エースなルーキー
地面から、熱気がにじみ出ている夏。
四畳半の部屋で、俺は横になっていた。倒れていると言った方が近い。
人の影が見えた。何故か、父の姿だと認識している。
「おい!」父は怒鳴りながら、俺の髪を引っ張る。不思議と痛さは感じなかった。なのに、俺は「痛い」と泣いていた。
涙のせいで、父の顔が歪んで見えた。次第に父の顔は変化し、唇が膨れ、髪の毛がぼさぼさになってくる。あれ?と思うと、その顔は椿原の顔になっていた。
「ビジネスの邪魔だ」椿原の顔は嫌らしく悪い。
気が付くと、四畳半の部屋は、ビルに囲まれた裏路地になっている。椿原は、俺の髪を引っ張り上げて立たせようとした。すると、椿原の首筋に切れ目が入り、そこから血がにじみ出てきた。徐々に首から血が吹き出し、椿原は崩れ、血だまりだけが残っている。血だまりを覗きこむと、自分の顔が見えた。血だまりに映る自分の頭上に、一羽の蝶が舞っていた。
夢だと気づいたとき、俺は車の中にいた。
「やっと起きたか」
懐かしい声が聞こえた。夢の続きだと信じたかった。
「久しぶりだなー。会いたかったぜ、カラス」
後部座席の俺の隣に座っているのは、中学の夏に共に行動していた、鵜飼拳汰郎だった。今は金髪でもなく長髪でもないようだ。運転席にいるのは知らない奴だった。鵜飼の手下なのだろうか。
「何故…」
「それは、どういう意味だ?〝何故〟車の中にいるのか、それとも、〝何故〟隣に鵜飼がいるのか」鵜飼は楽しそうに言葉を並べた。「きっと両方だな。正解だろ」手を叩き、声を上げて笑っている。
「俺が何であろうと、カラスには関係ない。と、言いたいところだが…」
鵜飼は書類を渡してきた。仕事だとすぐに察しがついた。
「それ、今回駆除する相手な。そんな大物に対する依頼が来るなんて、俺も鼻が高いぜ、なぁ、カラス」
書類に載っている人物は市村四朗と言う名の男。役職は国会議員だそうだ。コイツのどこが大物なのか俺には分からなかった。
「いやー、しかしだよ。カラスもすっかり有名人じゃないか。この世界のエースルーキーみたいな?」
「有名人?」
「そうそう。だからよ、少しは気を付けた方が良いぜ。みんながお前を狙っている。いい意味でも悪い意味でも」
「どういうことだ?」
少しだけ嫌な予感がした。中学の夏もみんなに狙われた。悪い意味で。
「だって、お前、デビュー戦であの大物息子を駆除したんだろ?」
「⁉」鵜飼の一言で、全身から汗が出てくる感じがした。何故、鵜飼が知っているんだ?俺が有名だからか?椿原が同級生だからか?椿原が駆除されたことについて、なんとも思わないのだろうか………ないか。
「そのあと、大物で言うと…あぁ、サブちゃんか!」鵜飼は大声で笑い始めた。
「バックにいろんな組織がいるのによ、躊躇なくヤったらしいな」
「なんでも分かるんだな」鵜飼の情報の多さに少し驚いた。
「あー、知り合いに、情報屋がいるからよ…あれ?探偵だっけか?まあ、いいや。とにかく、この世界は情報が無いと勝負に勝てないからよ」
「あと、金だろ」
「お、よく分かってんじゃん」
デビュー戦で学んだ。だから、知っているだけだ。




