第四話、お願い。
「あ、そろそろ帰る時間だ。」
そう言ってハクは話に聞いていた通り、持ち前の身軽さで窓の淵から外へ飛び出し地面に着地してこちらの向いた。
「もう帰ってしまうの?」
「うん、ごめんね。リリア、君とは直ぐ会えるよ。僕の勘はよく当たるから」
そういうと、屋敷から出てきた美男美女の両親と一緒に私に手を振って帰った。
彼はとても五歳児だとは思えない大人の雰囲気と頭脳や思考を持つ美少年だった。私は転生したからとても子供には見えないのは仕方が無かったのだけれども。
だからこそ、彼には私のことをリリアと呼ばせた。信頼できる人間だと確信したから。
私は、去っていく彼に背を向けていそいそと会場に戻って行った。
「何処行ってたんだよ、リリア!」
会場に戻るなりいきなりカイルに肩を掴まれて涙目になりながら私にそう言った。カイルは何時もそうだった。
気が強く、好奇心旺盛な分、甘えることが上手にできなかった。
だから、唯一甘えられる私が消えるとカイルは涙目になって私のことを探すのだ。見つかった時、決まって私はカイルを抱きしめた。
ここは会場だから頭を撫でてあげた。
守りたい大切な人、だけど強くならなきゃいけない人。
「泣かないで、男の子でしょ?貴方には、いつか守らなきゃいけない人が出来るんだから、泣いちゃ駄目。
ほら、お父様達にお願いしに行きましょ。」
そういうと涙をごしごしと拭いて元気良くうんっと言った。強くなってね、と一言言い、改めて私達は手を繋ぎ両親の前に立った。
「お父様、お母様。お願いがあるんです。」
「…貴方達からお願いなんて珍しいわ。何かしら?」
「私達を、魔術剣士指導学校、ヴァルシオーネ学園に初等部から通わせて欲しいのです。」
そういうと、、会場にいた人達が驚いていた。両親も口を大きく開けていた。そんな中、国王様だけが笑っていた。
「な、何を言うんだ。確かにあそこは五歳から入れる場所だが…せめて中等部から…」
「父さん、俺今のうちから勉強して立派な剣士になって、剣豪王ヴァルキリー叔父さんに手合わせを頼むんだ。」
そう強く言ったカイルにお父様は大層驚いたことだろう。
勉強嫌いなカイルがましてや将来のことまで考えているのだから。
「お母様、私も同意見です。お母様の師匠、偉大なる魔術師様の跡継ぎになり、継ぎたいのです。了承も前々から得ています。」
そう、前々から得ていた。無論、ちゃんとした魔術師になってからなわけだけど。
「そう…師匠様まで…私は了承するわ。親孝行には早いけれど、いつかは私達から去って行くんですもの寂しいけろど、アナタ、いいですよね?」
お母様がお父様にそういうと、お父様もしぶしぶ了承してくれた。
するとレンタード公爵が、私達の前に一人の美少女を連れてきた。
「それは、喜ばしいことです。提案があるのですが、護衛をうちの娘のマリネに任せてはいただけませんか?
この子は魔法はまだしも、治癒なら完璧です。怪我をしようが大丈夫でしょう。」
マリネと呼ばれた少女は長くウェーブがかかった白髪に白とピンクのオッドアイという珍しい瞳のボーッとした女の子だった。ハクに雰囲気は似てる。
カイルは顔を赤くしてわなわな震えている。あれが一目惚れという奴か。
「お父様、私は賛成です。マリネさん。私はリリアンヌ。
この先、付き合いも長いと思うし、リリアと呼んでね。」
「お、俺はカイル!カイルって呼んで。よ、よろしく、ま、ま、マリネ…さん。」
「…私…マリネ。マリネ・レンタード。マリネって呼んで。よろしくね、リリア、カイル。」
そう、微笑んでくれたマリネは天使に見えた。
…のか、カイルは隣で悶えていた。