よくある学生生活の一部
「…で、あるからして、これは〝不慮の事故〟ということで…」
この学校の良いところを一つ挙げるとしたら、朝礼時に生徒を座らせるところだ。それ以外に良いところは一つもない。
「…で、あるからして、何か聞かれたとしても〝ノーコメント〟ということで…」
校長の発言は聞いていて面白い。とても重要な部分をわざわざ強調してくれる。あからさま過ぎて面白い。
教室に戻る途中、生徒達の会話は当然その話題になる。
「校長の言った不慮の事故って、嘘でしょ」「俺、自殺って聞いたぜ」「不慮の事故ってなに?」「やっぱ、鵜飼とか関わってんのかな」「えー、こわーい」
怖いのはお前らだ。お前らは何かあるとすぐに陰口を言う。昨日までは友人、今日からは知人になる。右で害虫にたかられていたら左を向く。弱い奴がいけないことにする。
「ちっ」
舌打ちをしたのは榎本だった。
「なんか…ムカつきますね」
それは、生徒のことなのか、校長の話のことなのか、その両方なのか。とにかく、榎本はムカついているそうだ。
「そうだな」
「こういう事件、大好きですからね。マスメディアは。マスメディアのエサですよ」
「そっちか」
「そっちって、どっち?」
榎本のムカついている対象がマスメディアとは思いもしなかった。
「ところでさ、なんで花瓶があるんだ?」
俺が指差したのは、この間蹴っ飛ばした机。椿原が使っていた机だ。
鵜飼達がやったのか、それとも、クラスメートがやったのか。「お前の席ねーから」と机の上に花瓶を置いたのか。いや、鵜飼達は直接手を出す。だからもし、やったとすれば、クラスメートに違いない。
そんなことを考えていたが、隣にいた榎本が、驚いた顔をしながら言ってきた。驚いた顔には半分、笑いをこらえている顔も混じっていた。
「さっきの校長先生の話聞いてなかったの?」
榎本の話を聞く限りでは、椿原は自宅のベランダから飛び降りたらしい。椿原の家はマンションで、それなりの階だそうだ。そこから飛び降りれば当然死ぬだろう。二階建て一軒家のベランダったら、死んでも死に切れないに違いない。
気が付くと、俺はずっと花瓶を見ていた。隣にいた、榎本が何をしていたかは分からない。
突然、教室内の声が止まった。何秒かは分からない。誰も息をしていないのではないかと言うぐらい、教室内は静かになった。ただ一つ聞こえたのは、足音だけだ。
何人かは足音を目で追い、残りの多数は足音から目を逸らした。ちなみに、足音を目で追っていたのは、俺と榎本だけだ。
「鵜飼!」
俺の隣から、声が上がった。足音を立てている人物に向かって、怒鳴った。
「あ?」顔だけがこっちを向いた。「なんだ?」
鵜飼は鞄を床に叩き付け、俺たちの方に向かってきた。その足取りは比較的軽い方だったと思う。
この間も、多数の生徒、いわゆる、目を逸らしていた生徒は、未だに目を逸らしていた。