第一話 ダイナミック現実逃避
昼休み、推薦入試の発表が大学のサイトで行われた。
俺の受験番号は、何度確認しても載っていなかった。
俺はショックのまま学校の屋上に入り込み、見知った街を見下ろした。
そのまま時間が経ち五限が始まったが、俺は教室に戻れないでいた。
はあ、と溜め息を零す。
いつもの癖でメッセージアプリを開き、新着メッセージを確認する。
ブロックしたはずの幼馴染から、精神攻撃の乱舞が来ていた。
『シュウ君、推薦入試、残念だったね(ノ_・。)』
『でも大丈夫だよ! 私も合格取り消すって生活指導室に相談してきた!』
『シュウ君いないところなんて意味ないもんっ(*゜▽゜)/゜・』
『先生がぜんぜんわかってくれなくて、ちょっと喧嘩しちゃったけど( ̄∇ ̄*)』
『シュウ君落ち込んでる? 大丈夫だよ? 私はずっと味方だよ?』
『大学に入らないっていうのも手だと思うよ! 私が働きだしたら、長年のよしみで養ってあげよっか? なんちゃって☆』
『そういえばシュウ君ね、前の日曜日なんで女の子とふたりで駅にいたの? クラスの子だよね?』
『怒ってるわけじゃないの! ぜぇーんぜん! 気になったから聞いてみただけだからね(*。_。)』
『ただ……その、やっぱり、一応訊いておきたいかなーって』
『嫌だったらいいよ! ぜんぜんいいよ! ごめんね、変なこと訊いちゃって!』
スマホを買い替えたのか、それとも何か他に抜け道があったのか、そんなことは知らないし、どうでもいい。
とにかく、今のナイーブな俺に、この精神攻撃は効いた。
効果バツグンで急所に当たった。
幼馴染の愛梨は、はっきりいって頭がおかしい。
才色兼備を体現したような彼女ではあったが、その分とはいってはなんだが、人格がおしゃかになっていたのだ。
小学校の頃、愛梨の親は教育の鬼だった。いや、教育というよりは、最早アレは洗脳だったかもしれない。
そのとき、あいつの家に乗り込んで直接文句を言ったのが俺だった。
今となって思えば、あれが決定的な原因だったのだろう。
小中高と付き纏われた。俺の障害物を徹底して潰して回るのが愛梨の日課だった。
あの過保護とも思える異常振りを見るに、やっぱり親子だったのだなと嘆かざるをえない。
お互い、得たものより失ったものの多い学生生活だった。
「受験も愛梨も、ない世界にいけたらな……」
空を見ながら、俺は呟く。
それからスマホを操作し、とあるサイトを開く。
青字に白の背景のロゴが美しい、『小説家になろう』という小説投稿サイトだ。
俺はこの小説に投稿されている、俗に言われる異世界ものが大好きだった。
死んだ主人公が異世界に転移転生され、ハチャメチャ大冒険を繰り広げるファンタジーものだ。
俺は笑って、スマホを屋上から放り投げた。
「死んだら、異世界行けねーかな」
自分の言葉に後押しされるよう、俺はスマホを追って屋上から飛び降りた。
蹴って宙に飛び出した瞬間、「あ、ヤベェ」と我に返った。
完全に勢いだった。
受験ノイローゼとストーカーノイローゼ、その二つの最大振幅での波長が重なって生まれた奇跡のコラボレーションだった。