訂正しなければならないこと
「てめぇ、調子に乗ってんじゃねえぞ」
男の言葉には力が入っていなかった。その分、男の目には力が込められている。今すぐにでも飛び掛かってくる雰囲気がある。
「ひとつ、いいこと教えてやるよ」男は息を切らしながら話し始めた。
「柊を覚えているか?」
「それがどうした」
「今何やってるか知ってるか?」
「さあ」
男の声にだんだんと力が入っていた。拳銃を拾うかもしれないと、少し身構える。
「今はな…」男の顔がいやらしく悪い。椿原を思い出した。この顔をすると、人を馬鹿にしたように笑う。「今はな、体を売って歩いてんだよ!体を売って、売って、売って!生まれた子供は海外に売って、売って、売るんだよ!」
「だからなんだ?」男は、俺が動揺するのを誘っているのかもしれない。だが、その行為は無意味だった。
「なんだよ、シラケてんなー。中学からの友達じゃねえのかよ」
「別に…」
「ま、あん時も、俺に体を売ったから、俺があそこに行ったわけで。いやー、中学生はいいな。発展途上だからよ、少しキツかったけど、そこそこ楽しめたし」
男は俺に動揺させようとしたのなら、それは失敗だ。俺は、柊のことなどどうでもよかったからだ。もう少し考えて、作戦を実行すべきではないだろうか。と、男に対して言いたくなる。
約束の十五分はとっくに過ぎていた。
こんな男が、父親を撃ったと思うと、虫唾が走る。
深く息を吸って、吐いた。
ナイフを握る手に力を入れ直す。
目の前の男をさっさと駆除したかった。話のことなんかどうだっていい。ただガタイがいいだけで、頭の切れない、馬鹿な害虫としか思えない。殺し屋と謳って、お金や体を貰うような、そんな男が、ものすごく、不愉快だ。
地面を蹴って、一気に間を詰める。手前に引いたナイフを振る。金属同士がぶつかる音がした。男は俺のナイフをドスで受け止めていた。エッジ同士が直角に交差した形になっている。
つくづく馬鹿な害虫だ。
俺はナイフを回転させ、ブレード部分をドスのエッジに滑らせ、下ろした。
男の親指が落ちた。
「ドスで受けるか、普通。馬鹿だろ」
「うるさい」男の親指は落ちているが、ドスは持ったままだ。少し感心した。
男はドスを振った。
俺はフィンガーガードではじく。
男の手からドスは離れ、男は膝から崩れた。ナイフを男に向ける。
最後に言いたいことはあるか?
そう言うつもりはなかったが、男は口を開いた。「お前も、俺と同じ殺し屋だ。誰かに駆除されてしまえ」と。憎しみのこもった目が、俺を向く。
だが、そんなことは、どうでもよかった。ただ一つだけ、訂正しなければならないことがあった。
「殺し屋?何それ。俺はスイーパーだ」




