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事務所の存在

 最上階の一室。足元に二つの〝モノ〟が転がっている。一つは大物議員で、もう一つは頭の悪い害虫だ。いいのはガタイだけだ。

 何か出てこないかと、しゃがみ、ポケットの中を探った。大物議員からは、厚手の財布が出てきた。カードを持ち歩くものかと思ったが、お札も持ち歩くようだ。数枚だけお札を引き抜き、ポケットへと戻した。馬鹿な害虫には期待していないが、念のため財布を覗く。案の定、お金は無い。ただ、一枚だけ名刺が出てきた。


『朧月事務所 所長 朧月潤』


 名刺にはそう書いてあった。

「朧月…事務所…?」

何かこの世界と関係があるのだろうか。鵜飼に聞けば分かるのだろうか。裏面には事務所の住所が記載されていた。住所を確認し、名刺はジャケットにしまった。

「おーい。カラス、生きてるかー」

 その声に、一瞬身構えたが、必要なかった。その声の主は、おそるおそる入ってきた、鵜飼だった。

「うわっ。誰だコイツ」鵜飼は俺の足元に転がっている〝モノ〟を見て、驚いていた。

「さあ…」

 柊が雇った男だとか、俺の父親を撃った男だとかは言わなかった。なんとなく、鵜飼は知っている気がした。むしろ、知っているはずだ。

「見覚え無いのか?」お前はコイツに痛めつけられたはずだ。

「いや…知らない…」少し、目を伏せた気がした。「そんなことより、お前、怪我してないのか?」

 さっき、ガラス窓に身体を打っただけで、特に怪我はなかった。

「さすがだな。とりあえず、車に戻ろうぜ」そう言う、鵜飼の口元がほんの少し引き攣った気がした。

ホテルを出て、車に戻る。この間、鵜飼は一言も喋らなかった。


車を走らせ、公園の近くに着いた。

車の中では〝team crow〟の元リーダーが鵜飼を心配していたと伝えただけで、依頼の話だとか、中学の話に花を咲かせることはしなかった。

俺が車から降りるときに、お金の入った封筒を受け取った。最後に一つだけ聞きたいことがあった。

「朧月事務所を知っているか?」鵜飼の目を見て言った。

「さあ…知らない…」鵜飼の瞳孔が少しだけ大きくなった気がした。


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