朧月事務所の存在
「この世界についてどう思う?」
廃ビルに入り、朧月について行く。朧月の立ち姿、歩き方、一つ一つの仕草に老若男女誰もが目を惹くに違いない。そんな朧月の口から「この世界について」問うてきたら、神様や仏様のような特別な存在、特別な生き物に見えてしまう。
「この世界は醜い。だから、君のようなスイーパーという存在を私は高く評価する。ただ残念なことに、この世界にはスイーパーという存在は一番鬱陶しいらしい。今までに何度も、私のところに君の情報を欲しがっている奴らが来たよ」
「情報…?」
「そう、情報。この世界、というよりこの地球はなにで出来ていると思う?」
「情報と金か」
「そうだ。情報とお金が無ければ、この世界、この地球は存在することが出来ない。地球を維持するために、人々はいろんな形で戦争をする。殺し合いだけが戦争じゃない。その戦争をするには人や武器を集めなければならない。それらを集めるにはお金が必要だ。ただ、お金が有るだけでは何も集まらない。だから、何かを集めるにはまず情報を流すことから始まる。もう分かっただろう。情報とお金で人は動く。人が動くから地球が動く。だから…」
「情報と金で地球は回る」
「そういうことだ」
問題の答えが当たっていた。先生に褒められたようで悪い気はしない。が、そんなことはどうでもいい。朧月事務所はただの〝何でも屋〟ではない。何か恐ろしい存在であることは間違いなかった。
「この事務所は………なんだ?」
足を止め、朧月に尋ねた。
「………」
朧月も足を止め、振り返り、俺と目が合う。朧月の目は今にも飲み込まれてしまうような深淵さを感じさせる。
「ただの…何でも屋ではないだろ…?」
「この間…」朧月は天井を見上げ、重々しく口を開く。「この間、君の知り合いから君の居場所を聞かれた。当然、君の居場所を売った。その前には君と君のターゲットの関係性を聞かれた。当然、そのことも売った」
俺の知り合い?
俺の居場所?
ターゲットとの関係性?
幾つかのワードを検索すると、記憶の切れ端がヒットする。ヒットした記憶を開くとその光景がよみがえり、頭の中で再生を始める。
『あー、知り合いに、情報屋がいるからよ…あれ?探偵だっけか?』
鵜飼の言葉だ。すぐに分かった。知り合いとは…榎本だろうか。少なくとも俺の中で、鵜飼、知り合い、情報屋で結びつくのは榎本しかいない。
『それとも、椿原が昔のクラスメートだったからか?』
椿原を駆除した時の仲介人だ。そうか。この事務所から聞いたのか。絶対とは言い切れないが可能性は高い。
他にもきっといるはずだ。俺を駆除しようとする奴ら、俺を雇おうとする奴ら、なんとなく俺に興味がある奴ら。みんながこの朧月事務所を利用するとは限らない。たまたま今回、朧月事務所を利用した奴が俺と接触しただけのことだ。心配する必要はないが用心する必要はある。鵜飼だって言っていたではないか「気を付けた方がいい。狙われている」と。




