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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第三章 底辺冒険者

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3-7.心酔

 翌朝、僕は冒険者ギルトに寄らず、すぐにマイルスの北門に向かった。北門では衛兵がおり、彼らはマイルスを行き来する人達を取り締まっていた。

 フェイルさんとの待ち合わせ場所は北門の外だった。外に出ようとして、同じ目的で順番待ちしている人達の後ろに並ぶ。

 ほどなくして僕の番が来る。名前と冒険者であることを名乗ると、簡単な手荷物検査だけで終わった。冒険者の場合、衛兵は本人の名前を確認し、手元にある冒険者リストと名前を照合してから通行許可の判断をしている。僕としては面倒な手続きをしなくて済むので楽でいいが、これほど簡単で良いのかと不安も覚えていた。


 町の外に出ると、門から離れた場所に幌の付いた馬車があった。その脇にはフェイルさんが居て、僕を見て手を振っていた。


「よく来てくれたね。じゃあ、早速行こうか」

「はい」


 フェイルさんが御者台に乗って馬車の手綱を取り、僕はその横に座る。手綱を振るうと馬が歩き出した。一度だけ馬車が揺れてから、馬車が道を進みだした。


 何もない平坦な道を進んで十分ほど経った頃だった。「体調はどうだい?」とフェイルさんが切り出した。


「大丈夫です。昨日はぐっすりと眠れました」

「それは良かった。今回の仕事はハードだから、結構疲れるよ」


 思わず唾を飲み込んだ。大金が掛かった仕事だ。覚悟していたとはいえ、やはり不安になる。


 するとフェイルさんは、僕の背中に優しく手を置いた。


「心配しないで。君は一人じゃない、仲間がいるんだ。きっと助けてくれるさ」


 その言葉を聞いて気が楽になった。

 そうだ、今回は一人で仕事をするわけじゃない。協力し合えば困難も乗り越えられるはずだ。まだ会ったことが無いが、フェイルさんがそこまで推す人達なら、さぞ頼りになるはずだ。


 そう思うと気持ちに余裕が生まれていた。

 同時に、肝心なことを聞いていないことを思い出す。


「そう言えば、今回の仕事って何なんですか?」

「あぁ、薬草の採取だよ」


 えらく簡単そうな仕事だ。てっきり強いモンスターと戦うのかと思っていたので、少々気が抜けた。

 しかしフェイルさんは、僕の思考を読んだのか、「簡単だと思ったでしょ?」と訊ねてきた。


「い、いえ、そんなことは……」


 慌てて弁解しようとするが、何故かフェイルさんはくすくすと笑う。


「そんなに焦らなくてもいいよ。僕の説明不足だしね」


 からかわれたと分かると、少し安心した。

 僕が落ち着きを取り戻したときに、フェイルさんは説明を始めた。


「採取する薬草はゴクラク草。これはあるモンスターが育てている薬草だから、自然に生えることは無い。だからとても数が少ないんだ。そのうえ特殊な製法で作った薬は、飲んだ者に幸運をもたらすと言われている。それを欲しがる人達が多いから、ゴクラク草の価値が高くなっているのさ。その薬を作るために、ゴクラク草を集めるのが今回の仕事だ」

「生えてる場所とゴクラク草を育てているモンスターって何なんですか?」

「モンスターの名前はグラプ。全身が蔓で覆われた人型モンスターだよ。体長は五メートル。パワーがあって、蔓を使って相手を捕獲してくる、厄介なモンスターだよ」


 人型で、蔓で巻かれて、パワーもあって、五メートル。似たような特徴を一つか二つ持っているモンスターは見たことあるが、それらすべての特徴を合わせたモンスターは見たことが無い。


「道中でも、それ以外のモンスターと会う可能性はあるから、十分注意しないとね」


 仲間がいるとはいえ、用心して仕事にあたる必要はある。気を引き締めて取り掛かることを意識した。


 一時間ほど馬車で移動すると、「着いたよ」とフェイルさんが言った。

 目の前には、マイルス下級ダンジョンと似たような洞窟がある。フェイルさんは馬車から降りて、僕もそれに続いた。


 洞窟の中に入ってすぐの場所に誰かがいる気配がした。無精髭を生やして、黒くてぼさぼさした髪の男は、僕やフェイルさんよりも歳をとった中年だ。

 中年はフェイルさんに気付くと、「よっ」と言葉を掛ける。


「待ってたぜ、そいつが最後の仲間か?」

「そうですよ、バクホさん。彼の名前はヴィック。まだ冒険者になって一年目だ」

「よろしくお願いします」


 挨拶すると、バクホさんは「おう、よろしくな」と返す。使い慣らしてそうな防具を着ているためか、頼りがいのある男に見えてくる。


「じゃあバクホさん、案内をお願いします」

「おう、任せろ」


 バクホさんを先頭にして、洞窟内を進みだす。洞窟を歩くと、間もなくしてダンジョンの入り口と思わしき場所が見えてくる。その近くには、ダンジョンの名前が書かれた看板が置かれていた。

 そして看板には、『ツリック上級ダンジョン』と書かれてあった。


「フェイルさん……もしかして上級ダンジョンに入るんですか?」

「そうだよ。当たり前じゃないか」


 当然のような顔で、フェイルさんは答えた。


「グラプは薄暗い場所に住み着くからな。当然、ゴクラク草もそこにあるっていうことだ」

「そうじゃなくて……僕は下級冒険者ですよ。まだ上級ダンジョンには入れません」


 冒険者は入れるダンジョンに制限がある。上級ダンジョンに入れる者は、中級ダンジョンを最下層まで踏破し、冒険者ギルドに認められた者にしか入ることは許されない。

 それは冒険者になったときにヒランさんに説明されたことだった。当然、フェイルさんも知っているものだと思っていた。


「あぁ、それは大丈夫だよ。僕は入れる資格を持っているからね。資格を持った者が一緒なら問題ないんだよ」


 初耳である。そんな事が可能だとは知らなかった。何も知らないことが、少し恥ずかしくなった。

 しかし新たな疑問も浮かぶ。なぜヒランさんはそのことを教えてくれなかったのか、と。ヒランさんなら、こういう事は教えてくれそうな気がするのだが……。


 懸念を感じる僕をよそに、二人はダンジョンに入っていく。

 胸に一抹の不安を抱きながらも、僕も同じように進んで行った。


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