踏ん切り
「だから、お金だよ。お金。お金があればなんだってできるんだよ」優越感に浸かっているように見えた。それを見て、俺の体の内側では気泡がふつふつと弾けていく。
何に怒りを感じた?
同じ内容の話を聞いたから?違う。
椿原が生きていたから?違う。
情報を簡単に変えられるから?惜しい。
お金が全てだから?そうかもしれない。
結局、お金なんだ。事実、俺もお金で動いている。お金を得るために、駆除をする。自分が生きていくために、駆除をする。
なんて、不愉快なんだ!
踏ん切りがついた。このナイフで、目の前にいる、醜い害虫を駆除する。
俺は椿原に近づき、ナイフを振った。が、当たらなかった。
「えっ、ちょ、ちょ」椿原の顔に焦りの色が見え始めてきた。
俺は構わず、ナイフを振った。が、当たらなかった。
「ちょっと、ま、待て。誰なんだ?依頼されたんだろう。いくらだ、いくらで雇われた?ぼ、僕は、その倍を出そう。だ、だから、まず、それ、しまおうか…」
「ちっ…」
この光景、とても不愉快に感じた。だから、思いっきり、ナイフを振った。今度は当たった。
椿原は頭を抱えて、その場にしゃがみ込んだ。よく見ると、ナイフが当たったのは服だけだった。
「くそっ…」ナイフの柄頭に当たる部分で壁を殴る。
何故、当たらない。相手が、知り合いだからか。
そんなことを考えようとしたとき、前の方から音がした。びちゃびちゃと、水をこぼすような音がした。椿原が吐いていた。血混じりの吐瀉物を吐いていた。
この瞬間、俺は全身から力が抜けた。地面に崩れるほどではない。だから、無駄に力が入っていたのかもしれない。
緊張していたのかもしれない。
恐怖を感じていたのかもしれない。
無駄な力が抜けたのと同時に、俺の中の〝何か〟が消えた。
俺は椿原にもっと近づき、ナイフを振った。また、当たる。が、今度は確実に、椿原の体に当たった感触がした。
もう一度振る。
肉が切れた。その感触がナイフから伝わる。
首を狙う。切れた。血が噴き出す。
気が付くと、無我夢中でナイフを振っていた。椿原はもう動いていない。椿原はもう喋らない。椿原の体は傷だらけで、そこにあるだけになっていた。




