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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第三章 底辺冒険者

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3-17.これから

 病院から出たときには、すっかりと日が暮れていた。熱心に話をしていると、時間が経つのは早い。通りには、仕事を終えた人が溢れかえっていた。


 人混みに紛れて歩きながら、僕はウィストとの会話を思い出していた。


 ウィストとは色んな話をした。冒険者になった理由、生まれた村の事、ダンジョンでの過ごし方、印象に残った依頼の事など、昔の事から今の事まで色々だ。

 面会の終了時刻になるとウィストは名残惜しそうにしたが、見回りに来た看護師にせっつかれると出て行かざるを得なくなった。


 話をしているとき、改めてウィストとの差を感じた。だがその差は、今まで感じたものとは違っていた。


 僕とウィストの差は、生まれ持った才能や環境によるものだと思っていた。それらの差は、生半可な努力で埋まるものではない。だから、それを持っているであろうウィストに嫉妬していた。


 しかし、実際は違った。


 僕と同じように両親がいない。預けられた先の待遇は違うとはいえ、冒険者になることを反対されていた。だが冒険者になるために、たゆまぬ努力をし続けていた。

 その成果が、冒険者になった今発揮されているのだ。これは才能の差ではない。頑張った故に、得られた結果だ。


 対して僕はどうだ。預けられ先に逆らえなかったからとはいえ、命令されたことだけをしていた。将来、碌な人生を送れないなと悲観しながらも改善する努力を一切しなかった。


 要は甘えていたのだ。あんな家に預けられたから、こうするしかない、逆らうことなんてできない、努力しても無駄だ。そんな風に達観して、何もしなかった。


 冒険者になった今もそうだ。知識も技術も力も無い。そんな人間が一人前の冒険者になれるわけがない。

 仲間が欲しいのなら、積極的に他の冒険者とコミュニケーションを取ればいい。強くなりたいのなら、知識を蓄えたり、鍛錬をすればいい。


 けど僕は、何もしなかった。何も考えずにダンジョンに行ったり、依頼を受けていただけだ。そんなんだから、その日暮らしの生活から抜け出せないのだ。

 それだけならまだしも、仲間と一緒のベルクさん達や、一人でも楽しそうに冒険するウィストに対して嫉妬している。なんとも始末に負えない結果だ。自分で自分に呆れてしまう。


 ウィストは冒険者になることを反対されていた。その言葉に甘えて、冒険者になることを諦めても誰も文句は言わないだろう。そもそも、衣食住を提供してくれる相手にそんなことを言われたら、誰だって縮こまってしまうはずだ。

 にもかかわらず、ウィストは冒険者になった。しかも、前々から冒険者になるための準備もしていた。ひとえに、親が冒険者を続けた理由を知るために。


 やりたいことをやるために、必要な努力をしている。ウィストにはそれができている。いや、ウィストに限らず、僕が知り合った人達も同様だ。


 エイトさんやチナトさんは本業の助けのために、ベルクさん達は仲間と一緒の時を過ごすために、ヒランさんは冒険者を助けるために、皆それぞれやりたいことをやるために努力をしている。

 だけど、僕は違う。人生を楽しみたいという曖昧な願望しかない。楽しむためなら冒険者じゃなくても良い。どこかの店で働いてお金を得られればそれは叶えられる。つまり、冒険者に固執する理由がない。

 極端なことを言えば、このまま冒険者を辞めたって問題ないのだ。


 けど、それでいいのか?


 以前、ララックさんが言った言葉を思い出した。「いろんな選択肢がある」という言葉を。おそらくそれは、今の状況を指している。

 たいした目的もなく冒険者を続けるべきか、それ以外の道を探すか。


 冒険者を辞めて、他の仕事を探す人はごまんといる。だから別の道を探すのはおかしくないことだ。

 というより、そっちの方に気が向いているとも言っていいくらいだった。もしかしたら、他の仕事の方に適性があるのかもしれない。そんな淡い期待もあった。


「なーんてね」


 だけど自嘲して、考えを否定した。


 他の仕事をすることも、冒険者以外の仕事に適性があるかもしれないという期待も、未だに持っていることは否定はしない。

 だが僕は、ある言葉を思い出した。憎ったらしい奴が吐いた言葉だ。


 そしてその言葉が、僕の抱いていた疑問の答えだということに気づき、同時に、冒険者を続ける目的となってしまった。


「これでダメなら、本当に僕は最低な人間になっちゃうな」


 だが、そうはなりたくなかった。


 マイルスに来たあの日、碌でもない人生を変えると僕は決意した。ならばこんなところで挫けるわけにはいかない。


 だから僕は、茨の道を選ぶことにした。


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