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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第四章 ハイエナ冒険者

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4-3.どん底の境遇

 冒険者ギルドに戻ると依頼で集めた鉱石を渡すため、僕はすぐに受付に向かった。

 受付にはリーナさんがいた。手元を見ながら手を動かす様子から、何やら事務作業をしているように思えた。


「おかえりなさーい」


 リーナさんに顔を上げずに挨拶をされる。ずっと下を向いてるが、冒険者が帰ってきたことは分かるようだ。

 僕はリュックを受付台に載せる。


「依頼で集めてきたものです。確認お願いします」

「はいはーい。……あれ? ヴィックだったのね」


 リーナさんが立ち上がったとき、彼女は意外なものを見るような目をした。


「はいヴィックです。どしたんですか?」

「んー、なんでもないよーん。ただの勘違い」


 何を勘違いしたのかと聞きたかったが、リーナさんは早速リュックの中身を確認し始めたので、口を挟めなかった。彼女の邪魔をしたくなかったので黙って待つことにした。

 リーナさんならすぐに確認は終わるだろうが、それでも待っている間は手持無沙汰だ。今のうちに他の用事も済ませておこうと周りを見渡す。

 近くには食堂のテーブルを拭いているフィネさんの姿があった。丁度良いのでフィネさんに頼むとしよう。


「フィネさん、ちょっと良いですか?」

「はい!」


 近づいて声を掛けると、いつも通りの元気な声で返事をされる。毎度のことだが、フィネさんの声を聞くと元気が出る気がする。


「あ、ヴィックさんだったんですね。お疲れさまです」


 喋ってる途中、一瞬だけ目線を逸らされた。気のせいだと思い、彼女に頼みごとをする。


「預けてた毛布なんだけど、今大丈夫なら持って来てもらえますか?」


 冒険者はダンジョンや依頼に行く前に、ギルドに荷物を預けられることができる。昔、普段持ち運びする道具が依頼に不必要だったり、ダンジョンに入る前に仲間との打ち合わせで使わないことになった武器を持って行くのは面倒だという声があった。その悩みに対応するために、ギルドで一時的に荷物を預かるサービスを始めたらしい。少量の荷物なら冒険者活動に関係無い物でも預かってくれるので、ここ一ヶ月はダンジョンに行く度にララックさんに貰った毛布を預けていた。


「はい。少し待ってくださいね」


 フィネさんは慌てた様子で荷物を取りに行った。避けられている様な気がするのだが、気のせいだろうか。


「なぁ、あれがハイエナか?」

「らしいぜ」


 フィネさんが居なくなると、周りの冒険者の声が聞こえた。


「きったねぇ服だな。替えの服すら持ってねぇのか」

「あーあ、いやねぇ。あんな風にはなりたくないわぁ」

「ほんっと、底辺って感じだな」


 嘲る声が耳に入る。彼らは好き勝手言っているが、僕は反論する気がなかった。サリオ村に居たときと同じだ。こういうのは相手にするだけ無駄だ。気分は悪いが、放って置くしかない。


 間もなくしてフィネさんが毛布を持ってくる。彼女が現れると、冒険者達は別の話題を話し始めた。そのあからさまな態度に、僕は内心ほっとしていた。さすがにフィネさんがいる前でそういう話をされたらいたたまれなくなる。


 彼女から毛布を受け取ると同時にリーナさんに呼ばれる。荷物の確認が終わったのだろう。

 「ありがとう」とフィネさんに礼を言って受付に戻る。既にリーナさんは、依頼の報酬金を用意していた。


「鉱石集めの依頼完了を確認しました。こちらが報酬金なので確認しといてねー」


 出された報酬金は提示されていた金額と同じだった。「大丈夫です」と言って、報酬金を懐に入れる。


「あ、依頼とは関係無いんだけど」


 渡していたリュックを返して貰うと同時に、リーナさんが話しかけてくる。


「何ですか?」

「今日はモンスターを倒さなかったの?」


 どきりとして、一瞬だけリーナさんから視線を外した。サッと自分の身体を確認すると、目立つところにモンスターの血は付いていない。匂いが残っていたのか?


「えっと……倒したんですけど、鉱石が重かったんで持って帰るのは諦めたんですよ。いやー、残念ですよ」

「今から取りに行かないのー? まだ間に合うんじゃない?」

「そうですけど、あの階層はモンスターが多いから死骸はすぐに喰われちゃうんですよ。だから今から行っても無駄かなーって」


 実際に四階層は、マイルスダンジョンの中でもモンスターが多い階層だ。翌日取りに行こうとしていたモンスターの死骸が、翌日には跡形も無く消えていたという事例は多くある。だからこの言い訳には、不自然な点は無いはずだった。


「明日もダンジョンに行くので、残っていたら回収しますよ」

「……そうだね。そういうこともあるよねー」


 言葉では肯定しつつも、リーナさんの瞳は嘘を見通しているような気がした。居辛くなった僕は、荷物を持ってすぐにギルドから出た。

 外に出ると胸を撫で下ろしたが、まだやることは残っている。北門に向かって歩を進めた。


「待て、ハイエナ」


 不意に背後から声を掛けられた。振り返ると見覚えのある人達が居る。食堂で毎日騒いでいる、がらの悪い冒険者達だ。


「ちょっと面貸せや」


 三人のなかで一番小柄な男に呼ばれた。彼らのにやにやと笑っている様子を見て、この後の展開が予想できる。

 面倒臭そうなことになるのは明白だった。


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