従順な犬の主
「ここだ」腐った手すりの階段を昇り、いつもの大広間に着いた。
大広間に入ると、目の前に人が立っていた。逆光で顔は確認できない。
「ちょっとさ、何時間待たせるわけ?」
聞き覚えのある声。上品そうで下品な声をする女は一人しかいない。
太陽が雲で隠れる。榎本が大広間の電気をつけた。目の前に姿を現した人物は、堂々たる立ち姿で、腕を組み、蔑んだ目で俺を見る。軽く巻いたロングの髪型が、下品なお嬢様のように見えた。その姿に見覚えがある。
「柊さん?」榎本が言った。
「あいつを駆除するのか?」俺は朧月に聞いた。が、朧月は何も言わない。
「あなたバカ?わたしは依頼者よ。駆除されるのはあなたの方」
「⁉」どういうことだ?俺に依頼したんじゃないのか?
朧月はゆっくりと目を瞑り、口を開いた。
「私は…嘘は言っていない。君への依頼だと言った。君にではない」
そして、朧月はコートの内側から拳銃を取り出した。
「何故…俺を?」
「何故俺をだって?そんなの決まってるじゃない。あなた鬱陶しいのよ」
朧月の持つ拳銃は俺を向いているがまだ撃つ気はないようだ。後ろの方にいた榎本が近づいてきた。
「烏山君、中学の時覚えてる?謎の男に鵜飼君が痛めつけられたのを…」
はっきりと覚えている。その謎の男はついさっき俺のところに来たからだ。
「その謎の男、朝、烏山君のところに来たでしょ?」
「ああ」その男が名刺を持っていたから、俺は今ココにいる。
「その謎の男の名前は桐崎五門って言うんだ。頭は全く冴えないけど、主に従順な犬みたいな人なんだよ」
「その主が柊ってことか」俺は柊の方へ話を投げた。
「そうよ。わたしのかわいい犬をあなたは倒したの、二度も…」
「だから、依頼したのか?」
「違うわ。あんな奴どうなったって、変わりは沢山いるもの」
「じゃあ、何故…」
「ビジネスの邪魔ってとこかしら?」
俺は柊の何かを知っているような笑顔に鳥肌が立った。
「もういいだろう…」
朧月は静かに言い、トリガーに指を掛けた。
「君を失うのは惜しい…」
「あっはっはっは!叩いても、叩いても潰れなかったあなたは本当の意味で害虫ね!わたしの依頼で駆除できるなんて、この世界の英雄だわ!」下品なお嬢様が下品な笑いをたてている。その姿は、俺も榎本も今まで見たことのない姿だった。




