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冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第十章 中級冒険者
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10-14.ピンチのときは

「なんで、生きてるの?」


 レンは死んだはずだと思っていた。アリスさんに殺されて土に埋められてたはずだ。レンの斬られた腕も見た。

 だというのに、目の前には五体満足のレンがいる。訳が分からなかった。


 だが僕の混乱が解けぬ間に、オルトロスは再び突進してくる。さっきと同じような高速突進。避けられる気がしない。

 しかし反応できない僕の代わりにレンが動いた。レンは横の壁に向かって跳ぶと、壁に着地した反動を利用して反射するように壁を蹴り、オルトロスの胴体に横から体当たりした。その速さはオルトロスの突進よりも上だった。


「ギャウン!」


 オルトロスは悲鳴を上げて地面に倒れた。レンが僕の前に走って戻ってきたときには立ち上がっていたが、ダメージが残っているせいか足が震えている。その反面、目の焦点はレンに向けられている。怒りを込めたような鋭い眼で。


「キ、キ、キキャーーーーーーー!」


 一方で、レンが叫んだ。それは、以前ウィストと初対面の時に聞こえた声に似ている。怒りを孕んだ怒鳴り声だ。あの時と違う点と言えば、レンの灰色の体毛が逆立っているということだ。喧嘩のレベルで見せる怒りじゃない。殺すための憎しみを含んだものだった。


 レンは見たことのないほどの速さで跳び回り始める。床、壁、天井を跳ねるように移動し、オルトロスを撹乱する。目にも止まらないほどの速さと不規則な動きだ。さすがのオルトロスも動揺したのか、首を一切動かさなかった。


 だが、レンがオルトロスに体当たりをした瞬間、それが見当違いだと分かった。


「キッ?!」


 天井から落ちるように跳んで背中にぶつかろうとしたとき、オルトロスがよどみない動きで避けた。その動作はなめらかで、まるで予想していたかのようだった。まさか見切ったのか? この短時間で?

 再びレンが跳び回り、頃合いを見て跳びかかる。今度は真後ろからだったが、同じようにして避けられる。偶然ではない。完全に見切られている。レンも察したのか、「キキキ……」と困ったときによく聞いた声を漏らす。足を止めずに動き回っているが、どう戦うか悩んでいるようだ。


 僕は左足の感覚が戻らないことに、苛立ちを覚える。動ければレンのサポートに回れるがそれができない。このままだとレンのお陰で有利になった状況が無駄になる。なんとかしないと……。


 どう打開するか悩んでいると、動き回るレンをオルトロスが前脚で叩き落そうとした。幸いにもレンは避けたが、避けた先にはオルトロスの片方の口が待ち構えていた。


「レン!」


 僕が声を上げたときには、すでにオルトロスの口が閉じていた。捕まったかと不安になったが、なぜかオルトロスの口にはレンの身体ではなく、大きな剣が挟まっていた。あの大剣には、見覚えがあった。


「ちっ! 頑丈な口だな!」


 ベルクが悔しそうな表情を見せて、オルトロスの口に大剣を振るっていた。ダメージは与えていなかったものの、地面に転がっているレンは無傷で済んだ。しかし、なぜここにベルクが?

 オルトロスは嚙みついたベルクの大剣を放すまいとしていたが、突如大剣を放して跳び退いた。同時に、上空からまたもや見知った姿が下りてきた。


「もうっ! 気づくの早すぎでしょ!」


 槍を持ったミラさんが、ベルクと同じ表情を浮かべていた。どうやら不意打ちを狙っていたらしい。


「うそ?! なんでレンがいるの?」


 ウィストの声が聞こえた。健在するレンを見て驚きの表情を見せる。無理もない。僕も死んだと思っていたほどだ。


「二人とも大丈夫かい?」


 ベルク、ミラさん、ウィストがオルトロスを目の当たりにする中、カイトさんが僕とラトナに声を掛けた。


「はい。なんとか……」

「うそだよ。ヴィッキーは左足を怪我してるの」


 僕の言葉を遮るように、ラトナが説明をする。カイトさんは納得するような表情を見せながら「やはりね」と頷く。


「なんだか顔色が悪そうだからね。じゃああいつは僕達四人が相手するから、二人は休んでてくれ。あ、けどあのモンスターも協力してくれるのかな?」


 カイトさんがレンを指差して僕に聞いた。


「はい。レンは僕とウィストの友達です。頭も良いのでわかってくれると思います。……けど」


 相手は上級モンスター。カイトさん達とウィスト、レンで勝てるのか分からない。もし勝てなかったら、と不安が胸をよぎった。


「大丈夫だよ。ヴィック」


 ウィストが笑顔を見せた。


「相棒がピンチの時は残った方が頑張るのよ」

「オレ達もだ。仲間と友達のためなら普段以上の力が出るってもんよ」

「そういうこと。だからあんたはラトナと一緒に休んでなさい」


 ウィスト、ベルク、ミラさんが次々と頼もしい言葉を投げかける。当たり前のような口ぶりに、身体の力が抜けていた。


「さて。じゃ、いこっか」


 カイトさんの声を合図に、みんなは動き始める。その背中はとても頼りがいがあった。


「ねぇ、ラトナ」


 みんなの戦う姿を見て、改めて思ったことがある。


「なに? ヴィッキー」

「やっぱりさ……」


 仲間って良いよね、と僕はラトナに聞こえるように呟いた。

 ラトナは小さく、ゆっくりと頷いた。


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