飲み込んだ嘘
桃色の珊瑚
道を描く白い貝
出迎える色とりどりの魚
ーーこれは夢、よね?
白い道の先にある、見たこともないデザインの建物は、城と形容してもいいような大きさの豪邸だ。
大きな扉の前に立って此方に手を振ってくれている彼女は、綺麗なレモン色のワンピースを着ている。嬉しそうに目を細めて口角を上げて、ずっと見たいと思っていた表情を浮かべている。
やっと会えた。今すぐにでも駆け寄って声をかけに行きたい。
なのに、なんでだろう。違う気がした。
彼女との間には、白い貝殻が敷き詰められた一本道しかないのに。
会いたかった。ずっとこの時を待っていた。それなのに、会えないのだと思っていた。この違和感はどこからくるのだろう。それでも喜びが勝り、駆け出そうとした瞬間、違和感の正体がわかった。
ーーわたしの足は、下半身はどうなったの?
まるで物語にでてくる人魚のような下半身。きらきらと光を反射させる鱗。水を切るための尾鰭。
ーーどうしてこんなものに?
驚いて顔を上げれば目の前にいる女性も同じように下半身が魚みたいで。違和感の正体に気がついた。
ーーここは、どこなの?
疑問符だらけの頭の中。
ここは夢の中だと思っても、風が吹いているような水の流れや遠くにいる大きな魚の影、魚の群れが水を掻き分ける音。風になびく海藻や魚たちに寝床を与える無数の珊瑚。
それらが実際に起こっている事だと私を説得しようとする。
器用に魚の部分を動かし、泳ぐように彼女が近づく。なんだか怖くなって逃げようとしても、身体を動かせない。
緊張と焦り、怯えに飲み込まれそうな中、彼女が私の手を握り屈託のない笑みを浮かべた。それにつられて、私もぎこちない笑みを浮かべる。
ーーやっと、会えたね
笑顔で彼女が囁く。私もそれに嬉しいと本心を話せば、彼女はより笑みを深めた。
考えたって今の状況はわからない。なら、楽しんだほうがいいや。
楽観的な思考で最初に思ったことに、蓋をしたんだ。
それがたとえ間違いだったとしても。
逃れられない迷宮の中
ほんのりと光る灯火
遠ざかる月
苦し紛れの嘘
私は、騙されたふりをしていたの。
見間違えるほどそっくりな双子。
伸ばされた手と、それを振り払う腕。
彼女たちはどこから、かわっていたんだろう。