廃ビルの存在
「ようこそ、朧月事務所へ」
目の前に、整った顔立ちで、綺麗なお辞儀をする、人がいた。女性が好きそうな雰囲気がある。その人こそが朧月事務所所長の朧月潤だと榎本が言った。
「何故、榎本が知ってるんだ」と、尋ねる前に榎本が謝ってきた。
「ごめんね、烏山君、黙ってて。僕はここで働いているんだ」
そうかと答える。特に榎本を責める理由はなかった。
「お、君が噂の烏山か」
朧月が榎本とのやり取りを聞いていたらしく、そう言った。ちょうどよかったと。
「ちょうどいい?」
「そうそう。ちょうど君への依頼だ」
依頼?依頼とはきっと、今まで俺がこなしてきた類のものだろう。だとしたらだ。榎本も俺や鵜飼らと同じ世界にいることになる。
「この事務所は普段、何やってんだ?」正直に答えるかは分からなかった。が、尋ねないと分からなかった。
「何でも屋だよ」
答えたのは隣にいる榎本だ。俺の方は見ていない。
「何でも屋?」
「そのうち分かるよ」
結局、榎本は俺の方を見なかった。
信用できないまま、榎本もついて行くというだけで、俺は言われるがままに、朧月の運転する車に乗ることになった。
車は町を走り、あるビルに到着した。例の廃ビルだ。未だにこの廃ビルが残っているとは思ってもいなかった。廃ビルの佇まいは昔のままで、きっと、どこかの集団の巣があるに違いない。
思えば、俺がこの世界にいるのはこの廃ビルが発端ではないだろうか。
鵜飼に連れられ自称エリアのトップを倒したり、〝team crow〟に入ったのもこの廃ビルでのこと。
そうだ…この廃ビルが無ければ…。




