鵜飼対榎本
榎本よりも鵜飼の方が、背が高い。だから、鵜飼の威圧感をものすごく感じているはずだ。だけど、榎本の目には怯えている様子は一切なかった。
「なんだよお前。俺にケンカ売るのか?だったら、買ってやるぜ」
「ケンカ?なにそれ。それにお前だなんて…女の子だったら泣いてるよ」
俺は二人のやり取りを見て思った。榎本には口喧嘩では勝てないなと。
「椿原君が自殺したんだぞ。なんとも思わないのか?」
「は?なに突然。ウケるなー。あいつは不慮の事故で死んだんだろ。俺関係ないじゃん」
「関係ないわけないだろ!それにこの間、女の子襲ったって聞いたぞ!」
「あー、あれね。そうか、お前も一緒にヤりたかったのか。じゃあ、今度誘ってやるよ」
「そんなこと言ってねえだろ!」
興奮したのか、榎本は近くにあった椅子を蹴っ飛ばした。
「榎本、落ち着け」俺は榎本の肩に手を置いた。この様子を見た鵜飼は嬉しそうな顔をしている。悪い顔だ。
「そうか、お前ら仲良いのか。お友達は大切にしろよ」そう言って、鵜飼は教室を出た。
榎本の肩は激しく上下に揺れている。
榎本が落ち着いた頃合いを見て話しかけた。
「何故急に突っかかった」
「………」
「そうか」
黙っている榎本は珍しい。きっと、何かしらの事情があったに違いない。
榎本と鵜飼が言い合いしている間も、クラスメートは目を逸らしていた。今もそうだ。むしろ、俺たちを最初からいないものとしている。そう感じる。ひとりずつ拳を入れてでも、見てもらうつもりは全くない。ただやっぱり、非常に不愉快だ。