蘇る光景、そして
朧月は触れただけで切れてしまうくらい、鋭く細い目つきをしていた。その目つきは昔に見たことのある目つきだった。
「おい!」
真夏の暑い日に、その声は小さな部屋の中で響いた。
「おい、起きろ!酒だ。酒を買ってこい」
父親は典型的なアル中になっていた。ちょうどその頃、母親は俺を捨てて家にはいなかった。父親がアル中になって母親がいなくなったのか、それとも、母親がいなくなって父親がアル中になったのかは分からない。
父親は俺の髪の毛を引っ張り、持ち上げた。俺は痛いと泣き喚いた。
「うるせぇ」そう言い、俺を投げた。
「このくそガキ。酒も買ってこれねえのかよ。使えねえな」
父親は俺を蔑んだ目で見てきた。
「あんたぁ、借りた金はちゃんと返せよ」
借金取りが玄関の前で父親に言っている。父親は土下座して謝っていた。
「すみません、すみません」
この頃の父親は更生し、社会復帰までしていた。だが、いまだにアル中時代の借金が残っていた。
俺も複雑な時期だった。だから、素直に父親のことを認めていなかったのかもしれない。
「もう、いいや。死ね」
そう言って、借金取り、もとい、桐崎は父親を撃った。
「んだ、てめぇ、何か文句あるか?」
桐崎もまた俺を蔑んだ目で見てきた。
父親の目と桐崎の目が、今、目の前にいる朧月と重なって見えた。
不愉快だ。
「ちっ。そんな目で俺を見るなぁ!」
右脚を踏み込み、左側のホルスターから抜き出すと同時にナイフを振った。
ナイフは、空気を切り裂き、服を切り裂き、肉を切り裂く。
……………はずだった。
胸が熱く、鼓動が強い。
胸に手を当てる。
水とは違った、だけど液体の感触がした。
血だ。
一歩、二歩と後ろに下がる。脚の踏ん張りがきかない。そのまま仰向けで倒れた。
天井が高く感じた。
「くそっ」声が出なくなってきた。起き上がろうとするが、身体に力が入らない。
今出せる力で、腕を振り、ナイフを投げた。当たればいいな、その程度だった。最後の抵抗がこの程度かと、自分でも可笑しくなる。
ナイフは何かに刺さったような音がしたが、よく分からなかった。音がほとんど聞こえなくなっていた。
気が付けば、視界も狭くなってきている。
狭まる視界の端から、黒い蝶が見えた。




