一騎当千
目の前まで来た木刀をギリギリでかわした。ついでに、木刀を振ってきた奴の腹に拳を入れた。そいつが倒れた瞬間、そいつの後ろから二人の影が見えた。それぞれが拳と脚を振ってくる。脚は跳んでかわし、拳はそのまま受け止めた。なんのダメージもない。拳を振ってきた奴には、顔面に拳を、脚を振ってきた奴には、顔面に脚を、それぞれ入れた。二人が倒れたのを確認した後、振り返ると、また木刀がやってきた。上半身を反らしてかわし、起き上がるついでに、拳を入れる。
かわして、倒して。かわして、倒して。時々受け止めるが、結局倒す。気が付くと、集団の中で倒れてないのは、ソファに座っているのを含めて三人しかいない。ようするに、ソファに座っている奴らしかいない。
「いやー、いいもの見たよ」ソファの真ん中に座っている男が拍手をしている。
「おい、拳汰郎!」
「はい、なんですか」
どこにいたのか、鵜飼は後ろの方からやってきた。
「こいつ、お前の仲間か?」
「え、なんでですか」
「ぶっ殺しても平気かって、聞いてんだよ」
「え」
鵜飼が動揺している姿を見るのは初めてだったかもしれない。
ソファに座っていた男が立ち上がり、俺の目の前に来た。
こうして見ると、この男はしっかりした体つきで、身長もかなり高い。坊主頭であることも、相手に威圧感を与えるためなのだろうか。坊主男の右手を見ると、沢山の指輪がはめられている。この拳を入れられると痛そうだな。感じたのはこれくらいだった。
坊主男の目を見た。ほんの少し、目つきが変わったのが見えた。
ああ、右の拳を入れてくる。
そうだと分かった。俺は、坊主男より一歩早く踏み込んだ。右腕を引きながら、腰を時計回りに回転させる。そして、右足を踏み込むと同時に、腰を反時計回りに回転させながら、右腕を突き出した。
五メートル以上飛ばすのは、漫画の世界だけだった。残念だ。二人の女の子は目を丸くして、坊主男を眺めているだけだった。