに見ているだけの職員の様子に違和感があった。


 事情を聞こうとして、顔見知りのリーナさんとフィネさんを探す。しかし二人ともいない。リーナさんはギルドの外に出て仕事をする機会があるので、ギルド内に居ないことは不思議ではない。だがフィネさんは、いつもギルド内で仕事をしている。


 まさか……。


 冷や汗が背中を伝った。懸念を拭うために、輪の中心にいる人物を見に行く。人混みを掻き分けて、円の中を見える所まで進んだ。

 まず目に入ったのが、背の高い男の隣にいる金髪の青年。次に金髪の視線の先にいる人物を見る。


 そこには、泣きそうな顔をしているフィネさんがいた。


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