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一難去って
足音は複数ではなかった。一人だ。
鵜飼だろうか。俺は振り返り、確認した。
「榎本!」思わず声を上げてしまった。声を上げたことに少し、恥ずかしさを感じた。
「お、びっくりした?」
「無事だったのか」
「無事もなにも、大変だったよ。烏山君、見捨てるんだもん」
「そんなつもりはない」
「大丈夫、分かってるって。おかげでいろいろ分かったし」
「いろいろ?」
「まあ、とにかくどこか行こう。その子、柊さんだよね。保健室の方がいいかな」
そう言って、榎本は柊の服を直し、一緒に保健室へ向かうことにした。
柊には擦り傷が付いていた程度。他に外傷はなく、行為まで行くこともなかったようだ。
「よかった。一人で帰れる?」榎本の問いかけに、柊はうなずいて答えた。
保健室を出るとき、柊と目が合った。いとおしい目で俺を見ていた。だが、俺は何もすることなく、保健室を後にした。




