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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第四章 ハイエナ冒険者

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4-6.武器に見合う強さ

 街行く人々の、賑やかな音で目が覚めた。足音や話し声、荷物を動かす音が耳に入ってくる。大通りからそう離れていない路地裏で野宿をしているから、町の音が騒がしいのは仕方がない。


 ララックさんから貰った毛布をどけて、野宿の片づけを始める。毛布や服に付いたゴミを払って、荷物の中身を確認する。以前、眠りから覚めたときに浮浪者が荷物を盗ろうとしていたので、それ以来荷物を確認するようになった。今日も無くなった物は無さそうだった。


 荷物をまとめて大通りに出る。出た瞬間、何人かが汚いものを見るような目で僕を見てきた。僕は視線を無視してギルドに足を運ぶ。大丈夫だ。この程度ではへこたれない。


 冒険者ギルドに入ると毛布を受付に預ける。笑顔で応対してくれるあたり、プロ意識を感じた。

 いつもは掲示板に向かって依頼を受けるが、今日はそのまま外に出る。今日は依頼を受けずにやりたいことがあった。


 僕は迷わずに目的地に向かう。道行く人々にぶつからない様に気をつけながら歩き、到着すると財布の中身を一度確認してから店に入る。

 店の中は相変わらずだった。防具や武器が整然と並べられている。

 武器屋の店員は、入ってきた僕を見て一瞬嫌な顔をする。


「おいおい、きたねぇ格好だな。冷やかしなら帰ってくれ」


 邪険に扱おうとする店員を無視して、目的の品に近づく。その品の値段を確認してから、僕は店員に言った。


「これください。お金はあります」


 財布の中身を店員に見せると、彼は一瞬で表情を変えた。


「なんでぇ兄ちゃん。買うならそう言ってくれよ」


 店員は愉快に笑った。最初に剣を買ったときもこの調子だった。

 いつも通りの変貌ぶりに、なぜか安心してしまう自分がいた。






 五階層に来るのは久しぶりだった。ウィストと一緒に依頼を受けて以来、この階層には来ていない。

 マイルスダンジョンは五階層から強いモンスターが現れ始める。そのうえ、以前のグロベア出現の事態を思い出してしまうため、なかなか五階層に降りることができなかった。


 しかし、今日でその弱気とはさよならだ。

 武器屋で買った新しい剣と盾。今までの武器よりも上等なものを持つことで、少しだけ強くなった気がして五階層に行く決心がつけた。やはり、武器の力は大きい。


 今日は足を踏み入れるだけで終わるつもりは無い。踏破するのが目標だ。

 剣と盾の使い方は、ここに来るまでのモンスターで練習した。少なくとも、最低限の使い方は覚えたつもりだ。相手が五階層目のモンスターでも、同じように対応すればいいだけだ。


「よし」


 覚悟を決めて五階層を歩き始める。松明の明かりを頼りに、道を進み続けた。

 五階層とはいっても、基本的には四階層までと同じ構造だ。やることは変わりない。松明が設置されている道を進む。それだけで六階層に辿り着ける。


 しかし、心配事が無いわけでもない。以前五階層に来たときは、同階層のモンスターと一度も会わずに出ることとなった。つまり、モンスターの強さの基準が分からないという不安がある。

 事前に生息するモンスターは調べてきたが、実際の強さまでは敵対するまで分からない。予想より強かった場合に備えて新しい剣と盾を買ったが、どこまで通用するだろう。


 不安を抱きながら歩き続けると、前方から物音が聞こえた。

 反射的に盾を構える。物音がする方向から、一匹のモンスターが現れる。そのモンスターの姿を見て、「運が悪い」と心の中で嘆いた。


 肌が黒く、僕と同程度の身長で二回りほど横に太い、ネズミ顔でヒト型のモンスター、ワーラットだ。

 事前に調べた情報によると、七階層を縄張りとしているモンスターのはずだ。手に持っている棍棒を使って、冒険者と同じように狩りを行うのが特徴だ。

 厄介なのが、稀に病原菌を持っているという点だ。些細な傷を受けた冒険者が、すぐに病気になるということが多々あるらしい。


 本来が七階層のモンスターで、病原菌を持っている恐れがある。なかなかシビアな相手だった。

 緊張のあまり、背筋に汗が流れる。


 大丈夫だ、こっちには盾がある。ワーラットの攻撃を受け、攻撃した隙を狙って反撃すれば勝てる。

 僕は意を決して、ワーラットに立ち向かった。一方のワーラットも、僕を見るとネズミのような声を出して威嚇する。二三度程鳴くと、僕に向かって近づいて来た。

 手が届くほどの距離になると、ワーラットは棍棒を振るう。それほど早くない。棍棒の軌道をよく見て盾を構える。この攻撃をいなして、反撃をする算段だった。


 だが、その攻撃は予想以上の重さだった。


「つっ―――!」


 攻撃の重さに我慢できず、苦痛の声を漏らした。すぐさま反撃をするつもりが後ずさりしてしまい、ワーラットとの距離が離れてしまう。なんて力だ!


 ワーラットが二撃目を振るおうと距離を詰めてくる近寄ってきた。僕は何とか体勢を立て直して盾を構える。一撃目は予想外の重さに戸惑っただけだ。次はちゃんと返せるはず。

 二撃目の攻撃を受ける。今度は後ろには下がらなかったものの、盾を持った左腕が痺れた。

 ここからすぐに反撃? 無理だ。攻撃に耐えるだけで精一杯だ。


 四階層までのモンスターの攻撃を受けたときは、これほどの威力は無かった。ワーラットが本来は七階層のモンスターとはいえ、これほどの差があるのか。


 受け入れがたい現実に歯軋りをした。武器を新調してもすぐに強くなれるはずがない。僕自身はまだ未熟なのだ。

 浮かれていたことを心の中で悔やむ。だがそれをすぐに止めた。

 いつまでも反省している場合じゃない。今は目の前のモンスターを倒すことが先決だ。


 考え事をしているにも関わらず、ワーラットは三撃目を繰り出す。何とか受け止めるものの、腕が痺れて反撃できるほどの余裕が無い。このままだといつか腕が折れてしまうかもしれない。何とか打開策を考えないと。


 ワーラットを見据えながら、自分の持ち札を思い出した。

 持っている武器は剣と盾、そして腰に携えたモンスター解体用のナイフ。それ以外は、武器の手入れ道具と身体を拭くためのタオル二枚、少量の補給食と収集用の小袋に、焚き火道具の一式だ。


 この場で役に立ちそうなものは無い。道中に何か役立ちそうなものは無かったかを思い返したが、他の階層と同じように壁に松明が設置されているだけだ。

 結局、僕の手札でワーラットを倒せそうなものが無い。それが分かっただけだった。


「くそっ!」


 置かれている現状に嫌気が差し、悪態をついた。このままだとまずい。

 ワーラットは幾度も棍棒を振るう。盾で防ぐが、少しずつ腕の感覚が無くなっている気がする。徐々に棍棒を振るう速さも上がっているから、避けることも難しい。


 仕方がない。僕は覚悟をしてワーラットの攻撃を観察した。

 振り下ろしてくる棍棒に、タイミングを計って腕に力を入れる。あと少しだけ腕がもつことを祈り、僕は前に出た。

 棍棒を振り下ろし切る直前に、盾を棍棒にぶつける。その勢いに押されて棍棒が強く弾かれるが、僕の腕にも強い衝撃が伝わった。歯を食いしばって痛みに耐える。

 そのまま前進して、ワーラットの懐に近づく。と同時に、剣を突き刺した。剣の軌道はワーラットの腹を捉えている。しかし、刺さる直前にワーラットは後ろに跳び退く。やはり簡単に喰らってくれるほど容易くはない。だがこれで十分だった。


 僕は来た道を振り返り、全速力で逃げ始めた。

 ワーラットの足はそれほど速くはない。距離を取り、先に走り始めれば逃げ切られるはずだ。


 しばらく全力で走った後、背後に振り返った。ワーラットの姿は見えず、足音も聞こえない。


 逃げ切れた。その事実に安堵して息を吐く。

 しかし走り過ぎたせいで、五階層目の入り口にまで戻ってしまった。


 腕の痺れも取れてないうえに、今モンスターに襲われたら勝てる自信が無い。僕は肩を落とした。


「少し休んだら、また行くか」


 このまま帰ったら昨日までの頑張りが無駄になる、そんな気がした。

 一度四階層目に戻り、身体を休めることにする。


「なかなか上手くいかないなぁ」


 順調にいかないことに気を落としながらも、諦めるつもりは無かった。

 自分の使命を思い出して、四階層目に続く坂を上った。


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