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第四話 ごめんちょっと一人で盛り上がって見栄張っちまったかもしれん

 城を出てからも俺の興奮は冷めなかった。

 今が夢なのか、走馬灯なのか、そんなことをちらりと疑問にも思う。


 しかし仮にそうだとしても、だったら夢が覚めるまで好き放題にやらさせてもらうだけだ。


 開放感が凄い。

 今までの人生の重荷が一瞬で吹き飛んだ気分だ。


「金くらいはたかっても良かったか……まあ、今更だな。あんまり王さんに好かれてた感じでもなかったし、向こうは向こうで忙しそうだったし……」


 露店商の並ぶ街を歩く。

 景観を乱すような電柱やらなんやらはどこにも見つからない。

 右を見ても左を見てもファンタジーじゃねぇか。すげぇ、これはすげぇ。

 どうせなら飛び降りる前に使えそうな現代知識をあらかたメモしておけばよかった。


 しっかし……本当に、金がないのが痛い。痛すぎる。

 武器もまともに買えねぇじゃないか。


「やっぱりここは、冒険者の支援所みたいな施設に行くのが一番だな。多分、どっかにあるだろ」


 人に訊き、迷い、人に訊いてを繰り返す。

 どうにも入り組んだところにあるらしく、なかなか見つからなかった。

 あること自体はわかったので、根気よく探す。


「そこそこデカイじゃないか……」


 見つけてしまえば、なぜ見つからなかったのかと疑問なくらいだった。

 冒険者ギルド、と書かれた看板を掲げるベッタベタな施設があった。

 これだよこれ、これを探してたんだよ。



 中に入ると、見るからに武闘派の荒くれ者やら、小さな子供までまちまちだった。

 みんな冒険者なのだろうか。


 受付嬢にシステムを尋ねる。

 どうやら本人の魔力から情報を読み取り、専用の魔石に登録する仕組みらしい。

 登録したばかりの人はC級クエストを受けることができ、功績が認められればB級クエストやらA級クエストにも挑戦できるようになるのだとか。


 聞く度にこれだよこれ、こういうのを待ってたんだと一人で喜んでいると、受付嬢から怪訝な目で見られた。

 自重しよう。


「じゃあ、登録お願いします」


「かしこまりました。登録料は、5000Gになります」


「あ、やっぱり……また今度にするわ」



 苦笑いをしながら俺は受付を離れる。


 受付嬢から一層と呆れた目で見られた。

 次登録しに来ることがあったとしても、別の人の受付に行こう。

 また彼女と顔を合わせられる自信がない。



 それから冒険者同士の待合室で一人、頭を抱えて座り込んだ。


 金がないと金が手に入らないって、ただの現代じゃないか……。

 夢も希望もないぞ。

 登録くらいただでいいだろ……。


「だから、私と闇の洞穴に……」


「おいおい嬢ちゃん、諄いぜ。なんで俺達がそんなところに付き添わなきゃいけねぇんだっつうのよ。ガキの子守りなんかやってられっかアホらしい」


「私っ! こう見えても、強いんですよ! 本当ですからっ!」


 一人絶望していると、何やら言い争っている声が聞こえてきた。

 声の方を見てみれば、がっくりと肩を落とす明るい茶髪の少女と、笑いながら彼女から去っていく大男達の姿が見えた。


「私、強いですもん……」


 少女は自分に言い聞かせるように呟き、自分の目をごしごしと袖で拭う。


 それからまた他の人の傍に行き、「私と一緒に闇の洞穴に……」と口にする。

 鼻で笑われても、鬱陶しがられても、彼女は同じことを繰り返す。


「うぜぇぞクソガキッ!」


 痺れを切らした男に蹴飛ばされる。

 少女は肩から床に倒れ、肺を傷めたらしく咳き込んだ。


 誰も男を非難しないし、少女を憐みもしなかった。

 クスクスと、遠巻きに見ながら彼女を笑っていた。


「私、強いですもん……」


 涙をすぐに拭っては立ち上がっていた彼女もさすがに心が折れてしまったらしく、床にしゃがみ込んで顔を隠したまま、嗚咽を上げた。


「なあ、お前、闇の洞穴は金になるのか?」


「え……? は、はい……」


「よし、わかった。俺と一緒に潜ろうぜ」


「でも、たった二人じゃ……」


「安心しろ。俺、超強いぜ」


 確証はないが色々と力を付与されてるみたいだし、俺だってそれなりに戦えるだろう。

 こんなか弱い女の子が潜ろうとするようなところなのだから、名前ほど危ないところでもないはずだ。


「お、おい、あんた正気か? たった二人であんなところ行ったら死ぬぞ!」


 離れたところから見ていた男が一人、俺に声を掛けながら近づいてきた。


「そいつは有名な大馬鹿なんだよ! 情が湧いたのかは知らんが、お前、死ぬぞ!」


「二人じゃ駄目ってことは……誰か、付いて来てくれんのか?」


「それとは話が違うだろうがっ! 俺は……」


「だったら、黙っててくれ。俺はもう決めたんだ」


 言いながら、俺ちょっとかっこよくね?

 最高に主人公してね? とか色々と考えてしまう。

 いかんいかん、表情が緩む。


「どうする? 俺と一緒に行くか?」


「は、はいっ! 行きます! 一緒に行きましょう!」


 少女が俺の手を取って、顔を輝かせながら俺を見る。


 周りの冒険者達の顔が固まっていた。

 本当に行くのか? 俺は知らんぞ?

 誰もが、目で俺を引き留めているようだった。

 さっきの受付嬢も、唖然とした顔で俺を見つめている。


 あれ、ひょっとして闇の洞穴ってヤバイところなんじゃないのか?

 そう思い直した頃には、すでに先ほどの少女がぺったりと俺の横にくっ付いていた。地獄で仏を見たと言わんがばかりの人懐っこい笑みを俺に向けている。


「よろしくお願いします! 私、テディと言います!」


「あ、ああ……よろしく頼む」


 断るタイミングを完全に失った。

 テディはきゃっきゃっと喜びながら俺の手を引く。

 俺は連行される死刑囚の心境だった。覚束ない足取りで、よたよたと冒険者ギルドから出る。


 アイツやっちまったな、みたいな視線が身体中に刺さる。

 この場で事態を正確に把握できていないのは、当事者であるテディくらいだったかもしれない。

スキル紹介:


『特殊スキル:剣王』

 このスキルを保持していると、剣を用いた戦闘技術が格段と上昇する。

 剣豪の進化スキル。

 スキルLvの上限は10。

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