体育館裏の出来事
朝になり、俺は榎本が後ろから来るのではないかと思い、身構えていた。だが、榎本は来なかった。時間が経つのは早く、もう放課後になっている。今日一日、榎本の姿を見ることは無かったな。そう思い、帰宅の準備を始める。
いつからだろうか、俺のそばに榎本がいるのは。今まで、一人で学生生活していたではないか。
教室を出ると目の前に誰かがいた。「ついて来い」
仕方なくそいつの後についていくと、体育館の裏に着いた。
ああ、そういうことか。
目の前には、アザだらけの榎本が倒れていた。近くには鵜飼が座っている。
「あーあ、カラス君が俺と組まないから、大事な大事なお友達がアザだらけになっちゃった」鵜飼は俺の方に歩いてきた。
「ちなみに、ヤったのは俺じゃないよ。あいつらだよ」
指を指した方に視線をやると、息を切らした男がいた。鵜飼の言っていることは合っている。彼らの拳は赤くなっているのに対し、鵜飼のは綺麗なままだった。
鵜飼は自ら手を汚さない奴なんだな。
俺は息を切らしている二人の方へと向かった。そして、拳を二回振って相手を沈めた。二人いるから振った回数は二回になった。
「ホントにお前スゴイな」
後ろで鵜飼が手を叩いて笑っていた。
「何故、榎本を…」
「え?こうでもしないと、カラス君振り向いてくれないでしょ」鵜飼が腕を肩にまわしてきた。鵜飼の不敵な笑みが視界に入る。
「俺と組んでくれないと、次に〝不慮の事故〟起こすのは、キミのお友達になっちゃうよ」
少し考えた。元々、俺は一人でやってきた。いわゆる一匹狼だ。ある日突然、俺の前に現れたのは小学校から同じだという榎本だ。榎本が傷付けられて、頭に来たことは認める。だが、いてもいなくても変わらない。また元に戻るだけだ。
「俺と組んだら、榎本には手を出さないんだな」この言葉が出たのは自分でも驚いた。
ピクリと榎本の体が反応した気がする。
「なんと。ああ、約束するよ。あいつが仕掛けない限り、こっちからは手を出さないことにしよう」
「どういうことだ」
「いや、なんでもない。とにかく、今日からお友達だな」
アザだらけの榎本と、その横で腹を抱えた二人の男を無視して、俺と鵜飼は、その場を立ち去った。この後、榎本がどうなったのかは知らない。