表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者になったことは正解なのか?  作者: しき
第二章 劣等冒険者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/131

2-2.ソロ活動

 ダンジョンに備えられた松明の下、僕はゆっくりと忍び足で歩いていた。一歩一歩、足音を出さない様に目標に向かって近づく。

 十メートル先には鳥型モンスターのコッコがいた。道の真ん中に一匹、普通のコッコよりも大きいサイズだ。今までは体長三十cm程度の個体しか見たこと無かったが、目先にいるのは五十cmもあった。

 コッコの素材は需要が高い。羽は衣類や布団、飾りなどに使われるため人気がある。身が締まった肉の味も良く、口に入れたときの触感は丁度良い歯ごたえだ。煮ても焼いても美味しく調理ができる汎用性の高さも人気の一つである。売れる素材が多いので、新人冒険者にとっては財布を潤してくれる有り難いモンスターだった。


 口の中の唾を静かに飲み込む。目の前にいるコッコは是非とも仕留めたい。コッコは逃げるのが早いうえに、嘴の攻撃が非常に痛いのだ。死ぬことは無いが、何度も啄んでくるためかなりうざったい。それにピンチになると鳴き声を出して仲間を呼んで来て一斉に冒険者を攻撃し、しばらくすると一斉に逃げるという通り魔のような行動をとる。すでに三度、同じ目に遭っていた。

 その経験から得たことは、見つからずにすばやく、確実に一撃で仕留めるのが一番良いということだ。


 コッコの倒し方を頭に思い浮かばせながら距離を詰める。コッコまであと五メートル。まだコッコは地面にいる虫を啄んでいて僕に気付いていない。

 このまま一気に距離を詰めたいが、コッコは臆病なモンスターだ。背を向けているが、耳は周囲の音を聞いて警戒しているかもしれない。最後まで慎重に詰めることにした。

 

 四メートル、三メートル、二メートルと徐々に距離を詰めていく。何事も無くあと一メートルのところまで近づくと、剣を強く握って攻撃する準備をする。


 そしていよいよ攻撃しようと意気込んだ時、道の奥から音が聞こえた。

 複数人の足音と話し声が反響して耳に届く。音は徐々に大きくなる。食事をしていたコッコにも当然聞こえている。コッコは顔を上げて、音がする方を見ていた。


 今のうちに攻撃しようと剣を構える。と同時にコッコは僕の方に振り返った。

 僕の眼とコッコの眼が合い、お互いに硬直してしまう。僕はいきなり振り向かれて、コッコは振り向いた先に敵がいたことに驚き、あまりの衝撃に動けなくなっていた。


 直後、先に我に返った僕はチャンスと見て攻撃を仕掛けた。小さく剣を振って、コッコの身体を狙う。突いた方が致命傷を与えられるが、躱される可能性も高い。短く振って、確実に当てにいった。剣先はコッコの胸に到達する。しかし寸前に気を取り直したコッコが退いたせいで、致命傷は与えられなかった。

 コッコが僕の横を走り抜けようとする。だがその動きにはコッコ本来のすばしっこさが見られない。与えた傷の影響かもしれない。

 すかさず低い姿勢で薙ぎ払うように剣を振る。剣がコッコの足に当たると、コッコは耐えきれずに転ぶ。その隙を逃すことなく、転んで動きが鈍くなったところを狙って、上から剣で突き刺した。首に剣を刺されたコッコは、しばらくすると身体が動かなくなった。

 

 無事に倒せたことで安堵の息を吐いた。大物を狩れて満足感に浸っていると、「お、やってるねー」と声が聞こえる。さっきの声がした方向から四人組の男女が歩いて来ていた。


「お、でかいコッコだな。おめでとさん」


 自己紹介をしたことは無いが、見たことのある顔ぶれだった。男二人、女二人の若い四人組。噂に聞くと四人とも同じ町出身で、冒険者になるために一緒にマイルスに来たらしい。


「こんなでかいコッコは見たこと無いなー」

「ねー。というか、三階層目にはコッコすらいないじゃん」

「そりゃ、でかけりゃ狙われるでしょ。下だとコッコより強いのが山ほどいるんだし」


 余程珍しいのか、コッコトークが続いている。そろそろコッコを解体したいのだが、話の邪魔にならないかと気になって、なかなか作業に入れなかった。


 しかし最初に声を掛けた青年が僕の顔を見ると、はっと気づいた素振りを見せた。


「あー、ごめんね。狩りの邪魔して。俺らそろそろ行くから」

「あ、いえ。大丈夫です」


 何が大丈夫なのかと、自分で突っ込みを入れたい返答をしてしまった。しかし彼らは気にせずにその場から離れた。


 横を通り過ぎていく際、僕は彼らの装備を盗み見た。

 デザインの良い防具に、頑丈そうな武器。どれも僕よりワンランク上の装備だ。

 

 他の冒険者が自分より良い装備を持っていることに嫉妬しているというわけではない。ただ、彼らは自分より後に冒険者になった。

 人数が多い方がダンジョンやクエストの効率が良いことは知っている。それでも後から冒険者になった者が、自分より先に進んでいるということに劣等感を感じざるを得ない。


 せっかく美味しいモンスターを倒したというのに、気分は晴れなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ