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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第三章 底辺冒険者

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3-1.とある冒険者の楽しみ

 ダンジョンに入ってから四時間が経過した。今いる場所は四階層目、薬草集めの依頼は二階層目で既に終わっていた。

 だがウィストは、まだダンジョンから出る気は無い。自分に課した今日の分の鍛錬が終わっていないからだ。


 ウィストが足音を消すように歩いていると、ふとモンスターの気配を感じた。

 前方には曲がり角がある。十中八九、あの先にいる。


 足を止めて耳を澄ますと、四つの足音が聞こえてきた。四足歩行のモンスターが二匹いる。そう予測して、ウィストは曲がり角から出た。予想通り、二匹のモンスターが一メートルも無い距離まで来ていた。


 先手を取った優位性を活かして攻撃を仕掛ける。低い姿勢で近い方のモンスターの前足を斬りつけ、直後に横に移動し、残りのモンスターに向かって蹴り飛ばす。二匹とも勢いに耐えられずにその場に倒れた。立ち上がらせる時間を与えないように、すかさず二匹の脳天に剣を突き刺す。二匹が絶命したことを確認すると、ウィストは深く息を吐いた。


「よしっ。今日の鍛錬は終わり」


 ノルマを達成して気分が良くなった。

 やることを全て終えたウィストは、鼻歌交じりにモンスターを解体する。


「おっとっと、先に火をつけなきゃ」


 道に備え付けられた松明を手に取り、用意していた木材に火をつける。木材に火が移ると、モンスターの解体作業を始めた。

 モンスターの名前はブピッグ。四足歩行で大人しい性格のモンスターだ。弱くて捕えやすいうえ肉が美味しいという評判のため、多くの飲食店にブピッグを使ったメニューがある。


「一匹はここで食べて~、二匹目はギルドに持ち帰って~、美味しくいただきま~しょう」


 即興の歌を口ずさむ間に、一匹目の解体が終わった。すぐに二匹目の解体に取り掛かったが、二匹目は血抜きと内臓の処理だけに止めた。


「すぐに痛んじゃうのは~、ここでおいしく~、いただきま~しょう」


 食べるのが楽しみになって、つい声が大きくなってしまう。以前、他の冒険者とダンジョンに入って同じように歌ったときは苦笑いされた。それ以降、一人のときでしか歌わないようにしていた。


「美味しく焼きあがれ~」


 持参した串に肉を刺して火で炙る。徐々に肉が焼けてきて、美味しそうな匂いが漂って来る。


「まだかな~、まだかな~」


 次々と串に肉を刺しながら、焼け上がるのを待つ。そして一匹目の肉を刺し終えた後、最初に焼き始めた肉が出来上がる。


「いただきまーす」


 勢いよく肉に齧り付く。歯を押し返そうとする肉の弾力、脂がのって美味しく焼き上がった肉は、まさに至高の味だった。


「上手い! これぞ、冒険者の醍醐味だねー」


 狩ったモンスターの肉をその場で食べられるのは冒険者だけだ。ウィストはその旨味を十二分に堪能した。お腹が空いていたこともあって、あっという間に一本目の串肉を平らげる。

 そして二本目の串を取ろうとしたときだった。


「せっかくのお楽しみタイムだったのに……」


 串を取ろうとした手を引っ込め、ウィストは剣を手に取った。

 焚火の音に紛れて、モンスターの足音が聞こえていた。


「一体、しかも大きめのサイズかな」


 大きな足音が一定のリズムで鳴っている。だが決して走っては来ない。モンスターもウィストの存在に気付いて警戒しているからだ。


 次第にモンスターの輪郭が現れてくる。二足歩行で近づいてきたモンスターは、四階層目では見たことが無いモンスターだった。

 身長はウィストと同じぐらいで、横幅はウィストより二回り大きい。肌は黒くて、顔はどことなくネズミに似ている。ウィストはそのモンスターを人型ネズミと名づけた。人型ネズミの両手には棍棒があり、力強く握っていた。


 ウィストは剣を握りなおすと、人型ネズミは大股で走って近づいて来た。間近に迫ると棍棒を振るって攻撃してくる。ウィストはそれを難なく避けると、人型ネズミはすぐにもう片方の棍棒で襲って来た。続けて三回・四回と連続攻撃を仕掛けてきて、反撃のチャンスを見出せなかった。

 初撃を譲ったのはまずかったかもしれない、とウィストは後悔する。おそらく相手はこのまま攻撃を続けてくる。そうなると今までの疲労が溜まっている分、ウィストが不利になる。


 人型ネズミの攻撃を後ろに退きながら避けていると、後ろから暖かい空気が伝わってきた。熱を感じた瞬間、ウィストは打開策を思いつく。

 一気に後ろに下がって、人型ネズミと距離を取る。開いた距離を人型ネズミは詰めてくるが、ウィストはそれよりも早く足元の焚火を勢いよく蹴り飛ばした。狙うところは決めている。火の付いた木が、人型ネズミの顔に向かって行った。

 人型ネズミは両手を交差して、火から自分の身を守る。攻撃が止んだ隙を狙って、ウィストは前進した。人型ネズミが交差させた手を解いた時、ウィストはすでに人型ネズミの懐に潜り込んでいた。

 防御する暇も与えず、ウィストは人型ネズミの胴体を斬りつける。直後に背後に回り込み、再び斬りつける。人型ネズミがたまらずよろめいたところで、剣を首に突き刺した。


 人型ネズミは抵抗することもなく、地面に倒れこんだ。初めての人型モンスターを相手にしたが、上出来な対処だろうと自画自賛する。

 だが、腑に落ちない点があった。


「これって……まだ子供かな?」


 三週間前に遭遇したグロベアに続き、下層にいる子供のモンスターとまた遭遇した。活動期だとモンスターが階層を越えて来ることはあるらしいが、あっても一階層くらいしか超えないと聞いていた。さらに子供だけで移動するのがほとんどないことも耳にしている。


「ま、いっか」


 ウィストは考えるのを止めた。あまり考えるのは得意ではないからだ。こういう異常は、ギルド職員に任せるのが一番である。早く食事を終えて、ギルドに報告するのが最善だと判断した。


 そうと決めたら、再び食事の準備をし始めた。

 報告を最優先すべきなのだが、食事をして疲労を回復してから安全に帰ることが大事だ、と都合の良い言い訳を自分に言い聞かせた。


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