最後の始まり
南条を駆除した後の数日間、俺はネットカフェで生活していた。大人がギリギリ三人入れるスペースに、マットが敷いてあるタイプのやつ。そこで、生活していた。
無料で使えるシャワー室に入ると、先客の男がいた。
「あれ、あんたもココ使うのか?ごめんよ。もう少し待っていてくれ」男は慌てて、体を流し始めた。
「気にしなくていい」急いでるつもりはない。男にそう言った。男は「そうか」と言ったが、変わらず、慌てながら体を流している。
「この時期、いくらネカフェでも寒いよな」少ししてから男が話かけてきた。「兄ちゃんも大変だな。ネカフェで生活するのも限界だろう?」
「そうだな」話す気は無かった。が、一応、話を合わせることにした。
「だよなあ。もう少し、稼げれば、ビジネスホテルにでも泊まれるのになあ。兄ちゃんは、何で、ココで生活してるの?」
「別に………便利だから」関係ないと言うつもりだった。けど、まあ、いいか。全員が、害虫ではない。少しくらい、話してもいいか。
「だよなあ。便利だよなあ。あ、兄ちゃん、空いたよ。悪いね、待たせて」慌てていた割に、時間がかかっていたような気がした。
俺がシャワーを浴びようとしたとき、男の姿は消えていた。
「なんだ…」
あれ?と思った。この感覚…久々だ…。榎本は今どうしているだろうか。何故か俺はそう思った。
シャワー室から戻り、部屋に設置されているテレビの電源を入れた。
『続いてのニュースです』
ヘッドホンから流れてきたのは、女性アナウンサーの声。不動の人気を誇る、香織アナウンサーだ。夕方のニュース番組を放送している。
『きょう未明、男性会社員刺殺事件の犯人が逮捕されました』
「⁉」鳥肌が立った。
『これは、今年八月、男性会社員、椿原仁さんが刺殺された事件で、住所不定無職の男が殺人の疑いで逮捕されました』
椿原は俺が駆除したはずだ。俺じゃない奴が逮捕されている。何故だ。あれでも椿原は
生きていたのか。失敗だったのか。
俺は全身から汗が出てくる感覚がした。




