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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第三章 底辺冒険者

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3-5.謝り方

「それで、私の下に逃げてきちゃったのね」


 僕は一連の出来事をララックさんに説明すると、呆れた顔でそう言われた。その言葉を聞く以前の話をし終わった時点で、僕は改めて自己嫌悪していた。


 ウィストから逃げ出した後、これからどうすれば良いのか分からなくなった。勝手に傷ついて、勝手にぶちまけて、挙句の果てに謝らずに逃亡した。誰がどう見ても僕が悪いと言える状況だった。

 こんな自分勝手な行動をした手前、冒険者ギルドに戻り辛くなっていた。これからのことをベルクさんに相談することも考えたが、嫌われるのが怖くて相談出来ない。エイトさんやチナトさんといった依頼で組んだだけの人に相談することも難しい。それほど重すぎる話題だった。


 頼る人が誰もいないため一人で何とか解決しようと思っていた。しかしどうにかしようと考えていると、偶然にも見覚えのある商店の前を通りかかった。

 商店の名は『アルチ』。冒険者になった初日に、ララックさんと出会った商店だった。


 ララックさんとは、あの日以降も何回か会っていた。アルチが取り扱っている商品は、冒険者や傭兵が使う物が多いため、それらを生業とする人が多く訪れる。僕も客として何回か店に訪れ、その際にララックさんと会っていた。

 またララックさんとはプライベートで会うこともあり、その度に食事を奢ってくれた。彼女曰く、先行投資のつもりらしい。断る理由もないため、それに甘えていた。

 だからララックさんは相談相手として最適だった。いつも話をするときはからかわれることがほとんどだが、今はそういう対応をされても構わないと思った。


 そう考えてアルチに尋ねると、商品を並べているララックさんの姿があった。ララックさんは僕に気付くと、微笑んで出迎えてくれた。


「いらっしゃい。今日は相談事かしら?」

「……分かりますか?」

「そんな深刻な顔をしていたら、ね」


 ララックさんは仕事中だったので、仕事を上がる時間まで適当に店内をぶらついた。他の店員に睨まれた気がしたが無視して居座り続けた。

 時間になるとララックさんに誘われて、近くの飲食店に入った。


 そして事の顛末を語ったのが、今の状況だった。


「はい。情けなくて、自分が嫌になります……」

「そうねぇ。確かに情けないわねぇ」


 正直な言葉が胸を痛めつける。だが全く反論はできないし、そもそもするつもりは無い。非は間違いなく僕にあるのだ。


「そうですよね……劣等感を勝手に感じて八つ当たりとか―――」

「私が言いたいのはそっちじゃないわ」


 僕を指差してララックさんは言い切る。


「今みたいに、何も考えていないことよ」


 その言葉はとても意外なものだった。彼女の指摘に言葉が出なくなっていた。


「劣等感を感じるのは仕方がないわ。八つ当たりするのはかっこ悪いけど、上手くいかないときは誰だってそうしたくなる気持ちはあるわ。問題は、その後自分が何をすべきかを考えていないことよ。実は解決策をもう考えていて、私に訪ねたのは弱音を吐く相手になって欲しい、というのならいくらでも聞いてあげるけどね」


 ララックさんの言葉が深く胸に突き刺さった。

 言い訳の余地がない。ララックさんの言う通りだった。


 確かに僕は、何も考えていなかった。年上のララックさんに話を聞いてもらって、同時に浅ましくもアドバイスを受けようとしていた。

 だがそれでは、何も解決はしない。僕が答えを考えなければ意味が無いんだ。


 そう思い至って考えたが、有効な手段が思いつかない。せいぜい謝ることぐらいだ。それに謝ったとしても、それでウィストに許してもらえるかは分からない。

 自分の答えに、自信が持てなかった。


「解決策は……考えます」

「えぇ、それが良いわ。あと、愚痴とか弱音ぐらいはいくらでも聞いてあげるわ。それだけでも、大分すっきりできるわよ」


 それはすでに最悪の形で実証済みだった。もっと早くララックさんに聞いてもらえれば、こんな事にはならなかっただろう。

 今度からはララックさんの好意に甘えるとしようと、心に決めた。


「ありがとうございます」


 礼を言うと、ララックは微笑んだ。その笑みからは溢れる母性が、僕の決断を後押ししていた。





 食事を終えてララックさんと別れた後、僕は冒険者ギルドに向かった。ウィストに謝ろうと思って、足早に歩を進める。

 具体的な解決策は、まだ思いついていない。だが、それは後で考えることにした。先にウィストに謝った方が良いと思ったからだ。

 一番まずいのは、今回の事を機にウィストとの関係が無くなってしまうことだ。もしかしたら今回の事を気に離れ離れになり、二度と組む機会が無いまま時を過ごすことになると想像してしまった。それだけは避けたい。だから先に謝罪だけでもして、関係を繋ぎ続ける必要があると結論付けた。彼女との仲の修復は、その間に解決策を考えて実行すれば良いだろう。


 歩みを止めることなく、僕は冒険者ギルドに向かう。人通りが少ないため歩きやすい。少しずつ速度を上げながら進み続ける。

 その道中の事だった。


「君がヴィック君だね?」


 突然、声を掛けられた。


 声を掛けたのは、僕の前から歩いて来た青年だった。僕よりも背が高くて細身の体系。藍色の髪で優しい雰囲気を感じさせる容姿をしている。僕の記憶にない人物だった。


「どなたでしょうか?」


 知らない人から声を掛けられて、内心動揺していた。

 青年はそんな事を気に止めずに話し出す。


「僕の名前はフェイル。君と同じ冒険者さ」


 冒険者を名乗ったフェイルさんだが、冒険者ギルドでは見たことが無い人だ。

 少し怪しく思っていると、それを察したのかフェイルさんは言葉をつけ足した。


「僕の事を知らないのは当然さ。他の街で活動していたからね。最近マイルスに来たんだよ。それにあまり下級ダンジョンに行かないからさ、見かけないのも不思議じゃないよ」


 マイルスの冒険者達は、向かうダンジョンによって冒険者ギルドに帰ってくる時間帯が違う。それは各レベルのダンジョンのある場所と距離差があるからだ。


 下級ダンジョンは、冒険者ギルドから三十分で着く場所にあるが、中級と上級ダンジョンは馬車で一時間以上かかる場所にある。定期便の馬車はあるが、その時間帯は朝と夕方の限られた間だけだ。個人で借りられる馬車が街の近くにもあるが、利用料が高いため使う者は少ないと聞く。

 定期便を使うと、ダンジョンから帰ってくるのは夜だ。夕方に下級ダンジョンから帰ってきている僕と会わないのは辻褄が合うことだった。


 フェイルさんの説明で一つ疑問が解ける。しかし、気になるのはそれだけではない。

 何故僕に声を掛けてきたのか。それが一番の疑問だった。


「何の用でしょうか?」


 黙っていても分からない。とりあえず、話だけは聞くことにした。


 すると青年は笑顔を見せて、こう言った。


「成り上がるチャンスが欲しくないかい?」


 この言葉が、僕を変える切っ掛けになった。


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