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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第三章 底辺冒険者

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3-8.上級ダンジョン

 上級ダンジョンの一階層目、どんなモンスターが出るのかと不安だった。最上級難易度ダンジョンに生息するモンスターは、マイルスダンジョンとどれほど違うのかと、恐れを抱きながら奥へと進んだ。

 しかし十分程歩いても、モンスターが出てくる気配が無かった。辺りはしんと静まっており、僕らの足音しか聞こえない。少し拍子抜けだった。


「モンスターがいませんけど、普段からこんな感じなんですか?」

「いや、いたよ。けど昨日のうちに、凶暴な奴は片づけていたからね。今いるのは大人しい奴だけだよ。そのモンスターみたいに」


 フェイルさんが僕の背後を指差す。振り返ると、手の届きそうな位置に真っ黒い人型モンスターがいた。全身が影の様に黒く、目だけが光っていて不気味だった。


「オイカゲだよ。誰かの後ろをついて行って、そいつを観察する習性だ。適当な時間が経ったら何もせずに離れていくよ。けど絶対に手は出さないでね。君だと一秒で殺されるから」


 武器を取ろうとしたが、忠告を受けて手を止めた。説明が無ければ攻撃を仕掛け、直後に殺されていただろう。

 フェイルさんの言葉を信じて歩き続けると、オイカゲは勝手に離れて行った。攻撃してこないとはいえ、モンスターが後ろからついて来るのを無視し続けることは、僕の精神をかなりすり減らした。


 その後、モンスターと会うことなく歩き続けていたが、二人はある場所で止まった。

 そこには大きな岩が壁際に置かれていた。


「じゃ、ちょっと待ってろ」


 バクホさんが岩を壁に沿うように押し始める。大岩はゆっくりと動き出し、一メートルほど動かすと、地面から下に続く穴が現れた。覗き込むと中は真っ暗で、どこまでも下に続いているように思えた。


「もしかして……」

「そう、これはグラプの住処にまで続く穴だ」


 フェイルさんはロープを取り出して、端を杭で固定してロープを穴に垂らす。ロープがしっかりと固定しているのを確認すると、躊躇なく下に降りて行った。あっという間にその姿が見えなくなると、続いてバクホさんがロープに掴まる。


「お前もすぐに降りて来いよ」


 そう言ってバクホさんも降りて行った。緊張して喉が渇く。こんな真っ暗な穴を降りたことは無い。

 だが、行くしかなかった。自分を変えるためにも、これは必要なことなんだ。


 僕はロープを掴み、安全にゆっくりとした速度で降下する。時間を掛け、不安を抱きながら、不慣れながらもなんとか降りることができた。

 地面についてから周囲を観察する。降りた場所は狭い空間で、奥に続く道が一本だけがある。近くにはフェイルさんはおらず、バクホさんだけが残っていた。


「フェイルさんは?」

「あぁ、やることがあるから先に行った。付いて来いよ」


 バクホさんが歩き始めたので、僕は慌て付いて行く。フェイルさんとは違い、バクホさんは会話することなく進み続ける。

 静かな空気が気になって何か話そうとしたが、何を言おうか迷っているうちに、狭い道が終わりを告げた。

 目の前には広大な空間が広がっていた。天井は十メートル以上の高さがあり、左右にも奥にも壁が見えない程に空間は広がっている。壁や地面の至る所で何かが光っていて、それがとても幻想的に思えた


 光源の正体を探ろうと地面を探ると、小さな石ころが光っていることが分かった。それは明光石という名の鉱石だった。

 明光石は、光に充てられたときに光量を内部に溜め込み、熱や強い衝撃を与えると光り出す石だ。石によって明るさや光の持続時間が変化する、冒険者達が重宝する鉱石だ。下級ダンジョンにはあまり存在しない鉱石が、この空間には至る所に落ちてあった。

 これらを拾って売るだけでも十分な稼ぎになるが、欲求を抑えてその場を後にする。明光石を拾う事よりも、依頼を達成することに集中したかった。


 バクホさんの後について歩き続ける。この空間でも、モンスターと遭遇することは無かった。出会いたくはないが、ここまで出会わないと逆に不気味に思える。

 不安を感じつつ歩いていると、次第に景色が変わってきた。岩肌が露出していた地面に土が混じり始め、さらにすすむと岩が無くなって土の地面になった。そして様々な種類の植物が見えてくる。


 ダンジョンに生える植物は、日陰でしか生えない種類しかない。しかし辺りの植物の中には、日光を浴びて育つ植物が多く見られた。これがグラプの力で育ったモノなのかと思うと、その力に恐怖を感じ、同時に興味が湧いてきた。

 一目でいいから見てみたいという気持ちが湧いたとき、バクホさんが「あそこだな」と言って歩く方向を変える。その先にはフェイルさんではない別の男性がいた。

 男性はこちらを振り向いて僕と目が合うと、にやりと嫌な笑顔になる。


「へぇ、お前もこっち側に来たのか」


 その男性には見覚えがあった。よく冒険者ギルドで見かけ、リーナさんに「碌でもない冒険者」と言われたことがある冒険者だ。普段からギルドの食堂で騒いでいるのであまり近寄らなかったが、ここで会うとは思わなかった。


 そんな彼が何故ここにいるのか気になる。

 だがそれよりも聞きたいことがあった。


「こっち側って、なんですか?」

「あ? 今の状況を見りゃわかんだろ。バクホさん、ここは採れたんであっちに行きましょう」

「分かった。あと、ネタ暴らしが早い。ギリギリまで言わないつもりだったんだぞ」

「良いじゃないすか。ここまで来たらいつ言っても同じですよ」

「まったく、フェイルからネチネチ言われる姿が目に浮かぶな」


 そう言って二人は歩き始めるが、僕はまだ状況を理解できていなかった。

 問い詰めるために声を掛けようと、口を開く。


 そのとき、奥から大きな音が聞こえた。


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