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第六話 進撃のトロル

 緑の巨人は、巨体の割には早かった。


 巨人は俺とテディを見ながら、だらしなく開いた口から涎を垂らしている。

 分厚い青紫の唇と、小さな眼球が気色悪い。


「なんなんだよアイツはよぉっ!」


「トロルっ! トロルですっ! 魔物図鑑で、絵を目にしたことがありますっ!」


「弱点か何かはないのかっ!」


「遭遇例が少ないからと、詳細は不詳になっていました! 多分、遭った人間はほとんど喰われてるんですよっ!」


「なんでこんなのがいるところに来ようと思ったのお前!?」


「それはお互い様ですっ!」


 大きな足音のおかげで、振り返らずともトロルが俺達のすぐ後ろまで来ていることはわかっていた。

 いつ追いつかれるかわからない。圧迫感が凄い。


「あっ! 先! 先見てください! 下層に降りる階段があります!」


 テディに言われて目を凝らせば、確かに突当りを曲がったところに下へと続く階段が見える。

 左右の幅が狭いので、トロルは通れないはずだ。


「でかしたテディ! お前、目いいな!」


 あそこまで行けば逃げられる!

 俺とテディは余力を使い切るつもりで、全力疾走した。


 段差に足を乗せたとき、慌て過ぎてテディの手を引っ張ってしまった。

 走りすぎて膝が笑っていたテディは、それであっさりと階段入り口で転んだ。


 テディへと、トロルのごつい腕が伸びる。

 俺は思いっきりテディの手を引っ張って階段を引き摺り降ろす。

 トロルの手が空を切った。


「危なかった」


「頭、まともに打ちました……きっと馬鹿になりました」


「……転ばしちまったのは悪かったけど、引き摺ったのは仕方ねぇだろ。あれに捕まりたかったか?」


 トロルは階段の向こう側から、未練がましそうにこっちを睨んでいる。


「何にせよ、さすがにトロルクラスの魔物はそうはいないはずです……」


「だといいんだが……」


 ゆっくり階段を降りようとしたとき、辺りが大きく揺れた。

 トロルが狭い階段へと身体をねじ込もうとしているのだ。

 勢いを付け、巨体を打ち付けていく。

 次第に両側の壁が崩れ、トロルの身体が入り込んでくる。


 入り口部分が一番狭いので、あの部分を突破されたらトロルでもギリギリ階段を通れそうだ。


「化け物が!」


 俺とテディは、階段を駆け降り、下階層へと突入した。

 そこから、なお走った。

 いつトロルが追いついてくるか、わかったものじゃない。


 トロルが通路を押し広げようとタックルする音が響く。

 トロルのタックルに合わせ、闇の洞穴全体が大きく振動する。


 とんでもない馬鹿力だ。

 あれだけ走ったのに全然疲れている様子はないし、今度追いかけられたら逃げ切れる自信がない。


 しかもこの辺りは分岐がなく、一本道だというのが辛い。

 万が一正面からトロルが出てきたら挟み撃ちにされる。


「一刻も早く、ここから出る方法を考えねぇと……」


「で、でもせっかく入ったからには何かアイテムを手に入れて……」


「そんな余裕あるかぁっ!」


 こいつなんでここまで楽観視できるんだと疑問だったが、テディの表情を見るに、彼女は満身創痍寸前だった。

 どこからこの物欲が出てくるのか。


「テディ、お前……なんで、そこまでここに潜りたかったんだ? ギルドでも、あんなに馬鹿にされて……」


 俺が尋ねると、テディは黙った。

 喋りたくないことなのかと思って話題を変えようかと考えていると、「今が最期かもしれませんし……」と前置きしてから、テディはぽつりぽつりと話し始めてくれた。


「……兄さんを、見返してやりたかったんです」


「へえ、お前、兄貴がいたのか」


「はい、兄は私と違って、あらゆる才に秀でていました……。私の家は、一応そこそこ名の通った魔法家の一族だったので……14になっても魔法のひとつも使えなかった私は、家の面汚しなんです。母も兄も、出来損ないだ、我が家の姓を外で名乗るなと……」


「で、このダンジョンに潜って功績を上げて、見返してやりたかったと。法螺吹きだと思われないように、ここに入った明かしも何か欲しい、と」


「……はい」


「そんで寄生しようとしてたら俺が引っかかっちまったと」


「…………」


 兄貴と母親が一緒になって妹を虐めるなんて、ロクでもない家だ。

 全財産ひっくり返して交通費を必死に工面していたのも、必死に頭を下げてあっちこっちに回っていたのも頷ける。


「わかった。絶対、なんかスゲーもん見つけて帰って、馬鹿兄貴共を見返してやろうぜ」


「シュウさん……」


 しかし息巻いてはみたものの、状況は何ひとつ改善されちゃあいない。

 俺もテディも、まともにモンスターと闘えるとは思えない。


 いや、確か俺には剣王というスキルがあったはずだ。

 保持しているだけで、剣の腕が格段と上がるというものだ。ひょっとすれば、剣さえあればある程度の魔物とは渡り合えるかもしれない。


 さすがにあのトロルは無理だろうが。

 あんな分厚い身体、ちょっと刺したくらいでどうにかなるとは思えない。


「とにかく今は、万が一トロルが追いかけてきたときに備えてちょっとでも距離を稼がねぇと……」


 歩いていると、足の裏に固い感触があった。

 足をどけてみると、人間の死体のようだ。


「ひぇっ! な、なな……」


 確認し直すと、人間ではなくモンスターのようだ。

 痩せこけており、小さなトロルのようだった。


「ゴブリン……ですね。生きていなくて良かったです」


 ゴブリンの死骸には、頭に鈍器で殴られたような痕があった。


「武器を使うモンスターってのは、そんなに多いのか?」


 俺が尋ねると、テディは首を振った。


「いえ、恐らく同族にやられたんでしょう。ゴブリンは知性こそ人間に劣りますが、狡猾さのみに考えればその限りではないといわれているほど残虐な奴らです。仲間殺しは、奴らの修正のひとつです」


 おっかない。

 このゴブリンが死体で良かったと安堵しながら、俺は前を向く。

 ニタニタと笑いながらこちらに接近して来る、緑の三体の子鬼と目が合った。

 全員手に棍棒を持っている。


「なっ! なんでここまで、気付けなかったんだ!」


「たた、多分、ゴブリンの持つスキルのせいです!」


 後ろに退こうにも、トロルの待つ階段まで追い込まれるだけだ。

 どこにも逃げ場はない。


「ケハッケハッケハァッ!」


 ゴブリントリオが笑う。

スキル紹介:


『通常スキル:勇者の袋』

 異空間にアイテムをしまい、好きなときに取り出すことができる。

 Lv1で豚の貯金箱程度、Lv最大で宇宙13個分程度のスペースを有する。

 スキルLvの上限は10。

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