その息子
渡された書類から目が離せなかった。
「今回はその息子だ」
「こいつ、生きてるのか⁉」
「生きてるもなにも、死んでたら駆除の依頼は来ないだろ」
「こいつ、死んだんじゃないのか⁉」
「何故そう思うんだ?」
「ずいぶん昔に、テレビでそう報道したって…」
「お前は、テレビの情報を信じるのか?」
手に持っている、書類の写真に写っている顔は、髪の毛で目の位置が分からない。さらに、タラコくちびるで、半開き状態だ。
意識はしてないが、あの時蹴っ飛ばした感覚が蘇る。
手に持つ写真に写る、春に駆除された父親の、当時害虫がたかっていた、その息子の名前は〝椿原仁〟だった。
今、俺の目の前にいるのは紛れもなく、あの椿原である。
「烏山君がなんでここにいるの?」
その問いに答えるつもりはなかった。
「まあ、いいや」椿原はつまんなそうに背を向けた。俺に背を向けるとは、無防備にもほどがある。ポケットの中の拳はさっきよりも汗ばんでいる。
そろそろヤるのか…。
ポケットから、ナイフを取り出そうとしたとき、椿原が話しかけてきた。
「そういえばさ、鵜飼のこと覚えてる?ほら、鵜飼拳汰郎だよ」
「ああ」覚えているというより、さっき思い出したと言った方が正しい。車の中で思い出した。気分のいい思い出ではなかった。
「その鵜飼にさ、この間会って、女渡すからお金くれって」椿原は顔だけ俺の方を向けた。そして、笑う。「ホント、可笑しいよね」
椿原の言おうとしていたことは分かった。
が、そんなことはどうでもいい。ただ、依頼を遂行するだけだ。
「そうそう。烏山君って…」椿原はまだ話を続ける。「あの時、鵜飼とつるんでたよね。今は一緒じゃないんだ」
「そんなことは………、どうでもいいだろ」
俺は、ポケットからナイフを取り出した。




